飲食店のデザインは誰でもできる!?

はじめに

 私は、建築士で飲食店デザインの専門家です。飲食店の経営者や企業から相談を受けたり、苦労話を聞く機会があります。細かな仕様は各社各様であるものの、彼らには本質的で、普遍的な共通の問題や課題がたくさんあるように思います。私はかねてから、飲食店の設計・デザイン方法論を議論していきたいと思っていました。

 「飲食店を開業する」行為の中には、いろんな事項が複雑に含まれていて、簡単には理解できません。でも、お店の設計・デザインに焦点を当てて、そのパートの全体像が理解できるようになれば、それをそのまま外部に依頼しやすくなるし、そのパートで時間短縮が図れれば、その他のもっと複雑な事項に集中できるなと思います。

 飲食店を開業したいがどうしていいかわからない、最初の一歩が踏み出せない、2店目を増やしたいけれども、時間がないので何から始めたらいいかわからないという方々に対して、難しい用語を並べて難解な読み物とならないように心がけます。また、駆け出しの飲食店デザイナーの方の道標になればいいなと思っています。

 第1章は飲食店を開業する一番ミニマムな例として自宅の1階から話を始めますが、第2章は小さな雑居ビル、第3章と第4章は大きなショッピングセンターでの開業を想像しながら話を進めていきます。規模の大小にかかわらず、本質的で、普遍的なことを議論するように努めます。

 私の目的の一つは飲食店デザインに興味を持ってもらうことです。もう一つの目的は、複雑な設計・デザインのシステムを理解し、上手に扱うための基本的な力をつけてもらうことです。これを読んで専門家の経験を代理体験することで、この仕事に挑戦する多くの人々が設計・デザインを実践できるようになることを願っています。

第1章 飲食店を設計する前に始める必要最低限のこと

A どこで開業するか

 自分の家の1階部分をお店にできれば、その場所が法的条件を満たしているかを検討し、用途変更などの手続きは建築士を通して行う必要があります。法的にクリアならば、飲食店を開業するための設備インフラの情報を収集し、不足する設備について、技術的・建築的に設置が可能かの検討に移ります。物件がない人は、探すところから始めます。エリアを特定して、複数の物件候補を持つことをオススメします。

B どうしようもない物件とどうにかなる物件

 物件候補が複数集まってきたら、飲食店が出店できる物件であるかの情報を収集します。まずは、その物件が一度も飲食店になったことがなければ、「用途変更」という法的な手続きが必要な場合があります。借りる面積が200平米を超える場合は注意が必要です。次に、開業したい飲食店に必要な設備インフラについての情報を収集する必要があります。内見することをオススメします。写真等による情報収集も有効です。基本的確認事項は以下になります。

[基本的確認事項]
・水道、ガスがあるか(ガスは開業する飲食店によっては不要な場合もあります)。
・電気があるか。
・排水管(トイレ用・厨房用)があるか(出店場所によってはトイレが不要な場合もあります)。
・空調設備を設けることができるか。

ここからは、少し難しくなっていきます。

・換気設備を設けることができるか。

 なぜ、難しいかというと計算式がたくさん出てくる話だからです。飲食店には換気設備が必要で、新鮮な空気を入れて、厨房の火気設備に応じてその空気を排出しなくてはいけないことが、法的に定められています。厨房の火気設備が多ければ多いほどフードを設けて、必要量を排気する必要がありますので、それらを満たせる建築的な検討を行います。場合によっては、飲食店の臭気が近隣住民からの苦情につながることがありますので、建物上部まで排気用ダクトを立ち上げなくてはならないという大工事につながるケースもあります。自分の飲食店の匂いは食欲を誘ういい香りって考えずに、近隣の臭気問題に発展しないかを事前に検討したほうが良いです。 

C 情報収集が大事

 物件の情報といっても多岐にわたります。上記で、説明した設備インフラは開業のための最低限の確認です。そもそも、設備インフラを新たに設けることが技術的・建築的に不可能であれば、その物件で開業はできません。その他、必要最低限なものは寸法の入った平面図です。借りる区画の寸法を正確に把握し、契約面積との相違がないかを知るためだけでなく、今後の設計にも必要な情報です。ない場合は、どんな手を使ってでも作成しなくてはなりません。建築士やデザイナーだけでなく、借りる人(開業する人)にとっても図面はその物件を契約するうえで、必要不可欠な情報といえます。

