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出版統計・データの現状と問題点③最終回

第1回

第2回

前回まで、データ収集における取次の役割、またそのシェアが低下したことの影響について書いてきました。
今回はデータを使う側の意味や価値の変化について考えていきたいと思います。


データの意味・価値の多様化

近年、出版業界ではデータの「商品化」への動きが進んでいます。
これまで、POSデータを取次に送信する・出版社もしくはデータ送信会社に送信するということにとどまっていた社についても、積極的な「データの販売」を始めています。
データの活用方法としては、主なものとして下記のような事例があります。

①マーケティングへの活用

 データを販売促進に役立てる。
 商品の販促企画やキャンペーン等への利用、またそれに伴う報償施策などもこのPOSデータを元に実施される
 →この場合「データそのもの」を購入するより、データによって見えた結果にたいしてお金を払うというやり方もあります

②分析への活用

POSデータや在庫データを分析することで、商品の需要予測や在庫管理、配本方法の見直しなどを実施していく。
市場の傾向を読み解くことで、新商品や新シリーズの企画にも役立てられる
 →POSデータのみの分析だと、商品の有無が見えないため、送品や返品、書店特性や商品特性といった他のデータと組み合わせた活用が必要

③データそのものの販売

主として他業界に対し、データを販売することで収益を得る。
他業界からは、どんなIPが今後人気となるのか、タイアップの可能性があるのかといった分析を期待される事が多い

特に②③の利用法になると、一定程度の網羅性やサンプルとしての精度が問われる事になります。
各書店法人のデータ規模では、市場全体を読み解くことの難しさもあります。

統計≠マーケティング

元々今回のテーマとしていたのは「出版統計」の話でした。冒頭で取り上げた、出版科学研究所の「出版指標年報」や日販の「出版物販売額の実態」は、まさに市場統計の代表例であり、世の中一般に報じられている出版業界の動向はこういった統計から読み解かれた情報になります。

一方、前項で取り上げた「データの商品化」はマーケティングの視点が強い話になっています。
「統計」と「マーケティング」、どちらも、データを使ってそこから様々な分析を行うことには違いはありません。ただ、整理して考えてみると役割や正確には大きな違いがあることが見えてきます。

筆者作成

売上・利益を上げ続けるためのマーケティングの必要性は今更説明するまでもないことでしょう。出店・閉店の経営判断や、出版社の新商品開発からセールス、マーケティングまでに至るまで様々なデータが用いられていくはずですし、それに伴う投資も一定程度は可能でしょう。
一方で、統計です。
マーケティングと比べると、高い網羅性が必要となり、この調査自体では利益を産み出せないという大きな課題を持っています。
また、調査の連続性や継続性がないとデータを読み解くことも困難です。

信頼性の担保された統計データ保持のために

取次は、一民間企業でありながら、双方向の商流/物流を担っているという構造的理由で、出版業界における統計・マーケティングの土台の部分を担ってきました。トーハンも日販も、創業間もない時期から各種データを集め、分析をしてきたという歴史があります。

しかし、取次の経営状況を鑑みても、この機能に存続の危機があることは明らかです。貴重なデータが破棄される、または調査が継続できなくなる前に、何らかの手を打つ必要があるのではないでしょうか。

一方で、市場環境は大きく変化しており、”出版業界”のフィールドは大きく広がっていています。旧来のビジネス部分の数値だけで、今が好調か不調かを判断することは、新たなプレイヤーの参入や若手人材の登用を阻むことにも鳴りかねません。この観点での見直しや整備が必要でしょう。

「出版統計」の重要性、また、取次の担っていた役割・歴史を認識し、信頼性の担保された統計データをどう継続していくか。業界全体で考えていくべき時期ではないでしょうか。

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