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サピエンス全史⑴〜「想像上の秩序」〜

私の頭の中に「新しい枠組み」を与えてくれたイスラエル人歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリさんの著書である「サピエンス全史」については、過去の投稿で紹介しましたが、今回はこの「サピエンス全史」について私の想いを書きます!。思い入れのある本なので何回かに分けて書くことになりまが許して下さいね。

3つの重要な革命

ハラリさんによると歴史の道筋は、3つの重要な革命が決めたとのこと。

・約7万年前:認知革命(歴史が始まる)
・約1万2千年前:農業革命(歴史の流れを加速させる)
・約5百年前:科学革命(歴史に終止符を打つ可能性がある)

「農業革命」と「科学革命」はなんとなくイメージできます。歴史に終止符を打つ可能性があるというのはショッキングな言い回しですが・・ちなみに次の著書である「ホモ・デウス」を読むとなるほど!となります。

「認知革命」はサピエンス全史を読むまでは聞いたことがありませんでした。しかし「認知革命」を理解してからは、世の中の仕組みや制度・ルールというものに対して比較的クールに、つまり距離感を保って客観的に接することができるようになり、その結果、私の思考や行動はこれらに(以前ほどには)振り回されることがなくなった気がします。やったぜ!

「認知革命」と「想像上の秩序」

「認知革命」とはホモ・サピエンスの認知的能力(学習・記憶・意思疎通の力)に起こった革命で、これにより新しい思考と意思疎通の方法を獲得した。

ホモ・サピエンスは獲得した新しい思考と意思疎通のおかげで、単に現実の情報を伝達をするだけでなく(例えば、「あそこにライオンがいる!」といった注意喚起)、虚構(例えば、「ライオンは我が部族の守護霊だ!」といった架空の物語)を語ることが可能になった。

つまり「認知革命」以降、ホモ・サピエンスは2つの現実の中に暮らしている。

・客観的な現実:川や木やライオンなどリアルなもの
・想像上の現実:神や国民や法人など虚構あるいは架空のもの

神は別として、国民や株式会社などの法人が想像上の現実というのが最初はピンと来ませんでしたが・・・。

この想像上の現実のおかげでホモ・サピエンスは単に物事を想像するだけでなく、集団で一つの架空の物語を信じることができ、その結果、無数の他人と柔軟な形で協力できるようになった。それを武器にしてネアンデルタール人(ホモ・サピエンスよりも体格が大きく強靭で、そのうえ大きな脳を持つ)をはじめ、他の人類種をすべて地球上から一掃し世界を征服するに至ったとのこと。

そして想像上の現実は、ホモ・サピエンスに想像上の秩序をもたらした。そしてこの想像上の秩序の一番の特徴こそがホモ・サピエンスを飛躍的に繁栄させた。

想像上の秩序は「自由に変更可能」である。他の動物のように環境変化や偶然の突然変異を必要とせずとも、新しい行動や様式を生み出すとともに次世代に承継することができるということ。

ドトールで本を読みながら「なるほど!」と納得したことを覚えています。

本筋からそれますが、私がこの「認知革命」に関して興味をそそられるのは、これがまったくの偶然だったということです!偶然にも遺伝子に突然変異が起こり、ホモ・サピエンスの脳内の配線が変わり、それまでにない形で考えたり、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通ができるようになったらしいです。

さらに本筋からそれますが、人材育成や企業の戦略論的な話をするような場面で、ダーウィンの進化論を持ち出して、「強い者が生き残るのではなく、環境の変化に対応した者が生き残る」といったようなこと言い出す人いますが、ダーウィンの進化論としては間違いのようです。

ダーウィンの進化論の本質は突然変異であり、例えば、キリンの首が長いのは突然変異によりたまたま首の長い遺伝子を持ったキリンが発生し、そのキリンの遺伝子を受け継いだものが生き残ったというだけのシンプルな話(高い枝の葉っぱは首の長いキリン以外に競合する動物がいないので食べ放題だった)であって、決してキリンが高い枝の葉っぱを食べるために自ら努力したわけではないそうです(当たり前ですね)。

つまり、進化は努力の結果ではなく、突然変異の結果ということですね。

こういう訳で昨今は組織活性化のためにダイバーシティの必要性が叫ばれているのだと思います。つまり環境変化に対応する組織を作るには突然変異が必要であり、これを効率的に起こすには同質性を維持したままでは(害悪とまでは言わないにしても)難しいということなんでしょうね。もちろん人権といった文脈でのダイバーシティの必要性も当然あると思います。

3つの普遍的な秩序

紀元前1千年紀に普遍的な秩序となる可能性をもったものが3つ登場したとのこと。

貨幣(経済的なもの)
帝国(政治的なもの)
宗教(信仰的なもの)