D 困ったら専門家の意見を聞こう

 飲食店を開業しようと思うと、ここはいけると思うエリアを特定して、物件を探して、条件を確認して、最低限の設備を確認して、、、とあれやこれやで時間が足りないことを実感していくと思います。自分の力で時間をかけて、お金をかけずに頑張りたいところですが、時間はお金に換算してみると意外な無駄遣いになっている可能性があります。でも時間がもったいないからといって、不動産屋の情報を鵜呑みにして性急な判断をすると失敗する可能性があります。それらの根拠について専門家に助言を求めることをオススメします。ここまで収集した情報を専門家に提示することができれば、助言を得られやすくなることでしょう。

コラム:建築士やデザイナーになんて言って頼めばいいのだろう。お金がかかりそう。

 世の中、タダでなんでもやってくれる人なんていません。でも、私は人の情熱とかに動かされて、「この人のために協力したい!」って思うことがたくさんあります。そこで、タダより高いモノはない。って言葉の意味を考えてみました。たとえば私は、人の情熱でその人の仕事を、タダでも手伝っていきたいと思います。でも大きく進んでいくうちに、タダで雇ってくれた人が、「タダだとなんか悪いなぁ。」って思ってもらうのを期待します。こちらだって、そう思わせるほどの情熱を見せていけば、相手の心に響いていくと思うからです。困るのは、頼んできた依頼人に情熱がないことです。もっと困るのは、仕事として受けたデザイナーが事務的に処理するだけで、情熱が見えてこないことです。

 一方で、仕事として依頼をされると、「物件の情報」を要求してしまいます。それがないと、何も進まないからです。これが、金銭条件を含む契約なんだと思います。情熱だけで人を動かすことは難しいのでしょうか。私はお金をいただく仕事だからと、「しょうがない」からお受けするよりも、情熱に動かされて、「協力したい!」という思いで仕事をしたいです。

 飲食店を開業したい人は、効率を求める場合、圧倒的に「物件の情報」が必要になります。それがなければ、建築士やデザイナーはその情報収集から仕事を始めるので、その分余計に時間とお金がかかります。でも、急がば回れ的な方法も試してほしいです。自分の飲食店に対するビジョンや目的を、自分のこれまでの経験や、現状の課題とか未来への展望を含めて、情熱を持って建築士やデザイナーに話してみてはいかがでしょうか。「この人の仕事を受けてみたい!」と思わせるのも、ある意味での時間やお金の節約になるかもしれません。

第2章 飲食店を設計する前に始める具体的な検討

A 第1章のおさらい

 第1章では物件探しの際に、必要最低限の情報を収集することが効率的に進めるためのカギになると説明しました。

①飲食店を開業できる「用途」になっているか。
②飲食店が出店できる物件であるかの情報を収集する。

 まずは、①が飲食店以外の用途になっている場合で、面積が200平米を超える場合は、「用途変更」が必要です。法的な手続きなので建築士への依頼が必要となります。この章では②で収集した必要最低限の情報からもう一歩進んで、具体的な検討を始めるための情報収集に進んでいきます。

[必要最低限の情報]
・水道、ガス、電気があるか。
・排水管があるか。
・空調設備を設けることができそうか。
・換気設備を設けることができそうか。
・寸法の入った平面図があるか。

B 具体的な検討

 デザインを始めたいというハヤる気持ちを抑えつつ、設備の検討は続きます。もしも借りる物件の建築・設備図面があれば、お借りして全てコピーを取らせてもらうことをオススメします。飲食店を設計する専門家(建築士・デザイナー)は、この具体的な検討について多くの経験があり、ノウハウを持っているので、可能であれば一緒に現地を調査してもらいましょう。もしも、新築(まだ竣工していない)物件への出店であれば、当然、建築図面があります。PDF等で取り寄せましょう。

[専門家が見るポイント]
・水道管の立ち上がり、立ち下がりの位置、水道メーター
・ガスメーター
・電灯、動力分電盤、電気メーター
・排水管口径と立ち上げ位置、雑排水・汚水管の有無
・換気設備の具体的な取り込み位置、サイズ
・空調室外機が置ける場所
・平面図の寸法や情報が正確かの確認
・排煙設備(排煙口、排煙窓)
・消防設備
・近隣情報
・お店へのアプローチ(外観デザインやサイン計画に必要な情報)
・テナントオーナー様の情報
・ビル管理者や設備管理者の情報

