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海外生活メンタルサバイバル術①何が心のストレスになるのか

住む国を変えるというのは心にとってかなりチャレンジングなことである。日本国内で違う都市に移り住む場合も然りだが、国境を超えるとその強烈さが増す。

そんな高いハードルにも関わらず日本人の海外在住者は1989年からの統計によると年々増えていて、2019年では約140万人(全人口の約1.1%)にのぼる¹。
参考までに比較するとドイツ人は2019年の時点で約123万人(全人口の約1.5%)が海外に住んでいる²。とは言え、そのうち約90万人がEU内に留まっている。移住先第一位はスイスで約20万人。税金もドイツより安く、距離も近く、かつ言葉もある程度通じやすいというのが人気の理由であろうか。

島国の日本からではちょっと隣の国に移住するわけにはいかないし、日本語を話す別の国があるわけでもない為、日本人が海外に出るとなるとガツンと海を超えて全く違う言葉を話す国に移るしかない。

それでもこれだけ多くの日本人が海外へ移住することに私はどこか誇りを感じている。日本人の好奇心、チャレンジ精神、グリット(やり通す力)に感嘆しつつも、海外生活で否応なしに心に余計な負担がかかることは見逃すことのできないテーマだ。

そこで今回は海外に住んだ場合に心にかかるストレスファクターを3つ、私が個人的に重要だと思ったものに限定してまとめる。

1.自分を表現できなくなる

移住して数年の間は言葉がままならない。それによって不自由さを感じるのは、日常の些細なことだけに収まらない。突き詰めていくと一番つらいのは「自分を表現できなくなる」ということだ。

自由自在に操れれる母国語でなら表現の中に話し方やニュアンスで自分らしさやその場の自分の心の状態を絶妙に織り込んだりすることができる。相手の笑いをとったり、共感を得たり一緒に泣いたりできるのだ。

これは私たちの心にとってとてつもなく大切。

外国語で生きるがゆえにこの「自分らしさの表現」ができなくなると、一人の個人としてでなく、まずは一人の「機械的な人間」レベルで生きなくてはならなくなる。なにせ何かを伝えたい時にその内容が伝わるかが最大の焦点になってしまうから。しかし、これは一つの通過点であり、日に日に良くなっていくので希望を捨てずに進みたいところだ。

2.一人前の大人から子供に戻ったような気がする

特に日本ですでに仕事をしていた人が移住をして現地の言葉を学び直すところから始める際に感じることかもしれない。言葉が片言である故にネイティブから子供扱いされてしまうことがあるのだ。これは若く見える外見もあいまって、日本人はよく体験することなのではないだろうか。

すでに一人前の大人として生きてきた人間にとっては必ずしも心地よい感覚ではない。それでも特に初期の頃はその場でパッと上手い返しをすることができない。この打ち返しができない、自分を自分で守れないことがストレスとなる。

逆を返せば、向かってきたボールを自由自在に打ち返すことができるようになれば、ストレスが激減するということだ。だからここでも希望を捨てずにいたいところだ。

3.勘違いされる

文化の違いによって起こる勘違いは、一方に何かが欠けているからではなく両者が持ちよる要素によって起こる。例えばこれまで日本の文化と触れ合ったことがない人と関わると、こちらの意図を勘違いされてしまうことがある。何が文化の違いに基づいたことなのか、何がその個人特有のことなのかがごちゃまぜになるからである。

一つの例を上げよう。

私はある日ヘッセン州の田舎にあるクリックで面接を受けた。ダイレクターや主任医師等と個人的に話をした後、チームに紹介すると言われ、主任医師に同行され10人ほどの同僚が待つ部屋へ移動した。私が先に部屋に入ると、ずらっと並んだサイコセラピストや医者、アートセラピストなどが半円を描いて椅子に座っていた。

私は真ん中に向かい合う形で用意されていた椅子の前に立ち、扉を閉めて後から来た主任医師を待った。ほんの10秒ほど。そして彼が席に着くのと同時に私も席に就いた。

後に聞いた話では、この行動が私を観察していた10人ほどのチームメンバーの頭の中に巨大なハテナマークを浮かばせたらしい。

「なぜあそこで一瞬主任医師を待ったのか。この人は自分に自信がないのか?」

彼らがあまりにも物事を深読みしすぎるのかもしれないし、「根本的な帰属の誤り³(Fundamental attribution error、ドイツ語ではAttributionsfehler)」という社会心理学的コンセプトで説明がつけられるかもしれないが、これは誤解の種はそこら中に散らばっているということを再度思い起こさせてくれるエピソードであった。

誤解を防ぐ方法は相手に意図をさらっと伝えることなのだが、これも初期の段階では難しいというのが実際のところ。言葉がうまく使えるようになればなるほど(とはいえ言葉がすべてではなく、言葉が上手くできなくても極めて撃たれ強い人もいるが)誤解されそうな場面にも対処できるようになる。

このように食べ物の違いや生活習慣の違い以外にも、目には見えなくとも心にストレスを与える要素は多い。これらのストレスと上手く付き合っていくには時間が必要だが、まずはそのストレスファクターの存在に「意識的に気づく」ことが第一歩と思い今回いくつかの点を紹介した。

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出典

Photo by Gift Habeshaw on Unsplash

1.https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html

2.https://de.statista.com/statistik/daten/studie/157440/umfrage/auswanderung-aus-deutschland/

3.根本的な帰属の誤りとは、簡単に言うと、他人の行動はその人の性格のせいにし、自分の行動は自分以外の原因(システム、天気などなど)のせいにする人間の心理メカニズムのこと

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