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たいせつに扱うって、こういうこと。


 コミュニケーションでやりとりする球種は、実に多彩だ。ピッチャーによって得意な球種はちがうから、受ける側も技術をみがき続ける必要がある。キャッチングが下手くそだと、後逸したり、取りこぼして足もとで見失う。

 


 わたしが受ける球でいちばん多いのは、ゆるやかに弓なりの軌道を描くカーブ。球速が遅いぶん、構えやすい。

 次に多いのはチェンジアップかな。ストレートに見えるフォームなのに思ったより遅くて、肩すかしをくらう。それか、ストレートっぽいのに手元でちょっと動くツーシーム系。フォークやスライダーは後逸しそうでこわいから、事前にサイン合わせしたい。

 意外に少ないのが、ド真ん中のストレート。球速によっては、手のひらがしびれるほど痛くなるけれど、王道で心地いい。きっと投げる側がためらうから、少ないんだろうなって思ったりもする。

 

 

 いつまで野球で引っぱるんだよって言われそうだから、たとえ話はこのあたりにしとくけど、こんな直球のタイトルをつけたのは、彼のそのド真ん中のストレートに心うごかされたからに他ならない。

 いいボールを受けたら、ストライク返球で返したい。そう思って、このnoteを書いている。わたしはあんまり器用じゃないから、変化はつけずに、できれば力まない直球で。

 

 

 ある日、TwitterにDM(ダイレクトメッセージ)が届いた。田所敦嗣さんからだった。(※ あらかじめ本人に許可を頂いて書いています)

 田所さんと個人的にやりとりするのは初めて。内容はシンプルで、わたしが撮った写真が気に入ったので、彼の記事に使わせてもらえないかというご相談だった。使いたい写真の画像とともに、公開前の記事の下書きの共有リンクも貼られている。

 

 

 この写真はわたしの過去作品『その手を見ると応援したくなっちゃうんだ』に掲載していたもので、当時みんフォトにはアップロードしていなかった。だから、noteを通じて記事のヘッダー画像にすることはできない。
 彼のDMはいわゆる使用許諾なのだけれど、下書きまで添えた丁寧な依頼を受けたのははじめてのことで、その下書きの内容とともに、じわりと熱く胸にしみた。

 


 回答なんて、即OKに決まっている。
 いくつかやりとりをした結果、その写真をみんフォトにアップロードして、やがて彼の記事は公開された。

 

■135gが持てなくなるまで

 13歳の田所少年は野球を通じて、大人しい“天才”ヨシアキと出会う。ヨシアキとプレーしていく間に、田所少年の胸は悔しさ以上の憧れやワクワク、喜びで膨らんで・・・。少年から青年へと成長していく彼らの出会いと交流、そして。
 今も続く約束が、そこにある。

 

 この記事の最後には、わたしの名前がクレジットされている。行きとどいた気遣いに、喜びがこみ上げ、これからも思いをこめて写真を撮ろうと思った。
 その粋なはからいに、みんフォトを介せずに田所さんに提供すればよかったなぁと、ちょっと後悔した。わたしがみんフォトにアップしたのは、無断借用疑惑から田所さんを守るためだったのだけれど。

 田所さんが選んだこの写真、実は、わたしにとって特別な思い入れがあるものだった。
 自校での練習試合、開始前のノックで娘が球出しをしている。キャッチャーから戻ってきたボールを受け取ろうとする姿。このあと何度も見ることになる光景なのだけれど、このときわたしは初めて見る娘の様子に感動してシャッターを切っていた。
 球技が苦手で、何事にも積極的に関わろうとしなかった娘が、それまで見たことがないほどボールに集中している。チームのためにいきいきと働く姿、その真剣な表情に、ファインダーをのぞく目が潤んだ。

 

 

 田所さんの書く文章を読んでいると、彼が人と関わることで生まれる何かをたいせつにしていることが、よくわかる。おそらく今回の依頼は、彼にとってみれば当たり前のことだったのだろう。使いたいけど使える場所にない写真だから、使う目的を明示して依頼した。それだけのこと。
 ただそれだけかもしれないけれど、撮ったわたしにとっては、ひとつの作品として、その写真をたいせつに扱ってもらえたような心地がして、胸が熱くなった。

 

 写真も文章もアマチュアだけれど、思いをこめて取り組んでいる。
 田所さんのお声がけで、その思いや写真のなかのこども達まで尊重してもらえたような気持ちになったし、「たいせつに扱う」ってこういうことだよねって、あらためて思った。

 

 

 ここからは、田所さんにはじめて出会う人のために、少しだけご紹介を。

「旅することは、生きること。」とプロフィールにうたう田所さん。彼はいままでの体験を文章にしているのだけれど、その守備範囲がえげつなく広いんです。菊池涼介か源田壮亮か秋山翔吾かってほど広い(ちなみに、わたしの推しの選手も守備範囲広いけども)。

 みずからの身体という半径1mから始まり、町内の子供祭り、大自然の野外学習・・・まではわかるけれど、中国、ベトナム、アメリカのテキサス、果てはアラスカ(アラスカのほうが距離的に近いけど、果て感ハンパない)まで。こう書くと「距離の話かい!」って言われそうだけど、そうではありません。
 様々な場所、様々な状況での出来事を描いているし、その土地で撮った写真も添えられていたりするから、読みながら旅をして、その情景を見ているような気持ちになる。でも、単なる旅行記ではないんです。彼の物語には奥行きがあって、行く先々で出会った土地の人たちとの交流が深くあたたかく、胸にしみます。
 田所さんが描くのは、国内外を問わず、異文化圏で出会った人たちとのコミュニケーションから生まれる化学反応です。

 好きな作品ばかりだけれど、人それぞれで好みも違うだろうから、雰囲気の違うものを3つピックアップしてみます。読みごたえは保証するから、読み手 水野うたを信用してくださる方は、ぜひ。これを書いている5月30日現在、田所さんのnote記事数は19件。最初からよむっていう手もありますよ。


■アプーは小屋から世界へ旅をする

 仕事で訪れたアラスカ・アリューシャン列島。トイレかと聞き返すほど小さなプレハブ小屋のチェックインカウンター、予定どおりに飛ばないセスナ、砂利道滑走路に、掘っ立て小屋の空港ラウンジ。そんな土地で出会った少年アプー。田所さんが滞在するトレーラーハウスに、ある日、びしょ濡れのアプーがやってくる。
 わずか2週間の出来事だけれど、その出会いには未来があって。


■ジジイ達の50円
 
 ご近所の世話焼き爺さんに頼まれて、“若いの”=田所さんは子供祭りを手伝うことに。境内での屋台の出品の打ち合わせに、“若いの”が持っていったタピオカ。それはジジイ達には未知の飲み物で。
 赤字か黒字か、価格設定に揺れる打ち合わせのなかで、田所さんが受けた「バットで頭を叩かれるような」衝撃とは。



■なんで梅干しなんですか?

 野球一筋だった小中高を終えて「ようやく人並みの青春を謳歌して」いた田所青年。ある日、母親に「ちょっと手伝って欲しいんだけど」と言われて、内容も聞かずに空返事。そして、連れ出された先には・・・。思いもよらない「手伝い」の内容に、田所青年は抵抗をこころみるけれど時すでに遅し。
 その展開にニヤニヤが止まらない。
 どうやら、この記事を書いたことが最近お母さんにバレたらしいけども。

 

 田所さん、ありがとうございます。うれしかった!







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