 専門家は、上記の情報について現場をスケール(メジャー)で測ったり、写真撮影をしたりして空間全体を把握します。また、物件を借りる上での登場人物の情報収集をします。設計を進めていく上で、誰に相談すればよいか、意思決定をお願いする人は誰かを事前に把握する必要があります。ビルオーナーが外国籍の場合は、必要な改造についての承認を得るために多くの期間を要することがあります。オープン日を遅らせる要因となるので、この情報は大切です。そして、飲食店を開業する本人以外に、その物件に関わる人間は意外と多いものです。周囲から好意的に協力が得られる準備が必要です。

C 平面図で想像力を膨らませたい

 飲食店を開業したい人ならば、なるべく早く平面図作成に取り掛かりたいと思います。なぜなら、厨房の配置が気になるし、客席が何席あるかを知りたいし、何よりもその空間を想像して、色とか柄を決めたいと思うからです。確かに、設備検討をするにしても、平面計画図があれば、具体性を持って現地を確認できるので、あるに越したことはないです。私は、決定とまではいかないが、あらかたの平面計画図を持って、現地調査することをオススメします。そのためには、情報や寸法の入った平面図を入手しておかないとこの方法は有効ではありません。なぜなら、汚水排水管の位置があらかじめわかっていれば、トイレの配置を汚水排水管の立ち上がりから遠いところには計画しないと思いますし、雑排水の立ち上がりを含むように厨房を配置しないと、客席全体の床を高くしなくてはならなくなり、工事費アップの原因となるからです。

 私はこれまでの経験から、設計初期段階では下記のことを気にして計画をしています。

・排水経路
・排煙窓など必要な排煙設備を確保できるか
・不足する設備の増設が可能かどうか

 ようするに、安心してデザイン創造を楽しむために、それらの阻害要因となる設備や法的なことばかり気にしています。繰り返しになりますが、法的条件が満たされず、設備インフラが揃っていないと飲食店は開業できないです。これらの根本的なことを飛ばして、デザインを進めても、結局出店できなかった例は枚挙にいとまがありません。

D やっぱりお金はかけたくない

 これまで、専門家に頼めば容易に現地調査ができることを説明してきました。でも、やっぱりお金はかけたくないと思うはずです。なぜなら、飲食店を開業する人は、自分が納得する厨房配置や客席デザインの方によりお金をかけたいと思うからです。
 第2章での結論ですが、お金をかけたくないならば、情報収集は効率的に行うことです。一番効率的な方法は、建物の建築図面・設備図面を全て手に入れることです。専門家がこれらの情報を手にすれば、比較的容易に設計方針を立てることができます。この時点から、専門家への依頼を行えば、それまでの情報収集の時間とお金を節約できそうです。店主自ら設計するにしても、これだけの情報があれば、タダで助言してくれる専門家がいるかもしれません。

コラム:いつになったらデザインを始めるの?

 デザインは、悪い言い方をすると、「絵に描いた餅」です。デザインを急ぐと弊害が生じます。現地調査で、蓋を開けてみれば、法的に、設備的に叶わないデザインは多くあります。デザイン創造にも多くの時間が割かれますので、あまりにもデザインが先行しすぎると、実際にその通りにならず、修正を繰り返し、原型をとどめなくなるケースもあります。私は個人的に、建築・設備情報を概ね把握した上で、デザインも設計もしたいです。

 でも、えてしてお客様は、「絵に描いた餅」を欲しがります。われわれはそれを通常「パース」と呼ばれる3DCGや透視図でお客様に提供します。絵を見たお客様のテンションは一気に上がります。それがきっかけで、仕事の依頼となることが多いので、とても大切なことですが、「絵に描いた餅」のもう一つの弊害は、絵を見せるだけで期待値を上げる方法なので、コストの考慮がなされていないことです。この章で、根本的なことを飛ばすと満足なデザインができないことを説明しましたが、これはなるべくお金を節約したいと思う人に向けてのメッセージですので、お金をかけられる人にはあまり関係のない話です。足りない設備や法的な設備、そして自由なデザインの大半はお金で解決できます。

 予算をお伺いせずに、アンビルドになったデザインがたくさんあるので、初期の情報収集が完了した時点で、具体的な設計に入る前に、全体予算について話す機会を設けたいと思っています。具体的なデザインはそこから始めるのが良いと、個人的に思います。

第3章 飲食店を設計する前に始める専門的な検討 その1

A どんな場所で開業したいか

 これまで、第1章では自宅の1階で、第2章では小さな雑居ビルで開業することを想定して、飲食店を設計する前に始める具体的な検討について説明してきました。この章では、ショッピングセンターのような大型施設で開業することを想定していきます。建物の規模が大きくなるにつれて、複雑化していきます。大型施設では建築図や設備図が最も複雑になりますので、専門的な検討が必要になります。

