見出し画像

第1話✴︎土曜日は「すり鉢の底」✴︎ by 根津イーディ

2019年6月15日[土]

”フィーバー金曜”が終わったのが朝方だったため発注をしようと思ったら発注期限の6時を過ぎており、ハマグリの味のするトマトジュースを発注しそびれる。涙。

(今日この人が来るんじゃないかな)


割とそういう勘があるタイプなので、今日は絶対初日にきてくれたO上さんがいらっしゃるだろうと思っていたから、そのトマトジュースを発注しておきたかったのに!そういう時に限ってそれを飲みたい人が重なる、そういう酒場あるあるをその時もう予感していた。(そしてそれは的中する)

          ✴︎            ✴︎            ✴︎

「根津という町は右脳と左脳の中間地点、いわゆる脳のすり鉢の底ね」

そう言ったのはムンロ王子、今週月曜日のことだった。
わたしも最近”右脳”と”左脳”の中間地点について考えていたのでとても驚く。
もっともわたしの場合は町のことではなくわたし自身の”右脳[中島桃果子]"と”左脳[スギタアキコ]”の脳内配分のことである。それはわたしが2011年に書いた短編「月子とイグアナ山椒魚」に登場する”イグアナ山椒魚”の苦しみや葛藤、イグアナでもあり山椒魚でもある彼の心の配分について、とも言える。

”ムンロ王子”は東大の法学部を卒業し、自身で経営もされながらなんと売れっ子占い師でもあり、シャンソンを歌う芸術家でもある。毎週月曜日に”ひいらぎ”という根津のBarを間借りしてお店をやっていたのだが、ちょうどそれが今週でラストとなった。わたしが始めた「ヴィンテージウイスキーと本のための店」であり「未完藝術のための実験劇場」でもある根津のお店「根津イーディ-Innocence Define-」ーーしかも月火が定休日ーーにムンロ王子をお引越ししてはどうかという提案を、これまた初めてふらりと入ってきた常連さん(でありムンロさんの古いお客様)から提案され、月曜日、ムンロ最終日の「ひいらぎ」にわたしは参戦してきたのである。「ひいらぎ」・・・・「ひいらぎ!?」なんか聞いたことあるぞと思っていたら、それは今わたしが”イーディ”をやっている箱の前前店長であったタクロウのお店なのであった。

タクロウくんとは牛込北町(神楽坂)のBar Stockで出会ったのだが、実は奇縁があって、彼は元々神楽坂のBarで働いていたのだけど、わたしはそのお店から歩いて3分ほどのワインBarでこの5月まで毎週土曜日働いていたのである。その上、この”イーディ”こと「Innocence Define(イノセンスディファイン)」という店名は2012年に出版したわたしの著書「誰かJuneを知らないか」に出てくるBarの名前なのであるがそこにはPTSというバンドが出てくる。そのバンドは友人のギタリスト/パブロのやっていたPTPというバンドをモデルにしているのだが、なんとタクロウくんはPTPやパブロの「ローディ」をやっていたことがあるらしい。

そんな訳でまだ合わぬムンロ王子のその前にタクロウに筋を通すべく、わたしはその前の土曜日にタクロウくんと会って「これこれこういう話があるけどムンロさんの引っ越しは可能か」を訊いてみたのである。もちろんこれはこちらサイド[脳]での進行であって、ムンロさんのおつもりに関しては会ってみないと当然わからないし無理強いするつもりもないのである。

果たしてムンロ王子のラスト月曜日は大変盛況で、そこはスピリチュアルとアングラとシャンソンの”るつぼ” それはもはやわたしの脳内をビジュアル化したようなものであり、笑 わたしは大変居心地よく過ごさせてもらった。

その時にムンロ王子(普段は女装をしている)が「わたしはね、まあ東大を出てさ、経営もやって”左脳”をある程度極めてみてね、そしたら次は”右脳”かなあという感じでこうやってアングラ芝居をしたり、シャンソンを歌ったり、しているのよ」と言った。そして続けてこう言ったのだった。

「根津っていう町は、東大と東京芸大のちょうど間にあるでしょう?だからまさにこの町って右脳と左脳の”すり鉢の底”なのよ」

[⤴︎「魔女と金魚」という本を出しているんだから”金魚スパークリング” のボトルと一緒に撮るべきだよ、と言われて]

            ✴︎            ✴︎           ✴︎

その日からわたしは「すり鉢の底」としてのこの町、そして自分の店について沈思黙考している。

ムンロ王子のお話はまた遡ってアーカイヴするので昨夜に時系列を戻そう。

「いらない本を持ってきて気になる本を持って帰る」そんな図書室のような空間にしたい。そういうことをTwitterでも言っているだけど、最初の持ち込み者が昨日やってきた!笑

ホリエモンさんは我が親友、ジャズシンガーの千穂さんのファンであり追っかけである。が、まあこのようにバーターとして、笑、わたしの動向も追いかけてくださり昨日に至る。彼は一眼レフでたくさん写真も撮ってくれたので、
今後彼の写真をたくさんここで使わせてもらいたい。

わたしがこの店で考える「すり鉢の底」における右脳と左脳は、
左脳が”酒場としてのイーディ”であり、右脳が”芸術的溜まり場としてのイーディ”である。デビュー前からデビュー後も11年、ずっと酒場で過ごしていて、時にそれは作家的ライフを応援してくれている人たちに「いつまでそういうのやるの?もう知らない」と言わせてしまったりもしたし、そのことによって作家的キャリアはいつも蛇行していたのだけれど、今となっては「酒場で働くこと」と「芸術家」であることが同じ経験値であるからこそこのお店は「すり鉢の底」であれるのだと思って、これまでの日々を誇りに思っている。

