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ゲームクリエイターのためのキャラクター設定&分析入門

はじめに

この記事は、ゲーム業界においてキャラクターを設定したり、考えたりする立場になった方(プランナー、イラストレーター、シナリオライター等)や、「いつかゲームのキャラクターイラストの依頼を受注したい!」と思っているフリーのイラストレーターの方を主な対象としています。

ゲーム業界であることを前提として書いていますが、後述のキャラクターの設定・分析方法については、漫画家やライトノベル小説家、編集者などの方々のご参考にもなるのではと思っています。

なお、この記事において「ゲーム」という単語は「キャラクターが登場するゲームであること(なおかつ、キャラクターに台詞や個性があること)」を前提としています。
また、「予想よりもかなりざっくりした指示がきたけどどうしよう」という状況を想定して書いています。


「とりあえず良い感じでよろしく」と言われたら

漫画家(原作なし)の場合、キャラクターを考えることも仕事の一部ですし、得意分野だと思うのですが、ゲーム開発ではキャラクターを考えることが本業や得意分野ではない人がキャラ設定(性格、外見など)を担当することになるケースがしばしばあります。

・今までプログラミング一筋で仕事をしてきたプログラマが、プランナーに任命されてキャラクター設定を考えることになった場合

・指示書からキャラをデザインするのは得意だけれども、キャラの性格や個性を1から考えるのは得意ではない(本業ではない)タイプのイラストレーターが、指示書なしで「とりあえず西洋ファンタジー風のキャラを10人くらい考えてくれる?」といったざっくりした依頼を受けた場合

・キャラの性格や個性や台詞を考えることは得意だけれども、イラストやデザインは考えるのが苦手なタイプのシナリオライターが、「イラストレーターへの指示書よろしく!」と言われた場合

などなど

また、元々キャラクター設定が好きな方が担当することになっても、「なぜその設定にしたのか」等、理論的な説明や根拠を求められることもあります。


ゲーム開発においてキャラクターの設定を考える際、考慮しなくてはならない項目がたくさんあります。
「ストーリーや世界観との親和性」「ユーザーにとって魅力のあるキャラクターになっているかどうか」という、他のエンタメ(漫画、アニメ、ラノベ等)と共通する項目に加えて、「ゲームシステムと合った設定になっているか」、「デザイン的に問題がないか(例えば3Dモデル化するならば、モデル化しやすいデザインになっているかどうか)」といった、ゲーム特有のことも考える必要があります。

そのため、プランナー、プログラマ、シナリオライター、デザイナーといった、さまざまな職種における視点を考慮して設定を考えていくことになります。
(例えば、「ふわふわ浮いた複数のオーブがキャラの周りを取り囲んでいる。オーブはそれぞれランダムに動く」という設定は、プログラマ的な視点で見ると「それはちょっと…」となるかもしれません。)

趣味で漫画を描く場合など、「自分はこのキャラが好きなんだあああ!!」という情熱をありったけ作品に注いで良い状態であれば、思いのままにキャラ設定して良いと思います。
しかし、商業作品であったり、ゲームのようにチームで1つの作品を作り上げる場合は、「他者(チーム、ユーザーなど)にキャラ設定を説明できること」「作品、ターゲット、ゲームシステムなど、さまざまな要素とキャラ設定が合っていること」「業界の規制にひっかかったり、ユーザーに悪い印象を与えてしまうような設定(差別的な表現など)が盛り込まれていないこと」などを考慮する必要があります。

この記事では、キャラクターの設定を考える上でさまざまな要素を検討・分析することによって、第三者への説得力があり、なおかつ問題のない(少ない)キャラクター設定ができる方法をお伝えしようと思います。

(なお、記事が膨大になってしまうため、世界観については既にざっくりとした方針が決定されているものと仮定します。)

「キャラクター設定」は、漫画家やシナリオライター、イラストレーターなど、文系クリエイターが得意&本業とする分野ではありますが、ゲーム業界は理系クリエイター(プログラマ、プログラマ出身プランナーなど)が多い業界であることもあり、感覚的・感情的に訴えるよりも、理論的に意見を述べる方が納得してもらいやすい傾向があるように思います。
「この表から分かるように、これこれこういう理由で、このようなキャラクター設定を考案しました」といった形で説明できると、チームの人に納得してもらえる可能性も高くなるのではないかと思います。


PCの人数について考えよう

「6人で1つのパーティーを組んで戦っていくSRPGなんだけど、予算的に40人くらいPC(プレイアブルキャラクター)として登場させようと思ってるんだ。シナリオ(ストーリー)も多少つけるつもり。キャラ考えておいて」という指示がきた場合を例に考えてみたいと思います。