 第2章同様、設計初期段階で気にすることを下記に列挙します。

[法的なこと]
・テナント区画の「用途」が飲食店になっているか
・排煙設備(排煙口、排煙窓)
・消防設備

[設備のこと]
・水道、ガス、電気
・最終排水口(雑排水・汚水)

 大型施設での開業となると、空いているテナントに申込みをして、手続きをして、、、など多くの前段階を経ると思いますので、内見するときに、上記の内容に不備があることは考えづらいです。なぜなら、飲食店テナントを募集しているのに、必要最低限の装置がないということは考えられないからです。でも法的なことについては、これまでの経験で、テナント区画の用途が飲食店になっていなかったことは少なからずありました。思いもよらぬ盲点となります。排煙設備、消防設備は有るか無いかだけでなく、移設・増設が可能かどうかも重要です。設備のことについては、排水口の有無や位置を確認します。移設・増設が可能かどうかも同時に確認します。全ての条件が確認できれば、平面計画図を始めることができます。平面計画図を進める間に、もう少し踏み込んだ設備条件についての質疑をしていきます。

B 専門的な検討

 上記で、平面計画図を始めてしまいましたが、実は、この段階では開業できるかどうかの設備条件を全ては把握できていません。下記に、施設に質疑するためのより詳しい内容を列挙します。

①   給水
・給水方式
・給水管バルブ留位置、配管口径

②   ガス
・ガス種(都市ガス、プロパンガス)
・ガス管バルブ留位置、配管口径

③   電気(500Hz、600Hz)
・主開閉器盤の盤図、外形寸法
・電灯、動力のテナント割当容量

④   排水
・雑排水100A、汚水100A(75A)の立ち上がり位置
・上記を任意の位置に増設できるかどうか

⑤   換気
・厨房用換気(排気・給気)の風量、ダクト経路、ダクト寸法、テナント突き出し位置、FDの有無
・客席用換気(排気・給気)の風量、ダクト経路、ダクト寸法、テナント突き出し位置、FDの有無

⑥   空調
・施設で用意されている空調機の仕様、能力、機器品番
・不足分の空調機の増設が可能か
・不足分の空調機の室外機の置き場は確保できるか
・不足分の空調機の冷媒管等の工事はできるか

 上記は設備に関するものだけを列挙しましたが、施設に特有に適用されている法律等も確認が必要です。避難安全検証法などにより、排煙免除となる場合があります。その他、避難口、避難距離の検証が必要になることもあります。

コラム:一人じゃ設計できません!

 小さいものから大きいものまで、入るテナントの規模別に、設計前に行う検討ついて見てきましたが、皆様もお気づきのように、第1章から第3章までほとんど同じことを言っています。第1章では低かった解像度が、第3章で高くなるように、専門性をあげて説明してきました。

 専門家としての建築士・デザイナーの視点で説明してきましたが、実はわれわれサイドにはまだ専門家がいます。設備設計者です。彼らは、建築士・デザイナーが集めてきた情報(上記の専門的な検討)に基づいて、設備設計の方針をたてます。意匠を設計するわれわれでは見落としてしまうことを含めて、設備設計の視点から多くの助言をくれます。一つのやり方を覚えてしまえば、意匠設計者も設備設計をできるのでは?と思うかもしれませんが、世の中の建物はそれぞれ特徴があって、どれも同じではありません。ようするに、建物よって(その建物を設計した設計者によって)コンセプトや方針が違うので、ワンパターンではなく、その都度検討が必要だということです。

 私は飲食店デザインで多くの経験がありますが、この仕事に飽きない一つの理由が、ワンパターンではないことです。昔は、新たな難題にぶつかると、「気が重いなぁ。」と思っていましたが、いろいろできるようになった現在は、むしろ新たな難題にワクワクしています。「いくらやっても知らないことが出てくるのだなぁ。」と、この仕事の奥深さを噛みしめながら、さらに壁を乗り越えようと努力を続けています。

第4章 飲食店を設計する前に始める専門的な検討 その2

A 登場人物を知ろう

 第3章では大型ショッピングセンターを想像して、専門的な検討について説明してきました。この章では、どんな人が関わってくるのか下記に列挙し、彼らがどんな仕事をするのかを説明します。

・ビルオーナー
・ゼネコン
・施設の設計者or内装監理室
・出店者(開業する人)
・専門家(建築士・デザイナー等)

 これらの登場人物は工事区分というルールに従って、それぞれの立場で仕事をしていきます。ビルオーナーは自分のビルに対して、出店者はテナント内の事項に対して、意思決定に責任を持つ立場となります。内装監理室はビルオーナーのために、建築士・デザイナー等専門家は出店者のために、それぞれの立場に立って助言業務を行います。

B 工事区分って何?

