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【短編小説】断れない

私は昔から、頼まれると嫌とは言えない性格だった。

掃除手伝って。
いいよ。

虫退治してくれる?
任せて。

それ1口頂戴。
どうぞ。


と、まぁこんな感じに。
断って相手の気分を損ねたくなかったし、何より自身が、誰かの役に立てているという充足感を得ることが出来たから。
こういう性格だからこそ、大変なことも多々あったけれどね。

だからさ、今もすっごく困っているんだ。

あなたは私に、助けてくれと懇願している。
でも私は、あなたを始末するように頼まれている。

こういう場合、どちらの頼みを聞くべきなんだろうって。
メリットを考えればいい?でも頼み事というのはあくまで相手を優先させて立ててあげるものだから、あまり自分の損得勘定で動きたくないんだよね。

こういう時は天に任せようかな。財布の中に小銭あったっけ…あぁ良かった、見つかった。
このコインが表ならあなたを助ける、裏なら元々の頼み事を叶える。これならどちらに転んでも、私の意思は干渉しない。このコイントスってシステムを考えた人は天才だね。

じゃあ始めるね。
あなたは精々自分のお願いが叶うように祈っててよ。



あ、なるほど。こっちが出たのか。

ここまでしないと決められないだなんて、断れない性格って本当に厄介だよね。

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