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Loose Leaf Room(1)

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短編小説集です。1話完結のものが中心になると思います
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2022年7月の記事一覧

【短編小説】指摘

【短編小説】指摘

私、集中が続かない方なの。仕事でも、趣味にしたってそう。
対策として一気に全て仕上げちゃうのだけれど、それでも終わらなかった場合、よく気分転換に外出するのよ。

その日の夜もそんな感じで、何気なく外を散策していたら、目先の電柱の陰でしくしく泣いている子供を見つけたの。
周りに親らしき大人もいなかったし時間も時間だったから、心配になって声をかけたのね?

こんな時間にどうしたの?って。そうしたらその

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【短編小説】カプセル

【短編小説】カプセル

お、やった。シークレットだ。

ん、あぁこれ?
知らない?カプセルトイ。ガチャガチャとも呼ばれているやつだよ。

ほら。表記された小銭分入れて、このハンドルを回すでしょう?
その時の音からきてるんじゃないかな。まぁ詳しくは知らないけれど。

どうせだし、あんたも先行き占うつもりでやってみ?お金なら出すから。
そうそう。そこにコインを入れて…そんで、それ回してご覧?

おぉ、あんたもってるねぇ。レア

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【短編小説】今日

【短編小説】今日

もう何度、同じ朝を迎えたことだろう。スリープモードを解除した端末は、7月29日の7時8分を報せている。

嗚呼、俺はまた繰り返しているのか。

それをはっきり自覚してから、上体を起こす。きっと今の俺の顔は、とてつもなくひどいものなのだろう。
身支度を整えてから、未練たらしく拒絶する体を無理矢理外へ追いやった。

鍵をかけて、最寄りのコンビニへ向かう。このルートは確か13回目の今日以来だな。
そんな

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【短編小説】音

【短編小説】音

人にとって雑音に感じるものは、それぞれだと思うんだ。

誰かの声だったり、家や外の環境音だったり、何気なく流れている音楽だったり。
そういう無駄を省けば、心穏やかに過ごせるのかな。僕は当時、そうに違いないと決めつけていたんだ。だから実行したんだよ。

ほら。この家の買い手がつかず、廃墟同然になった理由は知っているでしょう?瑕疵ってやつだよ。
丁度キミが立っている辺り。そこでかつて住んでいた家族の死

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【短編小説】うちの子

【短編小説】うちの子

動物を飼ってる人ってさ、自らのペットを『うちの子』って言うじゃん?あれってすごくいいよね。

愛玩ではなくもう家族の一員なんだよ、彼らにとっては。けれど動物を飼ったことのない人からしてみれば、ペットはペット。そんな呼び方をする意味が理解出来ない人もいると思う。
責めはしていないよ?僕も昔は理解が出来ない者達の枠の中にいたのだから。

だからこそ、僕は理解しようと善処した。

そうして僕はやっとその

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【短編小説】進めない、進む

【短編小説】進めない、進む

我先にと争うようにけたたましく鳴く蝉達の声を除けば、ここは本当に静かなところだ。
手頃な場所に腰掛けてギリギリ地面に届かない足をブラブラさせていると、またあいつがやってきた。

「よぉ。久し振り」

またキミか。この時期になると毎年1人でくるよね。友達とかいないの?
僕がそう問いかけると、あいつはふっと笑ってみせた。
「お前が生きてたらきっと、いつまでも昔のこと引きずって生きるなー!とか言うんだろ

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【短編小説】例えば、守る為に吐く嘘のような

【短編小説】例えば、守る為に吐く嘘のような

「それって美味しいの?」
放課後になり、生徒が私しかいない教室で小袋に詰められたグミをつまんでいると、先生はそう訊いてきた。

「美味しくなきゃ食べないですよ」
「相変わらず可愛くない回答だな…」

可愛くなくて結構です。と返して先生から顔を逸らすと、先生は私の手許からひょいとグミの小袋を取り上げ、それの成分表をまじまじと見た。

「なんですか…」
「あー、残念!ローカロリーのこんにゃく入りかぁ!

