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芦沢央『罪の余白』読了

<ネタバレあり>
娘を自殺で失った安藤聡が、娘をいじめていた同級生二人に復讐しようとする物語。

今回は安藤加奈に視点を当てて、感想を書いてみる。

一番気になったのは、安藤の娘、加奈は自殺だったのか、事故だったのか。

加奈には希死願望があったが、小説内では誤って落ちたように書かれている。思春期を迎えた女子高生の心は、生(父親)と死(母親)のあいだを行ったり来たりした。

そんな状態にあって、落ちたら死ぬ高さにあるベランダの手すりに立つ。死を意識したときに、死ぬのが恐くなるのは普通のことだ。しかし、加奈は母親を犠牲にして生まれてきたという重い業がある。やってもやらなくてもいい罰ゲームを実際にやった裏には、死んでもいいという気持ちもあったのではないだろうか。

ただ、死んだら今度は父親を裏切ることになる。ある意味、加奈は自分の生死を神に賭けたのかもしれない。

『罪の余白』の「罪」とは、決して同級生二人の罪ではなく、くだらない賭けによって死んだ加奈自身の罪ではないだろうか。

では「余白」とはどういう意味なのか。私は、死を弄んだ加奈を誰も罪には問えないという意味であり、自分の「罪」を死ぬ間際に悟った加奈の思いの書き漏れ、言い残しという意味ではないかと考える。

答えを出さないミステリーも十分成り立つことを著者は証明した。

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