もしシナリオ上、どういったパーティーであっても関係ない場合(メインストーリーがあって、どういったキャラを編成していても関係ない場合や、キャラクターごとにストーリーがある場合など)は、人数を気にする必要はそれほどありません。指示を受けた通り、「40人(くらい)考えればよい」という認識で大丈夫だと思います。

しかし、シナリオ上、特定のキャラクターでパーティーを組み、それぞれパーティーごとにストーリーを用意する場合(例えば、キャラNo.1~6をAチーム、キャラNo.7~12をBチーム、キャラNo.13~18をCチーム…というように、固有のチームを作成し、それぞれチームごとにシナリオを用意する場合など)には、PC全体の人数がパーティー人数の倍数になっていないと、「シナリオに登場しないキャラクター」や、「2つ以上のシナリオに登場するキャラクター」が存在することになってしまいます。
6人パーティーで「全員で40人くらい」のシナリオを考える場合、36人(チーム数が6)または42人(チーム数が7)にすると、全てのキャラクターが1回ずつシナリオに登場することができます。

固有パーティーごとにシナリオを作成することが決定している場合(あるいは、そうなる可能性が高い/ある場合)は、「プレイヤー全体の人数をパーティー人数の倍数にするかどうか」を検討項目に加えておいた方が良いかと思います。

例えばアイドルゲームのように全てのキャラクターがゲーム上で平等に扱われる場合など、「31人PCがいる状態で、そのうち30人にはチーム別ストーリーが実装されているけれども、1人だけチーム別ストーリーがないキャラがいる」のように、明らかに(ユーザーから見て理由なく)扱いの悪いキャラが存在していると、イメージが悪くなる可能性があります。
「30人PCがいて、5本のチーム別ストーリー(1チームにつき6人、全5チーム分)が用意されている。ストーリーを全てクリアすると、ラスボスがPCに加わる。ラスボスにはチーム別ストーリーがない(ラスボスはユーザーへのサービスやおまけ、2週目要素的な扱い)」というように、ユーザーから見て納得がいくような形であればOKだと思います。


パーティーの人数とキャラの性格について考えよう

パーティーの人数は、キャラクター設定の方針を考える際に結構重要です。
特に前述のように、固有のパーティーごとにシナリオを用意する場合、「パーティー内でキャラ設定のバランスが取れているかどうか」がポイントになってきます。

2人パーティーの場合、「ポジティブなキャラと、ネガティブなキャラ」「真面目なキャラと、不真面目なキャラ」のように、正反対の組み合わせでキャラを考えると、設定しやすくなり、また、シナリオも書きやすくなります。(デザイン上も対比しやすくなります。)

3人パーティーの場合、「ポジティブ、中庸、ネガティブ」「真面目、普通、不真面目」のように、中間となるキャラを加えると考えやすくなります。
もし、「ツッコミ1人、ボケ2人」のように、同じ属性のキャラを2人入れたい場合は、「ボケ2人」の対比も考えると良いと思います。(例えば、片方は親分キャラで自分が間違っていても常に自信満々、もう片方は子分キャラで誰が言ったことでも「そうなんすか!?」と信じてしまう等)

4人(あるいは4人以上)パーティの場合、「ポジティブ&真面目、ポジティブ&不真面目、ネガティブ&真面目、ネガティブ&不真面目」のように、対称的な項目を組み合わせることによって、差別化を図ることもできます。
また、後述の善悪&明るさ分析などを用いて、性格や個性に差異を設けることもできます。

性格も価値観も殆ど同じキャラは、リアクションや人間関係が似たものになりがちで、シナリオのバリエーションを作ったり、キャラの差別化をするための難易度が上がります。
キャラクターを設定する際、全キャラクターやパーティー内で性格や価値観に偏りがあるとシナリオがマンネリ化してしまう要因の1つになりますので、留意した方が良いかと思います。
(※一卵性双生児など、性格や価値観が似ていることに必然性がある場合を除きます。ただし、性格や外見が似た双子キャラであっても、基本的にはユーザーが区別できるよう微妙に変化を付けた方が良いかと思います。)


