掌編小説-月子-

月子は誰よりも真っ当な人間だった。

しかし、誰にもその言葉を理解することはできない。

もし月子みたいな人間がこの世界に満たされているとしたなら、この世界は破滅してしまうだろう。でも月子みたいな人間がこの世に一人もいなかったら、この世界の人々は、誰も救われない。

僕たちは理解し合えないけど、僕の隣にはいつも月子がいた。きっと月子も同じことを思っているだろう。しかし、それは本当にたまたまだった。もしかしたら、僕にないものを持っている月子にどこか、憧れていた部分があったせいかもしれない。といっても彼女は、休み時間、机の上に石ころを並べるようなおかしな奴だった。彼女はそのような行動で周りに不思議がられながらも、僕よりも遥かにクラスメイトと仲が良かった。彼女は人に共感する能力が非常に長けているのだ。

「なんのために集めてるの、それ」
「ん?いいでしょ」

 月子の机に並ぶ石はいつもバラバラだった。丸い石も、尖った石も、小さな石も、大きな石も関係なく、毎度違う石ばかりを集めていた。もしかしたら、世界中の石が一度は月子の机の上に置かれるのではないかと思うほどだ。

「それが宝石だったらな」
 と言い返せば、
「宝石だって結局、石でしょ?」
 という話になった。
「そうだけど、全然違うよ」


 けれど月子は納得しなかった。簡単な話ほど、彼女には通用しない。これじゃあ、未来の恋人は月子に宝石を買ってやっても無駄になるんだろうな、とふと思った。


「ほんとうにわかってるんなら、世の中の女の子はこぞってダイアモンドなんて集めたりしない。偶然ダイアモンドだった、ならわかるけど」


 彼女の言葉は至極真っ当に聞こえたが、僕にはやっぱりわからない。だからこそ僕は彼女に憧れていたのだろう。彼女は人が生まれる前に持っていた記憶を、そのまま引き継いでいるのではないかと疑うほど、色々な言葉を持っていた。

月子は多分、宇宙人か時空を飛び越えてきたんだ。
僕は密かに思っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?