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【短編小説】今日

もう何度、同じ朝を迎えたことだろう。スリープモードを解除した端末は、7月29日の7時8分を報せている。

嗚呼、俺はまた繰り返しているのか。

それをはっきり自覚してから、上体を起こす。きっと今の俺の顔は、とてつもなくひどいものなのだろう。
身支度を整えてから、未練たらしく拒絶する体を無理矢理外へ追いやった。

鍵をかけて、最寄りのコンビニへ向かう。このルートは確か13回目の今日以来だな。
そんな一見矛盾したような思考をしつつ、店内へと入る。冷房が効き過ぎていて、肌寒く感じるのも相変わらずだ。
13回目の時は、自宅の鍵をかけ忘れて空き巣に入られ、帰ったところで鉢合わせてジ・エンド。だからこそ、今回はしっかりと鍵をかけてきた。

大丈夫。今回こそ上手くいく、大丈夫。
だが、その自身にかける言葉が気休めでしかないことくらい、俺は知っていたはずだった。それを思い出した時は既に、コンビニが強盗に押し入られた後だった。

犯人はレジを担当していた店員に刃物を見せた時、既に半狂乱の状態だった。そのままそいつは、偶然なのか何かが気に入らなかったのか、俺に猛烈なスピードで歩み寄ってきて。

そこで、116回目の『今日』の記憶は途切れた。


もう何度、同じ朝を迎えたことだろう。スリープモードを解除した端末は、7月29日の7時8分を報せている。

嗚呼、俺はまた繰り返しているのか。

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