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最近読んだ本の話 vol.91

 「最近読んだ本の話」の第91弾です。ここのところ寒い日が続きました。今週は最近読んだ本を3冊ご紹介します。

1、寺地 はるな『ガラスの海を渡る舟』

大阪の心斎橋からほど近いエリアにある「空堀商店街」。
そこには、兄妹二人が営むガラス工房があった。

兄の道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、「みんな」に協調したり、他人の気持ちに共感したりすることができない。
妹の羽衣子は、道とは対照的に、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせるが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見つけられずにいる。
正反対の性格である二人は互いに苦手意識を抱いていて、祖父の遺言で共に工房を引き継ぐことになってからも、衝突が絶えなかった。
そんなガラス工房に、ある客からの変わった依頼が舞い込む。それは、「ガラスの骨壺が欲しい」というもので――。

Amazonより引用

 兄・道と妹・羽衣子の2人が、祖父のガラス工房を継ぐお話です。道は小さな頃から落ち着きがなく、キイキイした妹の声とか、あいまいな質問だとか、時間通りになのかをすることが苦手です。妹の羽衣子は、道の行動にイライラして、歯に衣着せぬ感じで道に対してガンガン文句を言いますが、道の方は困ったなあという感じで受け止めて1つ1つ言葉を返しています。工房を始めた頃はそれぞれ完全な別行動をしていた2人ですが、だんだんと距離が縮まっていきます。大切なことがたくさん書かれてあって、人と関わって生きていくのはいいなあ、と思える物語でした。


2、ウィル・ワイルズ『フローリングのお手入れ法』

恐ろしくもおかしいカフカ的不条理!
猫をソファに上げないこと、床を汚さないこと……。
完璧主義の友人宅の留守番を引き受けたぼくの悪夢のような八日間。

部屋はただの空間ではなく、精神の表出、知性の産物でもある……われわれは部屋をつくり、部屋はわれわれをつくる。それがオスカーの信念だった。神経質で完璧主義の音楽家である友人オスカー宅で、二匹の猫を預かり留守番をすることになったぼく。スタイリッシュなフラットでの気ままな日々が待っているはずだったが、思いもかけない展開に……。そこここで見つかる友人の細かい注意書き。フローリングには万全の注意を払ってほしい、コースターなしで床に飲み物を置かないこと。猫をソファには絶対上がらせないこと。ピアノで遊ばないでほしい……等々。次第に追い詰められていくぼく。恐ろしくもおかしいカフカ的不条理世界。悪夢のような八日間の果てにオスカーから聞かされたのは? ベティ・トラスク賞受賞作。

Amazonより引用

 主人公は、学生時代の友人で音楽家のオスカーに頼まれて、しばらく留守にする住居(とても広いフラット)の留守番をすることになります。主人公はイギリスに住んでいるライターですが、官公庁の説明パンフレットの文章を書いたりする仕事に不満を感じながらも、そこから抜け出せないでいます。潔癖症のオスカーがなぜ主人公に留守番を頼んだのか?主人公は到着初日にフローリングの床にワインのシミを作ってしまいます。
 とんでもない博識で、なんてことはない1つの物に対する描写が多種多様で変幻自在な装飾が施されて素晴らしい読み応えです。最後の方でオスカーがなぜ主人公に留守番を頼んだのかがわかるのですが、そのためにこんなに色々なことが起こってしまったんだ!


3、山田 詠美『私のことだま漂流記』

初めて「売文」を試みた文学少女時代、挫折を噛み締めた学生漫画家時代、高揚とどん底の新宿・六本木時代、作家デビュー前夜の横田基地時代、誹謗中傷に傷ついたデビュー後、直木賞受賞、敬愛する人々との出会い、結婚と離婚、そして……
積み重なった記憶の結晶は、やがて言葉として紡がれる。「小説家という生き物」の魂の航海をたどる本格自伝小説。

私は、この自伝めいた話を書き進めながら、自分の「根」と「葉」にさまざまな影響を及ぼした言霊の正体を探っていこうと思う。
ーー山田詠美

Amazonより引用

 山田 詠美さんが書かれた言霊の本、ということで絶対読みたいと思いました。自伝のようなお話を読みながら、私と山田 詠美さんにはこんなにも共通点があった!という発見があり、ゾクゾクしながら読みました。山田さんがデビュー後に、さんざん批判されたり抗議の手紙を受け取ったりしていたことを知って驚きました。私が高校生の頃に山田さんの作品を初めて読んだ時には、そんな風潮はまったくなかったと記憶していたので不思議に思ったのですが、直木賞を受賞した後に激変したそうです。嫌な感じだな。
 山田さんの文章の中で、山田さんが会った作家さんたちやお世話になった人たちが甦っていて、そういうところが好きだ!と思いながら読んでいたら、ご本人がそういうことを意識して書かれたと後半の方で書かれていたので、やっぱり大切にしたいことが似ている人だと実感しました。これからも山田さんの作品を読んでいきたいです。


 今週は「最近読んだ本の話」を書くことができました。なかなか読むのが追いつかないですが、マイペースで少しずつやっていこうと思っています。最後までお読みくださってありがとうございました。

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