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いのちの切符

 森岡正博氏の著書『人生相談を哲学する』を電車内で読んでいて、「宇宙に生まれたときに一人ひとりは“いのちの切符”を与えられた」という表現が悦に入って、毛布に包まれたような心地よさを得る。このかけがえのない切符を手にし、どんな邂逅的な旅に出るかが人の生き様なのである。
 人間はこの切符を偶然にも手に入れ、自身に命が宿っている。これを“宿命”とよぶ。これは奇跡的に生まれもったものだから変えられない。一方、生きる中で命が運んでいくのが“運命”である。だから、運命は未来のことだからどんな形にもできる。意外とこの2つは混同しやすいのだが、そもそも決まった運命など存在しない。つまり、人生は自ら切り拓いていくものというより、運ばれていくもの。たとえば、他人から頼まれたことを嫌だなと思って拒否すれば、その時点で新しい道(世界)は閉ざされる。そこに流れや縁起は生まれない。やはり、流れの中で、人生は自ら開拓しているというよりも、他者からの影響などを含めて周りの事物によってもたらされた夥しい体験によって人生は運ばれていく。自分には無限の可能性があるのに、私はこういう人間であると限定して殻に閉じこもったままでは新たな道を発見されにくいので、流れを断ち切らずに巡り合いを大切にしてほしい。
 東京都にある書店<読書のすすめ>の清水店長が「本を自分で選んでいるのではなく、本が繋がって運ばれていく」と語った。これは前号で紹介した“与格性”に通じるものがある。まさに、自分が命を生きているのではなくて、命が私を媒介として生きているという捉え方と同じである。この書店に巡り合って、読む本のジャンルは広がった。好きな本ばかりに偏っていると、なかなか世界観やら人生観は広がりにくい気がする。ぜひ色々なものに挑んでみてはどうだろうか。
 私は読書家の域に達しておらず、本を読むスピードは依然として遅い。速読に憧れたときもあるが、本を味わうという意味では自分のペースを保ちたい。遅読のみならず、積読を勧める。たとえば、食事でいえば、絢爛豪華なレストランではガツガツと、あっさりと食べずに、五感を通して味わうに違いない。この感覚に似ている。これはまさに人生そのものを表す。日々是好日の教えのもと、良いことも悪いことも一つずつ噛みしめてじっくり進んでいけばよいと思う。人生は一度きりなのだから。
 ドラマ『持続可能な恋ですか?』で「ずっと前ばかり向いては疲れる」という台詞に、ほのぼのとした気分になる。思想家の渡辺京二氏曰く「自己は生まれた途端に実現している。折角生んでもらった自分のこの命というものを生き延びさせていくということが、それ自体で、価値がある」と。前向きでも、後ろ向きでもよい。自然から分かれてきた「自分」は未完成で、マイナーチェンジを日々繰り返す。けれども、存在している命は完璧。命を生かされているご縁に感謝し、次世代に繋げられたら幸い。
 
 ここに来られた私はきっとご縁の種を受け取ったのだ。育てられるよう、がんばってみればいい。
(青山美智子『月曜日の抹茶カフェ』より)

🎵 人生相談&哲学対話ほのぼのカフェ 🎵
 
【Q19】他人と自分を比べることは良いことだと思いますか。
【A】依然として競争社会ではあるので、他人と比較されてしまうことはあるでしょう。たとえば、受験ではいえば、点数がとれるかどうかです。決して、人としての善し悪しを評価しているわけでは毛頭ありません。また、就職においては、賃金を払って雇用する以上、会社にとって有益かどうかは何かしら判断する必要があります。けれども、生きていく上では、他人と比べることによって優劣をつけるのはおかしい気がします。ようするに、「できる、できない」「持っている、持っていない」などという観点で他人と比較してみても、虚しいだけですよね。生まれてきた段階で、それぞれ個性を持っているので、それをどう磨いていくことの方が大切です。どうあがいても他人にはなれません。憧れは大事ですが、突き詰めると虚しい感じになります。やはり、自分がどうありたいかを大切にしてほしいです。
 
【Q20】物事を習慣づけるにはどうするのが効果的だと思いますか。
【A】まずはやろうと思って、数分でもいいから繰り返しやってみることです。そのうちに、身体がそれを無意識にやり始めようとします。または、それをやらないと逆に違和感を覚えます。私にとって読書はようやく習慣化されたものです。本はなくてはならないものになりました。
 
【Q21】収入は少ないけど好きなことを仕事にするか、収入は多いけど大変なことを仕事にするか、どちらが楽しい人生になると思いますか。
【A】二元的な問いですから、どちらが正解ということはないですね。私は前者がいいなと思います。お金持ちが決して幸せかどうかは分かりません。貧しくても幸せな人はいます。あなたが生きがいを感じられる生き方をしていたら、どんな仕事でもいいと思います。お金だけを基準に働くと、やりがいを感じにくくなる気がしますよ。ミシマ社『仕事のお守り』おすすめです。
 
【Q22】恋をした人は、なぜ嫉妬をするのでしょうか。
【A】私だけをずっと見ていてほしいって思う欲望が強いからでしょう。そういう思いから、恋焦がれる人が他の人と話をしていたら嫉妬してしまいますよね。まさに経験者は語ります。
 
【Q23】先生にとって、結婚とはどういうものですか。
【A】皆さんの質問はどれも深いですね。簡単に言葉にできないものばかりです。私は一人で生きていけるほどの業(技量)を持っていないので、助けてもらう必要があります。気遣うことなく、自然とした助け合いが理想ですね。一人で生きるより、家族で生きていく方がそれだけ楽しみも増えます。自分の心を揺れ動かした人と一生を共に寄り添えるわけですから、一度きりの人生に深みがでるように感じます。
 
【Q24】犬派ですか、猫派ですか。
【A】SNOOPYが小さい頃から好きなので犬派でしょうか。猫も好きです。『A PEANUTS BOOK featuring SNOOPY』は26巻読破したことがあります。因みに、SNOOPYの生みの親と同じ誕生日です。

2022.5.23

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