キャラの年齢について考えよう

キャラクターの年齢は、低年齢&ファミリー層向けを除いて、基本的に「ターゲットとなる層よりも若干低い年齢層のキャラが多め」であることが多いです。
「メインターゲットが20~30代の男女」だからといって、登場人物も20~30代の男女を中心にする必要はありません。
かといって、10代のキャラクターばかりにすると、当初想定していたメインターゲットから少々外れて、「10~20代の男女向け」に見えるゲームになってしまうかもしれません。
「メインターゲットよりも多少若いキャラ」を意識しつつ、メインターゲットの上半分(メインターゲットが20~30代の場合は、30代)に該当するキャラもある程度含まれるようにしておくと、安定感や安心感があります。
(ユーザーが既に経験した年代のキャラと、ユーザーが今属している年代のキャラの両方がゲームに含まれていることで、ゲームに対して親近感が生まれやすくなります。)

ただし、美少女ゲームや学園ゲームのように、キャラが特定の年齢層であることが必須の場合など、この限りではないケースもたくさんあります。
また、「かわいい赤ちゃんを育てるゲーム」や「登場キャラが全員80歳以上の格闘ゲーム」など、メインターゲットと登場キャラの年齢層が乖離していても問題ない場合もあります。

低年齢&ファミリー層向けの場合、ターゲットの中心となる年齢(子どもの年齢)をほとんどそのまま設定することが多いです。
ただし、女児向けの場合、女児は男児よりも精神的な発達が一般的に早いことから、ターゲットとなる女児よりも少し高い年齢に設定されることがあります。(例:プリパラ、プリキュアetc)


すぐできる「善悪&明るさ分析」

「善悪&明るさ分析」は、(多分)誰でも簡単にできるキャラクター分析方法です。
このキャラクター分析方法によって、以下のことを調べることができます。
・キャラクターの性格や価値観に偏りがないか
・ゲームの世界観やテイストと、キャラクターの傾向がマッチしているかどうか

この分析法を使うと、キャラクターを考えた後、偏りがないかチェックすることができます。
また、キャラクターを考える際(考える前)であっても、この分析方法を頭の片隅においておくと、偏りのない設定をしやすくなります。


【キャラの偏りチェック】

1. まず十文字を書いて、横軸(X軸)を「悪(左)⇔善(右)」、縦軸(Y軸)を「明るい(上)⇔暗い(下)」とします。
(「明るい⇔暗い」があまりしっくりこない場合は、「ポジティブ⇔ネガティブ」、「真面目⇔不真面目」、「天才⇔お馬鹿」など、他の対称的な単語に置き換えてもOKです。)

2. 表の中で、1人目のキャラクター(主人公、とりあえず仮に考えたキャラなど)が該当すると思われる場所に「〇」を書きます。
例えば、「めちゃめちゃ良い人で、すっごく明るいキャラ」の場合、右上の端の方に丸を書くことになります。
「そこそこ良い人で、物静かなタイプ」は、表の中央(十文字が交差している部分)よりも少し右下に丸を書くことになります。
(味方キャラの場合、大抵右半分(善人ゾーン)の中に丸がつくかと思いますが、ずる賢いキャラや、裏切るタイプのキャラなどの場合、左半分(悪人ゾーン)に丸が付く場合もあります。)

3. 他のキャラクターをすでに考えてある場合は、同様に表の中に書き入れていきます。
まだ考えてない場合は、「この辺のキャラを考えたら良いかな?」と思う部分を〇で囲みます。

4. 表に偏りがある場合(丸の位置が近い場合や、重なっている場合)は、性格や価値観などの設定を見直して、それぞれのキャラが差別化できているかどうか検討します。

表の中で近い位置にあったとしても、横軸と縦軸(善悪や明るさの度合い)以外の面で差別化できているならばOKの場合もあります。
しかし、登場キャラクターの全員あるいは大多数が近い位置にあったり、差別化があいまいな場合は、表の中の空いている部分に該当するキャラを作るよう、設定を見直した方が良いかと思います。


【ゲームの世界観やテイストとの比較】

1. 前述の表において、開発するゲーム(世界観、テイスト、テーマ、内容)がどのあたりに位置するか考えて、大体の位置を〇で囲みます。
例えば、低年齢層&ファミリー層向けの明るいゲームであれば、大体表の右上あたりに〇がくると思います。ダークファンタジーのように暗い要素のあるゲームの場合、表の下半分や、左下のゾーンに円の一部または全部が入る形になるかと思います。

2. キャラクターの丸の傾向と、1.で描いたゲームの丸の位置にズレがないか確認します。
例えば、ダークファンタジーなのに表の右上に該当するキャラクターが大多数を占める場合、「キャラの傾向と世界観が合っていないのでは?」ということが判断できます。
「低年齢向けだから左下に該当するキャラを作ってはいけない」「ダークファンタジーだから右上に該当するキャラは作ってはいけない」ということではありませんが、キャラと世界観のバランスを判断する物差しの一つとして、参考にしていただけたらと思います。

