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フィルムカメラが好きなら観といてほしい5大旧作映画+1

カメラやカメラマンが大きな役割を果たす映画はいくつかあり、特に最近の邦画にはカメラ恋愛映画とカテゴライズしても良さそうな作品が続々と公開されていたように思います。ただ、そういった新作や近作の他にも、過去の名作にカメラやカメラマンが重要な役割を果たす映画があるので、ちょっとご紹介させていただこうと思います。
ご紹介させていただく作品は、いずれも映画史に残るであろう傑作であり、同時にカメラマンの所作、つまりカメラを操作する場面が丁寧かつ正確で、なおかつ作品を破綻させていない点で、非常に高く評価できます(カメラマンが監督を務めていても、所作がでたらめな作品が……あります)。
ただ、いずれも有名作品なので映画の解説はほどほどに、むしろ登場するカメラに多く言及しています。その点はおふくみおきください。

裏窓(Rear Window)1954年作品

言わずとしれた……と言いたいところですけど、そうでもないでしょうね。
サスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作です。映画史的にも重要な作品とされており、視聴機会も多いので、とりあえず観ておいてほしい作品でもあります。
作品は、足を骨折して車椅子生活のカメラマンが、自宅療養中に目撃してしまった事件を巡るサスペンスで、撮影や演出も含めて映画史に大きな影響を及ぼしました。
さて、登場するカメラですけど、ドイツのExakta VXで、レンズはKilfitt Fern-Kilar f/5.6 400mmです。以下のブログに大変詳しく解説されています。

本作の興味深いところは、主人公のカメラマンL.B."ジェフ"ジェフリーズ(ジェームズ・ステュアート)が、仕事で望遠レンズをつかってなさそうに描かれているところです。先述のブログにも言及されていますが、机の上にはグラフレックスや二眼レフ、レンジファインダー機などが散らばっていて、ピン留めされている写真も標準から中望遠レンズで撮影されたかのようにみえます。また、主人公が使うExakta VXとKilfitt Fern-Kilar f/5.6 400mmは、当時最新式のカメラにレンズですが、もしかしたら好奇心で買ったはよいものの、持て余していたのかもしれません。
ちなみに、かの有名なM型ライカは映画公開とほぼ同時期に発売されているため、残念ながら間に合っていません。まぁ、最新型のカメラに超望遠レンズを買っちゃってる主人公ですから、ライカも発売からすぐに入手していただろうとは思いますけどね。

欲望 (Blow-up)1966年作品

イタリアの巨匠、ミケランジェロ・アントニオーニの代表作で、アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの短編小説『悪魔の涎』をもとにしています。ただ、もとにしているといっても、共通するのはたまたま事件現場を撮影した人間が不可解な出来事に巻き込まれるところくらいで、小説はパリが舞台でカメラもコンタックス……おそらくはコンタフレックスと思われます。
映画はロンドンで売れっ子ファッションフォトグラファーの主人公トーマス(デヴィッド・ヘミングス)が、たまたま事件現場を撮影してしまい、現実とも幻想ともつかないサスペンスに巻き込まれるというものです。作品には当時のファッションやロンドンのイケてる風俗、そして音楽が描写されており、ポピュラー音楽の歴史という点でも重要な作品とされています。
登場するカメラはハッセルブラッドにニコンFですが、まぁカッコいいんですよ。ハッセルは煙突の愛称を持つマグニファイングフードで、いかにもスタジオカメラと言った雰囲気が良いです。ニコンも白のペンタプリズムで、トンガリ頭の精悍なシルエットが緊迫感を醸します。まぁ、正直なところ主人公のトーマスを演じたデヴィッド・ヘミングスのカメラさばきはちょっとどうかと思わなくもないのですけど、それよりも映像全体の雰囲気が良くって、ツッコむのが野暮な感じもしますね。

マディソン郡の橋(Bridges of Madison County)1995年作品

俳優としてはもちろん、監督としても巨匠と呼ぶにふさわしいキャリアを築いたクリント・イーストウッドが手掛けた恋愛映画です。ロバート・ジェームズ・ウォラーの同名小説を映画化した作品で、大変に評価が高く、また興行的にも成功し、イーストウッドにとっても転機となった作品と言えましょう。
映画は、アイオワ州マディソン郡に住んでいる女性フランチェスカ・ジョンソンと、その地にある屋根付き橋の撮影に訪れたナショナルグラフィック誌の写真家ロバート・キンケイドとの間に生まれた恋の始まりと終わりを描いています。
クリント・イーストウッド演じるロバート・キンケイドが使うのはニコンFですが、中にはモータードライブF-36を取り付けたものもありました。モータードライブと言っても、デジタルカメラしか知らない方にはわからないかもしれませんが、フィルムを自動で巻き上げる装置です。ファインダーをのぞいたまま連続撮影が可能なので、特にプロカメラマンは重宝しました。映画は1960年代の出来事という設定なので、主人公は当時最新の高価な機材を使っていたのです。
映画が公開されたあと、旧式化してほとんど使われなくなっていたモータードライブ付きニコンFの人気が急上昇し、取り扱いが大変で敬遠されていたF-36単体まで値上がりしたのは、人間のなんとも言えないところかもしれません。

