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9.短編。(1)

八年ぶりの、結構本気の片想いが、
告白することも無くあっさり終わってしまった。

「実はこの前告白されて、その方とお付き合いすることになったんだ」

こんなことなら告白して玉砕でもした方がマシだった。
もしその人より前に告白してたら。
もしあの時その人にないものを見るんじゃなくて、あるものを見ていたら。
もし自分の本当の気持ちが分からないことを理由に、連絡を渋らなかったら。

もし、もし、もし、もし、もし。

"もし"が溢れてきて、自分で呟いたくせに"もし"の渦に飲み込まれてしまいそうだった。

悲しいかな、わたしは恋愛経験が乏しすぎるがゆえ、三十一歳にもなってこんな時に立ち直る術を持ち合わせていなかった。
今までどうにか自分で解決してきてしまったわたしは、曲がったプライドだけ育ってて、人に頼ることも下手だった。

子どもの時みたいに、わんわん誰かに泣きつけたなら楽だったのだろうか。
次の日の目の腫れを気にせずにお酒に溺れられるほど若ければ、立ち直れただろうか。
彼女が出来たと伝えるあのひとを無我夢中に引き止められるような女のかわいさと面倒くささが僅かにでも備わっていたなら違った未来があったかもしれない、と思う。そう思うほど、自分の人生に嫌気がさす。

この先片想いなんてできるのだろうか。
余裕も気力も純心も、もう残っていないのに。

励ましか、嘲笑か。
春の足音に紛れて吹いた突風が、私の前髪を乱して去っていった。


(完)

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