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森たまみ
2021年1月29日 18:48
彼はもの忘れが多かった。 お医者さんが言うには、これは認知症のような病気ではなく、単なる「もの忘れ」らしいが、それにしても病的なくらい、彼は色々なことを忘れやすかった。 例えば、財布や携帯を忘れるのはむしろ当たり前のことで、移動でのバスや職場で忘れるのならわかるけど、ポケットに入れたことさえ忘れる。それに、彼は何か手続きで自分の年齢、性別、住所、名前みたいな個人情報を書く時、それらをすっか
2021年1月26日 15:46
彼は毎日この海を眺める。 ぬるい砂浜に足を着け、その下に埋まった冷たい砂の温度を足の裏から感じ取る。波に押しやられて打ち上げられている瓶や流木、それらの破片を避けながら、海を囲うように歩く。 時折、波が足元までやってくると、その心地よさに身を震わせたりもする。そして、彼は海の中にあるたくさんの沈んでいるものたちのことを想像する。それから、まるでそれを知っていたかのように語り出す。けれども