地雷を踏んだらサヨウナラ 1999年作品

内戦下のカンボジアで活動した写真家、一ノ瀬泰造氏の書簡などをまとめた同名書籍を映画化した作品です。一ノ瀬泰造氏は、外国人を拒否して処刑までしていたカンボジアの武装組織クメール・ルージュの支配下にあったアンコールワット遺跡への潜入を試みて消息を絶ち、後に処刑されていたと判明するのですが、本作はその後半生を描いています。また、主演の浅野忠信氏があまりにも生前の一ノ瀬氏と似ていたようで、公開当時にはちょっとした話題にもなりました。
映画では一ノ瀬氏が使用していたニコンFとF2が登場し、またFに弾丸が貫通したものの、命はとりとめたエピソードも大きく描かれています。ベトナム戦争では、ニコンFとライカMが報道カメラマンの定番でしたが、カンボジア内戦の頃からニコンFとF2が多く使われるようになっていきます。それは、被写体との距離を稼げる望遠レンズが多用される流れの反映でもあり、よくも悪くも兵士や住民との距離が近かったベトナム戦争から、報道関係者といえども情け容赦なく殺害されるカンボジア内戦への変化でもありました。

シティ・オブ・ゴッド(Cidade de Deus)2002作品

ブラジルのリオ・デ・ジャネイロにいくつかあるファベーラ(スラム街)のひとつ、神の街(Cidade de Deus)を舞台に、小説家パウロ・リンスが同名の作品を著し、それをもとにフェルナンド・メイレレス監督が映画化した作品です。
映画は写真記者となった主人公のブスカペが、幼少期から現在までを振り返る形式で、神の街の1960から80年代にいたる変化と、そこに暮らす青少年の血で血を洗う抗争を描いています。とにかく気軽に人が死ぬ作品で、それは子供でも同じです。本当に情け容赦なく殺し、殺される日常なのですが、どこか楽しげな雰囲気を感じさせるのは、救いでもあると同時に、恐ろしさも感じさせるでしょう。
作品では、カメラと写真がひとつのキーアイテムとして描かれ、主人公のブスカペが暴力の連鎖から抜け出すきっかけにもなります。また、コダックのインスタマチックからレチナフレックス、そしてニコンFと、だんだんカメラがグレードアップしていくのも興味深いところですが、中盤のキーアイテムであるレチナフレックスは強く印象に残るでしょう。様々な映画に様々なカメラが登場しますけど、あれほど悲しい物語を背負うカメラはそうそうないと思います。

マーベルズ(MARVELS)2013年刊

アメコミですけど、実に印象的なカメラが登場しますし、なにより作品として非常に素晴らしいので、番外編として紹介させていただきます。
内容はリンク先の解説をお読みいただくとして、まず登場するカメラがかなり代わっています。戦前編の蛇腹式カメラは機種不明ですが、主人公のフィル・シェルダンが戦後に使うのは、なんとミランダのAもしくはCです。ミランダカメラについて説明し始めると、かなり長くなるので割愛しますが、かつて日本に存在したカメラメーカで、輸出を得意としていました。ただ、製品の質はぼちぼちで、故障が多かったとされています。プロが酷使するようなカメラではなさそうな気もしますが、安かったんですよね。あまり裕福とは言えない主人公には、ちょうどよかったのかもしれません。
しかし、その後1980年代になって主人公が手にするのは、なんとキヤノンT80なんですよ!
当時は、実用的なオートフォーカスカメラのミノルタα7000が登場し、日本のカメラ業界に激震が走っていました。そして、キヤノンが送り出した対抗機が、このT80です。とはいえ、文字通りの意味で取ってつけたかのようなオートフォーカス機能はまだまだ熟成途上で、時代を先取りしすぎて野暮ったいデザインと相まって、ほとんどキヤノンの黒歴史扱いされてしまいます。
そんなカメラなんですけど、主人公のフィル・シェルダンがアメコミ史においても屈指の決定的瞬間をものにしたのは、そのT80なんですね。

それに、フィル・シェルダンの立ち位置というか、超人と人間との関係、そして超人の活躍をただ撮影するしかない主人公の関係が、写真というメディアに対する痛烈な批評にもなっていて、実に興味深いのです。

というわけで、カメヲタ的にも大変興味深く、そして文句なしに面白い作品なので、ぜひ読んでください。

ではでは~


¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!