例えば、ドラゴンクエストや、ドラゴンボールのような比較的明るい作品の場合、作品自体や、登場キャラクター(特に味方)の丸の位置が、概ね一致します。(表を書く人の判断によって微妙に位置が異なるかと思いますが、丸を右上の方に置く人が多いかと思います。)


【応用:丸の形や方向性の変化で差別化する】

「基本的にネガティブなキャラクター。最初は敵として登場するけれども、後で味方になる」というキャラクターを表に書き込む場合、表の下の方で、横に長い楕円形になると思います。(後で味方になることを示すため、楕円の中に矢印(→)を書き込んでも良いかと思います。)

また、丸型からは離れますが、「最初は明るい味方キャラとして登場するけれども、実は暗い過去を持ったスパイで、ゲーム中盤にややネガティブな傾向の敵キャラになる。しかし、ゲーム終盤で改心して再び味方に戻る。(ただし最初ほど明るいキャラではなく、ネガティブな面がある)」という場合、表に書き込むと大体「C」字型になると思います。

これらは変化が大きな例(縦と横の中心軸をまたいで変化する例)ですが、中心軸を越えなくても、ゲームの最初と後でどのように変化するか方向性を定めることによって、他キャラとの差別化を図ることができます。

例えば、かなり右上の方(めちゃ善人、めちゃ明るい)に該当するキャラであっても、「最初はポジティブの塊で向こう見ずなタイプだったけれども、自分のミスで仲間を危機にさらしてしまったことをきっかけに、物事を冷静に判断する一面ができた」という場合、丸の中に書く矢印は下向き(↓)になります。逆に、「元々明るいキャラではあったけれども、ゲーム内で信頼できる仲間を得て、さらに明るくなった」という場合、矢印は上向き(↑)になります。

特に主人公キャラや、主人公に近い立場のキャラは、ストーリーの盛り上がりやユーザーの満足度の向上などの観点から、ゲーム内で人間的に成長すること(円の中で矢印が動くこと)が望ましいです。
成長として分かりやすいのは、左下から右上に向かって矢印が伸びていくこと(善&明るい方向へ矢印が向かっていくこと)ですが、前述のように「向こう見ずな明るいキャラが冷静な一面を手に入れる」(矢印がやや下の方向へ向かう)という形の成長もあります。


他にもいろいろ

今回はキャラクターの大まかな設定(年齢、性別、性格など)について簡単に触れましたが、他にも設定・分析した方が良い項目はたくさんあります。
(※ジャンルやゲームの内容、設定考案者の職種、職種上求められる範囲などにより増減します。)

・より詳細な性格
・口調
・他のキャラクターの関係性
・名前の呼び方(一人称、二人称、三人称)
・属性(光、闇など、ゲーム内における属性)
・萌え&燃え属性(眼鏡、ネコ耳、俺様など、市場において一定の需要がある属性をどう取捨選択し配分するか)
・ゲーム内でのキャラクターの変化
・家族構成
・キャラの過去
・キャラの信念、信条
・キャッチフレーズ
・キーとなる台詞(キャラの個性を最も体現する台詞)
・ストーリーの大まかな流れ(起承転結)
・デザイン的な方針、特徴、ポイント
・パーソナルカラー
・カラー分析(色味と性格の分析)
・シルエットの特徴となる要素(髪型、体格、衣装、小物など)
・デザイン上の難易度(特に3Dモデル化する場合)
・ゲームシステムとの親和性
・声のイメージ
・各種規制に該当していないかどうか
・差別的表現がないかどうか
・性的/セクシーな表現や設定がある場合、想定した範囲内に収まっているかどうか
・国内/世界情勢、人々の意識や常識の変化などの観点から、(一昔前はOKだったけれども)今現在の社会ではリスクのある表現や、反感を買ってしまう可能性がある表現が含まれていないかどうか

などなど


知っておくと役立つかもしれない豆知識や方法論、ちょっとしたテクニックなど、いろいろあります。

もしも「それ、うちで本にしてみない?」という出版社様がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
(当方、ゲーム開発入門書の執筆経験がございます。
『Unity&宴「ノベルゲーム」開発入門』https://www.amazon.co.jp/dp/4777520528 )

ご依頼やご相談などございましたら、Twitter のDMや、サイトお問い合わせまでご連絡ください。


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