坂道(詩)
坂を登っている。
坂の頂上に何があるのかはわからないが、坂の頂上を目指して、足を一歩一歩前に持ち上げている。
広い坂道を何人もの人々が登っている。知っている顔もあれば、まったくの他人もいる。
誰もが挨拶することもなく、必死に坂を登っている。
道端には赤子の屍体が幾人も転がっている。きっと坂を登りきることができなかったのだろう。
坂道はどこまでも果てしなく続いているように見える。
うしろを振り向けば、頂上までの距離を計算して、登りきるのをあきらめてしまいそうだから、前だけを、上だけを目指して坂を登る。
道端には老人や中年の男女の屍体も転がっている。体力や気力の限界を超えたものたちは頂上をあきらめるしかない。
自分もいつ、この坂道の途中で息絶えるかもしれない。そんな恐怖を汗と一緒に振り払い、坂道を一歩一歩登っていく。
頂上に何があるのかはわからない。
ただ、みんな頂上には天国が待ち受けていると信じている。
信じていたことを裏切られるほどの絶望はないが、みんなそんなことにお構いなく、天国への道と思い込んでいる道を、命懸けで登っている。
また一人、また一人と坂に負けた人々が倒れていく。
もし、坂の頂上から見える世界が地獄だったとしたら、人々はどうするのだろうか。
坂の途中で死んでいった人々を羨ましく思いながら、今度は坂道を下るのだろうか。
でも、みんな坂を下る体力も気力も使い果たしている。そのうえ重い絶望まで背負っている。
それならば、人々はどこに向かって歩けば良かったのか。過去に戻ることを切望しても、そんな望みは叶うはずがない。ただ絶望の荷物をさらに重くするだけだ。
ただ、いまだ坂道を下ってくる者がいない。それだけが希望の元だ。やはり待ち受けているのは天国だと信じるしかない。それが頂上に達する者だけが持っている信念だから。それが信仰と呼ばれている信念だから。
また人々が倒れていく。天国でも地獄でもない、ただの現実と呼ばれる世界で。
僕もそろそろ疲れてきた。天国か地獄かもわからない場所を目指して坂道を歩くには、もう歳を取りすぎたのかもしれない。
現実の世界に生まれて、現実の世界で死ぬ。それが当たり前のように感じるようになった。
足が重く、膝の痛みも激しくなった。
終わりのときは近づいている。
ただひとつの心残りは、頂上までたどりついた人が下りてきて、頂上の景色を教えてもらえないのが残念だ。
僕を抜き去って登っていく人々にエールを送って、僕は道の傍らに横になって目を閉じる。