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短編小説

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#文学

掌編小説-ふとん

掌編小説-ふとん

 彼は隣で、眠っていた。

 彼が寝返りを打つと、固くて白いシーツがシャリシャリと音を立て、それは私の布団を少しだけ引っ張り、足元が、冷たい空気にさらされる。

 彼の背中は白くて、大きかった。

 布団からはみ出た背中は、柔らかい紙のようで、彼の肉体の中にある、彼の体を支え、守っている骨が薄い皮膚からうっすら浮き出て、それは寝息に合わせてわずかに動き、心地の良いリズムを奏でた。

 私はゆっくり

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掌編小説-海の見える景色

掌編小説-海の見える景色

「この海は青い」

 彼は遠くの地平線をぼんやりと見て言った。私はそんな彼を見つめていた。
防波堤の上で座る私たちは、同じ瞳の色をしていた。

 そっと寄り添ってみると、彼は受け入れも拒絶もすることもなく、ただ少しだけ体を強ばらせていた。

「私たち、ずっと一緒にいるね」私がいうと、
「当たり前さ、これからもずっと一緒だろうね」そう言って私の頭を撫でた。海風で冷えた身体に彼の心地良い体温が、頭の上

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掌編小説-月子-

月子は誰よりも真っ当な人間だった。

しかし、誰にもその言葉を理解することはできない。

もし月子みたいな人間がこの世界に満たされているとしたなら、この世界は破滅してしまうだろう。でも月子みたいな人間がこの世に一人もいなかったら、この世界の人々は、誰も救われない。

僕たちは理解し合えないけど、僕の隣にはいつも月子がいた。きっと月子も同じことを思っているだろう。しかし、それは本当にたまたまだった。

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