マガジンのカバー画像

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

89
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
運営しているクリエイター

#明治5年

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

18 秩禄公債(3)

 年が明けて、馨はオリエンタルバンク主催のパーティー出席した。
「ミスター井上、お越しいただきありがとうございます」
「ミスターロバートソン、こちらこそ、色々お世話になっております。中々のご盛況で」
「このように沢山の方々にお支えいただいて、成り立っています」
「我が国にとってこちらは海外への窓のような所です。今後ともよろしく願いたい」
「確かに、我々もご協力できるのはうれ

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#87

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#87

18 秩禄公債(4)

 アメリカに送った吉田から、公債発行についての進捗の報告も送られてくるようになった。
「これは一体。どうなっちょる」
「井上さん、森さんがどうしてこのようなことを」
「良くはわからん。ただ森は俸禄を給金のようなものでなく、永代受給権的な財産だと思うちょる」
「なるほど、勤労の対価と思っておる吾輩たちとは、違うということであるか」
「とにかくわしは森の言うことは放っておけと言

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#88

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#88

18 秩禄公債(5)

「伊藤くん、呼び出してすまない」
「聞多のことですね。辞職を願い出ているのですか」
「そうだ、止めて欲しい」
「先日、本人から聞きました。公債発行や約定書の事、条約改正の委任状の件もあわせてなんとかします。大久保さんの助けも当然必要ですが」
「それは当然だ」
「大隈さんにも相談する必要があります。それでは失礼します」
簡単に要件だけ話をして、伊藤は出ていった。
 業務の終了

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#89

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#89

18 秩禄公債(6)

 昨年発生した台湾に漂着した琉球民の台湾人による殺害事件は、台湾征伐の意見が強くなっていた。黒田や西郷を中心とする薩摩派が台湾への出兵を建議するなどしていて、出兵に対して反対の馨には、頭の痛い状態が続いていた。
「まずは、琉球について清への貢献を改めさせ、我が国の支配域であることを確認し、藩もしくは県として編入せしめるべきだ」
といういわゆる琉球処分の建議を行っていた。
 

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#90

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#90

18 秩禄公債(7) ロンドンに移動していた吉田から文が届いた。日本国政府が公債発行のため動いていることは、世界の金融機関に明白になっているので、ここで中止することは信用問題になる。そして8%以下では発行は困難なので利率の再考を願うとあった。また大隈と渋沢を集めた。
「吉田から報告が届いた。いよいよ腹をくくらんといかん」
「8%で発行するか」
「渋沢、返済計画の表を」
「こちらに、やはり8にすると

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#91

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#91

19 予算紛議(1)

 銀行が渋沢たちの尽力で形になった。三井組と小野組による合本での第一国立銀行は、それぞれの利害を越えさせ、渋沢の意図通り設立された。本店とした建物は三井組が建設したものを買い上げていた。こうやって、考えていたことが一つ、また一つと形になるのは喜ばしいことだと思えた。
 ある日大蔵省は、江藤が率いる司法省の建議に対して、正院から下問を受けていた。
「井上さん、よろしいでしょう

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#92

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#92

19 予算紛議(2)

 その頃ある問題で英国駐日大使が、外務卿宛に書簡を送っていた。ペルー船マリア・ルス号の清国人苦力が脱走し、英国軍艦に保護され、清国人苦力に対する虐待を神奈川県にある英国領事館に訴えた。このことが契機となり他の苦力も虐待を訴えてきた。日本国政府としてマリア・ルス号の実態を把握し、善処するように求めてきたのだった。
 次に米国代理公使からは解決のための手助けをするとの書簡も送ら

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#93

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#93

19 予算紛議(3)

「定額」を一刻も早く決定していかなくてはならない。時間は待ってくれない。大隈と結局西郷隆盛の協力を得て、「定額」に関する会議を開くことになった。
「概要は私、渋沢がご説明いたします」
「定額とは、一年間の必要経費のことになります。基本筆記具などの消耗品から官員の出張旅費、新規の備品、事業費などを計上することです。これらの必要項目には計上の理由をつけてください。たとえば工具は

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#97

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#97

19 予算紛議(7)

  馨と渋沢は、大蔵省の執務室へと戻ってきた。
「それで、司法省以外ですとどこが問題に」
「一番は工部省じゃ。なにしろ鉄道の金がかかりすぎる」
「市中に金を求めるんはどうじゃと思うちょる」
「カンパニーですか」
「そうじゃ、会社を立て、資本を民から求める。その資本をもとに鉄道を作り、開業後は利益を分配・投資するんじゃ」
「こうすることで、国庫からは支援金程度に収めることがで

もっとみる