鳥肌立ちませんか?あるいは興奮しませんか?笑

「貨幣」はなんとなくわかりますが、日本人にとっては「帝国」と「宗教」は馴染みが薄いため(少なくとも私は)、とても新鮮でした。この本をきっかけに「宗教」についての本を読み、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の基本的なことは理解できました。

宗教の基本的な知識がベースにあると、歴史や世界各地で起こっている出来事についての解像度が上がり、自分なりの解釈が可能になります。

例えば、ユダヤ人はなぜ長い間弾圧され続けたのか?イスラエルとはどういう国なのか?イスラエルではなぜベンチャー企業がたくさん生まれるのか?アメリカはなぜ資本主義の本筋になり得たのか?なぜ中国共産党は新疆ウイグル自治区のウイグル族を弾圧するのか?カール・マルクスが言った「宗教はアヘン」とはどういう意味なのか?科学と宗教はどういう関係にあるか?などなど。

「貨幣」についても同じで、暗号資産(仮想通貨)にイーロン・マスクやジャック・ドーシーなど有名企業の創業者が関心を持つのはなぜか?中国が世界に先駆けてデジタル通貨の発行に躍起になっているのかなぜか?

「帝国」についても、そもそも帝国主義とは何か?日本がかつて大日本帝国と呼ばれていたのはなぜか?なぜロシアのプーチン大統領は2014年にクリミア半島を武力で併合したのか?中国が帝国化する可能性はあるのか?

認知革命により、ホモ・サピエンスは3つの普遍的な秩序を構築し、統一を果たしたとのこと。それぞれどのようなことか興味がある方は是非サピエンス全史を読んでみて下さい。本当にオススメです!

「会計制度・監査制度」という想像上の秩序

私たちの身の回りには、3つの普遍的な秩序以外にも想像上の秩序は存在します。

私が公認会計士として長く身を置いてきた監査業務もまさに想像上の秩序の産物です。自然界には会計も監査も存在せず、これらの制度は人類が作り上げました。

人類とは言い過ぎですね。私の理解では、会計制度および監査制度は、民主主義・自由資本主義という2つの想像上の秩序がパッケージとし成り立っている国々(特にアングロサクソン系)で生活する人々によって作られ、長い間これらの国々で運用されてきました。

そして、私は会計制度および監査制度は未来永劫続くものと何の疑いもなく思っていましたが、最近は少し疑いを持っています(本当に僅かです)。

それはなぜか?

前提となるパッケージの中身が変わる可能性がゼロではないということです。そして、それは中国が引き起こします。

権威主義・国家資本主義という、これまで私たちが馴染みのなかった想像上の秩序が新しいパッケージとして世界を席巻する可能性があのではないか?と感じています。

特に新型コロナウィルス感染拡大防止に中国の権威主義が有効に機能しという評価が一部にあり、これをもって国家のガバナンス制度としては、民主主義よりも権威主義が有効ではないかと思い始めている国々があるようです。そのような国々はもともと民主的な国ではなく、経済的にも豊かではありません。このような国々は、経済成長のためには一時的にでも権威主義的なガバナンスの必要性を感じており、中国もそのような国々に権威主義を可能にする監視技術を輸出しています。

一方、経済制度としての国家資本主義については説明するまでもなく、中国は間違いなく経済大国になりました。

権威主義・国家資本主義というパッケージはそれなりに魅力的に見えるようです。

しかし、権威主義・国家資本主義というパッケージの国では、客観的かつ透明性の高いルールによる民主的な運用ではなく、鶴の一声で全てが決まる可能性が大きいです。

事実、中国の配車サービス大手のディディがニューヨーク証券取引所を上場廃止となりましたが、これはディディの方針ではなく、中国政府が安全保障上の懸念から要請したもののようです。

そして民主主義・自由資本主義で育った投資家達までもが、権威主義・国家資本主義で育った企業の株式に投資しています。鶴の一声で上場廃止になる可能性があるのにです。

会計制度・監査制度はそもそも投資家のために存在するものと思っていまたし、投資家の要請に応じて会計制度・監査制度が発展してきたと理解しています。しかし私には、多くの専門的な知識のある投資家が、これら制度の有効性を気にせずに投資してるように見えてしまいます。

最近の資本市場をこのように眺めてしまうと、監査制度は無くなることはないかもしれませんが、非財務情報の重要性の高まりと相まって新しい秩序を想像して枠組みを大きく変える必要がある時期にあるのかも知れません。そしてテクノロジーの進歩がそれを後押しすることになるのでしょうね。

ちょっと長くなってしまったので、今日はここまでにしておきます。

最後までお読み頂きありがとうございます。

ご覧頂いている方々が多くなっており、とても嬉しいです。幸いにして投稿ネタはまだまだあり、何を書こうかと悩むことはありません。しかし「これからも書き続けよう!」と思えるのは皆様のおかげです!

これからもよろしくお願い致します!

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