インタビュー:ピアニスト和田華音×川崎槙耶『春はいけにえ。秋はピアフェス。 ー「儀式」の再構築ー』(後編)
2024年10月18日、横浜みなとみらいホールにて「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」が開催されます。このフェスティバルの第1部『春はいけにえ。秋はピアフェス。ー「儀式」の再構築ー』(12:00開演)では、ピアニストの和田華音さんと川崎槙耶さんが、ストラヴィンスキー作曲の「春の祭典(連弾版)」を披露します。
前編 は、本公演の魅力に迫りました。後編は、タイトルにもある「再構築」、そして二人の合わせ方について伺いました。
前編はこちら。
「再構築」と作品の同一性
公演タイトルにもある「再構築」という概念は、どのように表現されますか?
川崎槙耶さん(以下、川崎):まず、演奏という行為自体が再現芸術であるということが大きな意味を持つと思います。例えば、春の祭典という作品を劇場で上演する際、楽譜以外の要素を代替したとしても、春の祭典と呼ぶことが可能です。振り付けや美術、演奏者、ダンサー、楽器など、全て交換可能ですが、楽譜(=音符)だけはストラヴィンスキーのものでなければ、春の祭典という作品の同一性は保たれないものだと一般的に認識されています。つまり我々演奏家は、作品をその都度新たに構築するのではなく、作品に沿って「再構築」することを余儀なくされます。
ですので、ストラヴィンスキーの音楽を使わないで春の祭典を構築することは、通常、考えにくいと思います。もし私が自主的に公演を企画して春の祭典を新たに構築するなら、ストラヴィンスキーの音楽を使わない可能性もありますが、今回の公演では、ストラヴィンスキーの理想的な音響効果に基づいて演奏することを念頭に置いています。聴き手にとっても、「これが春の祭典である」と理解できる範囲で再構築することが重要だと感じたからです。
作品の同一性の境界は、どのように定義しますか?
川崎:境界線をどこに引くかは難しい問題です。私自身は、その境界線に捉われることなく、演奏の幅を広げることに挑戦しています。大学院でジョン・ケージの不確定性の作品を研究していた影響もあり、演奏の定義についても深く考えるようになりました。
作品の同一性がどのように現れるかという点は、究極的には人によって異なると言わざるを得ません。例えば、冒頭のドの音に特別な価値を感じる解釈者を想定した場合、演奏がその一音のみであっても、春の祭典とみなすことが可能かもしれません。一方で、多くの聴衆は楽譜とのおおよその一致度合いを同一性の基準としているように見受けられます。作品の同一性は常に曖昧なもののはずですが、現在では先の例のうちの後者、つまり「楽譜」が作品の同一性を担保しているという認識が持たれています。
「再構築」という概念にはどのような可能性と限界があると考えていますか?
川崎:再構築についても同様に、様々な意味が存在すると思います。演奏家が楽譜に書かれた音楽を「忠実に再現する」ということが美徳とされることが多く、多くの再構築はこの手段をとっています。一方で、それを限界と見做さないのであれば、様々なことが可能なはずです。楽譜に書かれた音を逸脱し、別のものへと解釈し直すことも演奏家には可能であり、歴史的にそうした演奏実践が行われてきたことも事実です。ただし、やはりこれも受け手の解釈と齟齬があるかどうかはまた別問題です。
私自身は、「再構築」と言ったとき、既存の枠にとらわれず、新しい視点からアプローチすることが重要だと思っています。しかし今回の公演では、聴き手にとっての新しい体験を提供できるように努めることを重視しています。
共演者とのコミュニケーション
初めて共演する人とのアンサンブルや連弾では、どのようなコミュニケーションを心掛けていますか?
和田華音さん(以下、和田):他の楽器とのアンサンブルでは、まず相手の楽器の意見を尊重することを心掛けています。例えばバイオリンやチェロの場合、私はその演奏者の意見をまずしっかり聞くようにしています。同じ共演者の立場ではありますが、最初は相手がどんな風に演奏したいのかを理解するために、相手の出方を伺います。もちろん、より良い音楽作りのためにピアニストの立場から意見を言うこともありますが、私はどちらかというと柔軟に合わせていくのが得意なタイプなので、相手が求めているものを探りながら進めることが多いです。このときに、相手の人柄も含めて理解しようとすることが大切だと思っています。
しかし、連弾の場合は少し異なります。ピアノ同士で隣に座って演奏するため、他の楽器とのアンサンブルよりも自然にコミュニケーションが取れます。これまで連弾をしたことがある相手は、友人が多かったので、よりスムーズに意見を交換し、調整ができました。ピアノ同士だと、同じ楽器ということもあり相手の意図を理解するのも早く、具体的な提案もすぐに出てくるため、合わせる際に躊躇なく対話を重ねていけます。
今回は川崎さんと連弾を行うわけですが、どのようなやりとりを通して演奏を作り上げていく予定ですか?
和田:川崎さんとの連弾では、意見がぶつかってもお互いに試してみて、二人共が納得できるまで擦り合わせていきます。今まで特にトラブルはなく、練習は驚くほどスムーズです。他は例えば、どちらが上(プリモ)でどちらが下(セコンド)を担当するかは、自然に決まることが多いですね。
川崎:今回は、「春の祭典」の第1部と第2部の演奏で上下をチェンジしようという話になっています。これは視覚的な不均衡をなくすためでもあります。
和田:具体的には、前半は私がプリモを担当し、後半は川崎さんがプリモを担当する予定です。
川崎:上(プリモ)・下(セコンド)をチェンジする際には、何かしらの演出を入れることを検討中です。演奏会をある種の儀式から脱却させたいという意図があり、そのための演出を考えています。
さらにお二人へのインタビューは続きます。
「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」
横浜みなとみらいホール 小ホール
■ チケット 全席指定 ¥2,000
■ 出演・プログラム
公演詳細は、こちらをご覧ください。
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