ただわたしも体は一つしかないし(しかも肺炎からの脱却中)、おいおい語るが、まさに「苦行」という5月が、最後の31日まで、なんなら6/1のオープン日に隣が火事になるところまで続いていたので、兎にも角にも6月の1日には店に立つ、ということだけで始まった最初の日からまだ2週間、頭の中で描いていることを順番に形にしていってはいるのだけど、皆が(もっとこうした方が良いんでない?)というアイデアの顕在化がスピードとして追いつかないもどかしさがある。笑。

”芸術イーディ”by 右脳 的には自宅の本をまずもっと持ってきたいし、東大と東京芸大に名刺配りに行きたいし、POPとかもちゃんと作って本も並べ替えたい。
友人作家たちーー詩人/文月悠光や、千早茜姫、佐々木譲さんーーなどの著書にサインをいただき、各々のコーナーを作って、それらを「貸し出し」と「販売」に分けたりしたい。そして何より2F! 2Fの照明のこと、灯体そのもののことも気になっているしとか、まあ色々やりたいことがたくさんある。
しかしまず”酒場イーディ”by 左脳 的には、今何よりも大切なのは「未来のお客様」よりも「今来てくださっているお客様」その人たちをおもてなしするための1Fなのである。

本当にありがたいことに連日地元のお客様が、ふらりといらしたり、そして面白がってまた来てくれたりしている。そんな中でお客さんの好きなお酒を発注しておいたり、お客様の名前や好きなお酒を覚えたり、そういったことからまずやっていて、特に英多郎寿司の大将からアドバイスいただいたサラダはちょっと毎日試してみたいから、その仕込みなんかも、日々あったりする。(昨日はグレープフルーツをサラダに入れてみた。これこそ昔働いていた高級鮨屋"ふくだ”の大将に教えてもらったサラダを美味しくするコツなのだ♪)

そんな訳で例のトマトジュースを発注しそびれたということは”左脳モカコ”的には大いなる失点なのであった。笑。
同時に「2Fの照明のこと、信頼できる照明家に相談したい」とも右脳サイドで考えていて、それはまさにこの写真の[⤴︎黄色い帽子の人]、
大学の同期でありわたし主宰の芝居では毎回照明をやってくれているH氏を頭ではイメージしてたのであるが「左脳的作業的飲食的業務」で今は手一杯モカコ、
彼が根津界隈に住んでいるのを知っていたので、近々連絡をして「お酒ご馳走するから相談に乗ってくださいましな」と言おうと思っていた矢先に、なんと昨日、彼の方から直々に突然来てくれたのである、以心伝心!笑

[照明について相談中、の図]

[灯のつかない看板の電源に関しても動作確認してもらう]

こちらも遠慮なくアレもさコレもさ、とガツガツ訊くけど向こうも遠慮なくガツガツ飲んで行ったので、全体的によし。笑。

H氏に「天井桟敷の人々」というBarがすぐ近所にあって、そこでも当然芝居やらをやったり、町興し的なことをやっているということを教わる。
近々挨拶に行こう。
「天井桟敷の人々」だもんね、絶対アングラだし絶対芝居だよね。

昨日はそんな感じで、ホリエモンさんが本を持ち込んでくれたのを皮切りに、
初日にわたしに「本をたくさん置こう!」というインスピレーションをくれたO上さんーーハマグリトマトの代わりに、普通のトマトJにウスターソースとタバスコで対応したーーとそのお友達や、先週土曜日にふらっと来てから何度か来てくれた「がじゃん」が奥様を連れて来てくださったり[写真右]、この写真の空席になっている2席には順番に元東大生の女の子と、現東大院生の男の子がやってきて満員に、最後はその東大の子たちとH氏が残って、男の子が研究している「ナノシートに穴を開ける」ということについて語りあい、まさにここは「右脳と左脳のすり鉢の底」であった。

ナノというのは1ミクロンよりもさらに数千分の1とか小さい粒子の単位で、それを薄いシートにしたものをナノシートというのだが(ここまではザギンで働いていた時にナノ関係の人がきたから知っていた)実はそのシートがエッジの部分しか活発に活動していない可能性があって、じゃあシートに穴を開けてエッジを増やせばもっと活動するのではないか、というそういう研究を彼はしているのだった。

そしてその穴の空いたーー限りなく網状のーーナノはH氏にとって無関係かというと、それはいわゆる電池や電極になったりしていくものであって、照明家とエネルギーは切っても切り離せない存在な訳で、やはりここも「右脳と左脳の接地点」となる訳なのである。

実は中盤、わたしが英多郎寿司にランチに行った帰りにふらっと立ち寄ったインド雑貨のお店で買ってきた「Thinking Bowl」があるフィーバーを巻き起こすのであって、カウンター中のみんなが腹を抱えて笑ったのであるが、それはまた後ほどor明日書くことにする。

これが事件の発端となった楽器、シンキングボール。

そしてこれはわたしがそれを鳴らしているところ。
その後このシンキングボールは緊急事態を告げる「モールス信号」としての役割に変貌していく・・・笑。(続く)

がんこエッセイの経費に充てたいのでサポート大変ありがたいです!