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【短編小説】推し

【短編小説】推し

僕には昔から、推し続けている人がいる。

推しがいるっていうのは幸せなことだ。その存在だけで、その人を推していることで、こんなにも世界が素晴らしいものに感じる。

『みんな、今日も1日お疲れ様!(*^^*)』

そんな推しの何気ない呟き投稿だけで、今日も生きていて良かったと思える。
推しにお疲れ様って労われた。例えそれがその人を推している不特定多数の人間に投げかけられた言葉だとしても、僕は明日も生

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【短編小説】甘い蜜

【短編小説】甘い蜜

人の不幸は蜜の味、って言葉を知っているかい?
あれってひどいと思わない?

だってさ、他者が痛い目遭っているのを喜んでいるように聞こえるだろう?俺はそんな人間になりたくはないね。

だから、お前も早く楽になれよ。つまらない意地張っていても、辛いだけだぞ?

俺だって本当はこんなこと、したくないんだ。誰かを苦しめる手法は好まない。お前が苦しんでいるのは、見ている方も心にくるものがある。
早いとこ、真

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【短編小説】断れない

【短編小説】断れない

私は昔から、頼まれると嫌とは言えない性格だった。

掃除手伝って。
いいよ。

虫退治してくれる?
任せて。

それ1口頂戴。
どうぞ。

と、まぁこんな感じに。
断って相手の気分を損ねたくなかったし、何より自身が、誰かの役に立てているという充足感を得ることが出来たから。
こういう性格だからこそ、大変なことも多々あったけれどね。

だからさ、今もすっごく困っているんだ。

あなたは私に、助けてくれ

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【短編小説】夜空に問う

【短編小説】夜空に問う

夜空を見る時、その日の気分やどう1日を過ごしたかによって、見え方が変わると思っている。

大切な人と喧嘩した日。
誰かに親切に出来た日。
悲しい別れがあった日。

何かある度に、僕は夜空をぼんやりと眺める。

叱責してくれている気がして。
共に喜んでくれている気がして。
慰めてくれている気がして。

ただ、こういう時は夜空が何を投げかけてくれているのか分からない。
あいつの血液で赤黒く染まった両手

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【短編小説】性分

【短編小説】性分

僕は、飽き性である。

いや名前ではなくて自覚している性分です。
というか、この文を書いているのも何だか飽きたなぁ。何も浮かばないし、このまま終わらせちゃおうかな。

先生の実態を知りたいという読者が沢山いるんです。
少し前、確か前作の原稿をいつも通り、締め切り前に何とか手渡した時に僕の担当くんはそう言った。

実態、といってもなぁ。隠したい訳ではなく、自分から自らのことを話すのが苦手なだけだよ。

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【短編小説】読書

【短編小説】読書

漫画に小説、エッセイや実用書。
本っていいよね。その綴られた世界の中に没頭出来る。

電子書籍?あぁ、最近はそういうのもあるよね。キミはそっち派?

他の誰かの高い語彙から紡がれた文字の羅列を見ていると、なんだか自分も頭が良くなった気がしない?そういう面でも得した気分になれるから、私は読書が好きなんだ。

今は何を読んでいるかって?
これ。不思議な色味の装丁でしょう?でも内容は中々興味深いんだよ。

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【短編小説】あと一歩

【短編小説】あと一歩

もう嫌だ。
もう疲れた。
もう知らない。

『もう』ってつくその言葉達を、何度心の中で叫んできただろう。

校舎の屋上に、申し訳程度に設置された低い柵。それはもう越えたけれど、あともう一歩踏み出せたなら、楽になるのかな。

「千歳!」

あー、またきた。煩わしい奴が。
「なに?入江くん」

「頼むからこっちへきてくれ…!馬鹿な真似するな!!」
へぇ。その『馬鹿な真似』に縋るしか選択肢がなかった人間

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