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低気圧の夜こそ読書。本の世界に眠りに落ちていける小説 3選


雨の降る夜。窓の外から雨の香りがしてくる夜。低気圧の影響からか、ほんのり頭の奥が痛んで、体が重い。メンタルもぐずぐずになる。

そんな日はテレビやラジオを消して、スマホを遠くに置いて、部屋の明かりを暗くして、本を持ってベッドに籠ってしまう。低気圧に苦しんだ今日はもうおしまいにする。

紙の本をベッドでめくりながら読んでいると、本と現実の境目があいまいになってくる。まどろみのなかで必死に文章を読む。本を読みたい気持ちと眠気で夢と現実を行ったり来たりしているように感じる。そして、本の世界に眠りに落ちていく感覚が好きだ

しんどい雨の夜に落ちていきたい物語、ベッドの中で読むのが好きな3作品をご紹介します。


「神様のボート」 江國香織 著


昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”――恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遥かな旅の物語。

新潮社HPより

どこまでも美しく、静かな世界に落ちていける作品

かつて愛し合った人との愛で心が囚われてしまった母の葉子と、娘の草子。ふたりがふたりで生きていく姿と、ふたりでいることができなくなる成長と葛藤の日々が描かれている。

世間的には浮世離れしているといわれる葉子の、自由でわがままで甘ったるく美しい言動。そして葉子を心から愛し、誰とでも対等に話ができる聡明な草子。この親子の会話と暮らしの描写がとても狂気じみていて、たまらなく愛しくなる。

葉子が愛している男性やふたりを大切に思う男性、ふたりを取り巻く人々も登場するが、どこまでいっても、これはふたりだけの物語だと思う。葉子と草子の長く静かなロードノベルだ。


「キッチン常夜灯」長月天音 著


住宅街の片隅に佇む小さなビストロ、今宵もオープン。
街の路地裏で夜から朝にかけてオープンする“キッチン常夜灯”。チェーン系レストラン店長のみもざにとって、昼間の戦闘モードをオフにし、素の自分に戻れる大切な場所だ。店の常連になってから不眠症も怖くない。農夫風ポタージュ、赤ワインと楽しむシャルキュトリー、ご褒美の仔羊料理、アップルパイなど心から食べたい物だけ味わう至福の時間。寡黙なシェフが作る一皿は、疲れた心をほぐして、明日への元気をくれる――共感と美味しさ溢れる温かな物語。

角川文庫HPより

すこし疲れてしまった心に、温かなあかりを灯して眠りにつきたいときは、この作品。

冒頭、主人公の自宅が火事の被害に遭い、寝床を失うシーンから物語がはじまる。ファミレスの女性若手店長として日々奮闘しながら、帰る先は仮住まいである元社宅の古い建物。絶望とはこのことかと読んでいて苦しくなるが、そのまま読み進めると、主人公とともに「キッチン常夜灯」に出会うことができる。

夜だけ営業しているレストラン。お店を見つけてドアを開いて、店内に入って席につくまでの描写が細かく描かれており、主人公とともにここはどんなお店なんだろう?と少しの恐ろしさと胸の高鳴りを楽しむことができる。

シェフの作る心のこもった料理の数々が、悩みを抱える人々の前に出され、そっと寄り添ってくれる。

問題を抱えていない人なんていない。多くの人が眠っている夜だからこそ、心のこもったあたたかい料理を前にしたからこそ、すこしだけ自分の弱い部分をさらけ出すことができるのかもしれない。


「東京百景」又吉直樹 著


振り返れば大切だったと思える、「ドブの底を這うような」青春の日々の記憶

芥川賞受賞作『火花』、4月公開の話題の映画の原作小説『劇場』の
元となるエピソードを含む100篇のエッセイからなる又吉文学の原点的作品
『東京百景』が7年の時を超えて、待望の文庫化。
18歳で芸人になることを夢見て東京に上京し、自分の拙さを思い知らされ、
傷つき、苦しみ、後悔し、ささやかな幸福に微笑んだ青春の軌跡。
東京で夢を抱える人たちに、そして東京で夢破れ去っていく全ての人たちに
装丁を一新し、百一景と言うべき加筆を行い、新しい生命を吹き込んで届けます。

角川文庫HPより

夢と現実の境目でふらふらしながら眠りに落ちたいときはこちらの作品。

又吉先生のエッセイを読むと、その情景をわたしも同じ気持ちで見たことがあるような気がして、強い共感のあまり涙が出てしまうことがある。

わたしは東京に住んだことはないけれど、この作品にもそういった場面がいくつかあって、いつもとても不思議な気持ちになる。

芸人の夢に向かって東京暮らしをする若手芸人の日常。かけ離れた境遇なのに、その日々をその感性で書き記している文章に、とてつもなく共感してしまう。わたしはこの感情を知っていると思う。なぜなんだろう。

芸人を目指していなくても、東京に住んでいなくても。

この本を読むと、自分が日常のなかで感じているけれど見過ごしてしまっている、自分のなかにあったようななかったような感情に気付くことができると思う。(とても言葉じゃ言い表せない!)

一度読んでも理解が追い付かないような難解な文章もあり、ひっかかりを感じてなにかを感じ取ろうと読み込んでいるうちに、するりと眠りに落ちてしまう。そして、不思議な夢を見て目覚めることもある。夢と現実の間にあるエッセイだ。


本の世界へ眠りに落ちていく


低気圧でしんどい夜。読書なんて頭に入ってこないと思う方もいるかもしれないけれど、わたしはすこし不調を感じるときこそ、物語の世界にどっぷりと沈んでいくことができる

自分の生きた今日という一日と、本を開いた先にある物語が混ざり合いながら夢のなかに落ちていく。あの感覚が大好きで、雨の夜がすこし好きだ。

雨の気配のする夜こそ、本の世界に眠りに落ちていく体験をおすすめします。

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