 A工事、B工事、C工事という言葉の定義を登場人物が何をするかの視点で説明します。

A工事:ビルオーナーが金銭負担し、必要最低限の設備に対して行う工事。建物自体を工事したゼネコンが工事を担当することが多い。

B工事:出店者が金銭負担し、A工事で用意された以降の設備に対して行う工事。建物自体を工事したゼネコンが工事を担当することが多い。

C工事:出店者が金銭負担し、テナント内の全てに対して行う工事。出店者が発注した内装工事会社が工事を担当することが多い。

 専門家は工事区分に従って、図面を作成します。A工事で用意されている設備に不足があれば、出店者がビルオーナーにB工事を依頼して、施設が指定するゼネコンに工事をしてもらいます。C工事とは飲食店そのものの工事のことです。その際に、打合せなどでお世話になるのが内装監理室です。彼らは基本的に、施設の設備について多くの情報を持っているので、前回まで説明してきた質疑に対して回答する立場にいます。専門家は内装監理室と主にやりとりをします。

C 大型ショッピングセンターでの開業は難しい

 第3章、第4章を通して大型ショッピングセンターでの専門的な検討を見てきましたが、開業する人が全てを自分でこなすことは難しそうです。なぜなら、専門性の高い話が理解できないと、登場人物みんなにとっても、仕事が全然進まず、不幸な結果になるからです。この場合は、腹をくくって最初から専門家に依頼することをオススメします。

 そして、われわれ専門家にとってもこのケースは難易度が高いです。建築図・設備図が複雑になっていきますので、情報収集に時間がかかります。法的な検討も、技術的な検討も簡単にはできません。テナントを借りる人(出店者)とテナントを貸す人(ビルオーナー)は専門的な観点で話ができないですし、どちらか一方だけに有利なことが起きないためにも、建築士・デザイナーと呼ばれる専門家と、内装監理室と呼ばれる専門家の存在が必須となってくるのです。

建築士・デザイナー:出店者のために仕事をする人
内装監理室:ビルオーナーのために仕事をする人


コラム:まだまだ終わりにしたくない

 私は駆け出しの頃、飲食店デザイナーの仕事とは、「図面を描く」、「完成予想図を描く」だけであると思っていました。本当にそんなに単純なのでしょうか?自身のこれまでの仕事を振り返り、全てのタスクを言語化してみると、目に見えない仕事が多いことが発見できました。誰かとコミュニケーションして、何かと何かをつなげる調整役や、専門知識に基づいてその場で迅速な判断や助言をすることは、カタチに残らないので、報酬をいただく仕事として認められていない感じがします。ようするに、図面代、パース代、資料作成代等の現物提出物に対してしか報酬が発生しないことが多いということを指摘したいわけです。設計・デザインの仕事の中でいちばん大切なことは、「情報をつなぐ」ことではないかと思います。

 飲食店ができるまでには次のようなフェーズがあります。これら全てをつなげていくことが飲食店デザイナーの必須のスキルとなります。

① 飲食店の企画→② 基本設計→③ デザイン→④ 実施設計→⑤ 工事監理→⑥ 竣工引き渡し

 上記は飲食店デザイナー視点の飲食店ができるまでのフローです。今回の「飲食店のデザインは誰でもできる!?」では、①飲食店の企画と→までを議論してきました。あくまでも、設計・デザインに焦点を当て、その部分だけを取り出して説明していますので、「なぜ飲食店をやるのか?」のような出店者目線での議論を省いています。

 出店者の「なぜ飲食店をやるのか?」ってとても興味深いです。建築士・デザイナーはこの部分の対話を開業する人と深く潜って、デザインを創造したいと思っています。「情熱」の部分をたくさん対話していきたいです。

 これからも各フェーズがつながりを持つように私の方法論を議論していきたいなと思います。また、これを読んでくださる皆様の本質的で、普遍的な疑問や課題に応えていきたいと思います。株式会社MKKデザインは、飲食店ができるまでに必要な全ての設計・デザイン業務を一気通貫してサービスしています。プロジェクトの規模に応じて、各専門家と協業し、豊かなサービス提供に努めて参ります。

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