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【短編小説】音

人にとって雑音に感じるものは、それぞれだと思うんだ。

誰かの声だったり、家や外の環境音だったり、何気なく流れている音楽だったり。
そういう無駄を省けば、心穏やかに過ごせるのかな。僕は当時、そうに違いないと決めつけていたんだ。だから実行したんだよ。

ほら。この家の買い手がつかず、廃墟同然になった理由は知っているでしょう?瑕疵ってやつだよ。
丁度キミが立っている辺り。そこでかつて住んでいた家族の死体が、積み重なるようにして1箇所に集められていたって。

あれ、やったの僕。

だってうるさくて仕方なかったんだもの。あいつら、声だけじゃなく心臓の鼓動すらやかましくてさ。同じ空間に居合わせる度に雑音出されちゃ、おかしくもなるって。
だから刺したんだ。あいつら全員。

そうしたら今度は腐敗していく音がうるさくて。臭いは大して気にならなかったけれど死んでからも音を立てるものだから、たまらず家を飛び出したの。
その翌日だったね。僕の叔父にあたる人がここに訪れて、腐っていく小さな山を発見したのは。

叔父さんには悪いことをしたなーとは思っているよ。第1発見者になったばかりに誤認逮捕されて、本当に死刑が執行されちゃったからさ。
誤認だと証言しなかったのかって?勿論解放するよう訴えたさ。けれど僕は、周りから見れば当時は幼く非力な子供でしかなかったからね。そんな『戯言』をまともに聞く大人なんて、いやしなかったよ。

というかさ。話し始めてから何かうるさいと思っていたけれど、キミの速くなった鼓動の音だったんだね。

正直耳障りだよ。もう少し抑えることは出来ないかな?
嗚呼、面倒だなあ。今日着ている服、結構気に入っていたから汚すのは嫌なんだけれど…仕方ないよね。



動かないでね。
今からその不快な音、止めてあげるから。

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