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冬の恋人たち


マルナとモデキュウルは、すべてから逃れるため、生まれたところを遠く離れ、海を小さな舟で漂った。

過酷に運命から逃れるため、マルナとモデキュウルは太陽から南へ、南へと移動した。

元漁師のモデキュウルは魚を手づかみで獲り、持って来た短剣で魚を捌き、それを二人で食料とした。水が必要な時は陸に上がり川の水を飲んだ。

二人は陸に住み、家を作らないのか?

二人はなにかから逃げるように、早く早く、南へと移動した。

そして、二人は見た。

空から綿花がゆっくりと降りてくるさまを。

「綺麗、モデキュウル」
「ああ」
「素敵、でも痛みを刺すみたい」
「これは水か?、水が綿花になって空を舞う」


  * *


太陽の軌道の真下、太陽の島々で生まれた二人は、メリウスの大陸の南の寒さを知らなかった。二人は寒さに耐えられず、陸に上がった。

二人は急いで火をくべて、大量に木の枝を燃やして暖を取った。
燃やしても燃やしても、空を舞う綿花が舞い降り、火を消す。

「モデキュウル、どうしよう?、火が消えるよ」
「森の中に行こう、森の中で火を燃やすんだ」

マルナとモデキュウルは、深い森の中に入って大木の元で火を熾した。
深く、巨大な木々の葉が空を舞う痛みを刺す綿花を遮った。

マルナとモデキュウルは大木を背にもたれた。マルナはモデキュウルの胸に頭を預けた。

「体は大丈夫かマルナ?」
「体が震えるのモデキュウル・・、ゆるやかな痛みが、体を硬くする・・の」
「俺もだ、体が硬くなった・・」
「手を貸して、モデキュウル」

マルナは、モデキュウルの手をとり、自分の首にあてた。

「わたしの体のあたたかさが伝わる?、モデキュウル?」
「マルナ、マルナの首は暖かい」
「モデキュウル、体をあわせれば、ゆるやかな痛みが消えるかも」
「マルナ、俺がお前の顔と首を両手で包む、お前は俺の胸に顔を預けろ」
「うん・・、モデキュウル」

マルナはモデキュウルの胸の中に抱かれ、モデキュウルはマルナを抱きしめた。

「あたたかい・・、モデキュウルの体が伝わる・・」
「マルナ大丈夫か、硬くならないか?」
「足元が、痛く硬くなっているよ・・」

モデキュウルは自分の脚とマルナの脚を絡ませた。

「もっと火に近づこう」
「うん」

「マルナ、大丈夫か?」
「うん、・・大丈夫だと思う、変なの、すごく眠い・・」
「俺も眠くなった」
「モデキュウル、このまま抱かれ合ったまま寝ようよ・・」
「そうだなマルナ」
「おやすみ、モデキュウル・・」
「マルナ、おやすみ・・」


    「え?


「誰だ!、誰かいるのか!!!」
「従士なの!?」

    「見つかったぞ・・」
    「お前が悪いのだろ?」
    「でもあのままじゃ、この寒い中寝てしまうし」
    「おもしろいことにならなかっただけだろ?」
    「俺はそんなこと期待してなかったぞ!」
    「ほんとうか?」
    「そんなこと聞いてないのに、なにむきになっている?」
    「あのままじゃ、眠って死んだぞ!」

「お前たちは誰だ!」

    「俺たちはそこの村のものだ」

「村?、お前たちは森の民か!?」

    「そうだ、俺たちは森の民だ」

「森の民、お前たちは何をしていた!?」モデキュウルは聞いた。

    「俺たちは・・」
    「のぞきじゃないぞ」

「変態!!」マルナが言った。

    「俺たちはお前たちを心配したんだ!」
    「そうだ!、そうだよ!」
    「寒いだろ!?、そんな薄い服だと凍えて死ぬぞ!」

「寒いってなんだ!?、服ってなんだ!?」

    「寒いは寒いだろ、服は着るものだ」

「寒い?、服?、なに言ってる!?」

    「なんだろう?、なに言ってるんだ・・」
    「言葉が通じてないのじゃないか?」
    「おーい、でもそんなところで寝たら死ぬ」
    「一緒に来いよ、家で暖かく寝れるぞ」

「暖かい?、暖かいところに連れて行ってくれるの?」マルナは言った。

    「そうだ、ここよりずっと暖かいぞ!」
    「暖かいは通じるんだ」
    「おーい、ここは暖かくない、暖かいところへ行こう!」


  * *


 マルナとモデキュウルは5人の森の民に連れられ、森の民の村を訪れた。
 森を抜けた先の山の岩肌に森の民は岩を削り、岩に穴を開け、家を造っていた。

「待ってろ、族長を呼んでくる」

 ひとりの森の民が、族長の家を訪れた。
 
 族長らしき人が岩の奥から出てきた。齢は高く、いい恰幅と大きな腹、白髪の頭に白い髭をたくわえ、真顔もにこやかな優しい顔をしていた。

「客人か?、どこから来た」
「ずっと北の島から来ました」マルナが言った。
「じゃ、島々の民か?、遠いところ大変だったろう、寒くはないか?」
 そう族長が言った。
「寒いってなんだ?」モデキュウルは言った。
「寒いというのは・・」族長は困った。
「寒いというのは、暖かいの反対だ」ひとりの森の民が言った。
「そうか、とても暖かくない」モデキュウルは言った。

「・・・?、まあいい、客人、とても暖かくない・・・・・だろう?、わしの家へとても暖かいぞ、煮込んだ鶏肉の料理もある。

「いいんですか?、族長さん?」マルナが言った。
「いいとも!、客人が来た日はいつも祭りだ!」
「ありがとうございます!」
「よかったね、モデキュウル!」

「ね、族長さん」マルナが聞いた。
「なんだお嬢さん?」
「この空を舞う水の綿花はなに?」
「これは雪だ、冬に、空の雲が寒く小さくなって降りてくる」
「雪・・、とても綺麗」
「じゃあ、お嬢さん、雪はそれくらいにして家に入って、もっと暖かくなくなる・・・・・・・とすごいことになるぞ」
「すごいこと?」モデキュウルは聞いた。
「世界が静寂に包まれる」
「静寂って?」マルナが聞いた。
「冬支度のご褒美だ」そう族長は言った。



  

Fin


たいあっぷ掲載中の「みなものマリオネット」
クリスマスのアナザーストーリーです。

本編はこちら。
※本編はダークストーリーですので注意ください。

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