出版統計・データの現状と問題点①
6月8日に行われた日本出版学会 24年度春季発表研究会でお話した内容のアーカイブです
今、様々なところで「出版業界が不況」といった話が出ています。そもそもそれはどうやって測られているのか。その見方に課題はないのか。
そのような視点で業界を見直したのが今回のテーマです。
当日は柴野京子さん、鷹野凌さんと登壇しお話をさせていただきました。その中で私の方から提言した内容を簡単にまとめておきます
出版統計は「取次」に大きく依存している
まず、現在「出版市場」を測るための統計数値のうち、最も直近のデータを作っているのは出版科学研究所(出版指標年報など)、日販(出版物販売額の実態など)となります。日販は言わずもがなですが、出版科学研究所も元々はトーハンの一機構、いずれも背景に取次を持つ機関です。
取次が寡占状態であったこともあり、昔は取次経由の物の動きを見れば大枠が掴める状況にありました。ただし、現状は各社が取次業の赤字を発表するなど環境の変化にさらされています。
取次は統計に対してどのような役割を果たし、どのような影響力を及ぼしてきたのか
出版物の流通には取次ルート以外にも多くのルートがありますが、主要どころをまとめてみました。青が「取次」に関わる比率が多いルートになります。
このようなルートに対し、書籍は7万点/年 定期雑誌は2,600誌の新刊が流通し、その上数百万点の既刊商品も流通を続けています。
出版物は「返品」があることから、送品し売上が立った後でもその後の商品の動向を把握する必要があります。このため、流通のハブとなる取次は全取引先、商品の把握をしておく必要があったのです。
取引に必要なマスター整備も
全国の書店数の減少が報じられていますが、この調査もキーになっているのは取次との取引です
*今年1月、大手取次との取引がなくても登録が可能なシステムへの変更が発表されています。下記に詳しく載っています
上記のような取引先管理があることで、出版社は個別の口座を開設しなくても、各書店の存在や情報を確認出来ていた、とも言えます。
もう一点が銘柄(商品)マスタです。
書籍にはISBNコード、雑誌には雑誌コードが発行されており、書誌情報から受発注、流通までの管理が行われています。
このコードに紐付く商品がどういった体裁の物なのか、歴史的には取次に持ち込まれた実物の見本を元に書誌マスタを生成する、といったことが行われていました。
2014年からは、出版情報登録センター(JPRO)が稼働。書誌、出版権、販促情報等の一元管理と利用者への配信を行っています。
取次によるPOSデータ収集
何十年経っても、取次の配本に対する課題の声は止みませんが、私が見てきた時代の中でも各社大きな投資やシステムの回収を行い、その最適化に努めていることは事実です。
今、出版物の初版部数は大きく減少してきています。一般書でも5,000部以下という声を聞く中、減ったといっても小売は1万軒という規模。この中で最大限の努力をしていくしかありません。
この最適化のための手段がPOSデータの収集と分析です。他業界と比較して、出版業界のPOSデータ活用は遅く、盛んになってきたのが90年代後半に紀伊國屋さんがPublineを公開したタイミングから、といったところです。今でもまだPOSで把握出来ない売上は多く存在します。
このPOSデータを業界内で最大活用していこう、と03年に日販が立ち上げたのがwww.project(トリプルウィンプロジェクト)です。
このプロジェクトの中で、オープンネットワークWINという出版社向けBIツールが開発されます。これはISBNコードを持つ商品の送品、返品・POS売上をリアルタイムに分析することが出来るツールでした(22年にサービス停止)
こういったシステム化を皮切りに、今ではインテージの出版POSシステムをはじめ、各書店法人の提供によるBIツールが多く展開されています。それでもやはり、業界の7割程度の市場の状況を見ることが出来る取次提供のツールは大きな力を持っています。
取次ルートのシェア低下
しかし、近年取次ルートのシェア低下が顕著です。
取次ルートとして把握可能な「書店」「CVS」の販売額は2001年→2022年で42%にまで減少しています
他方で、タッチポイントは大きく変化しました
特にネット(EC)、電子というルートの伸びは顕著です。が、これも出典は出版物販売額の実態(発行:日販)からのものであり、あくまで推測値でしかありません。こういった伸張度の高いルートの実態把握の難しさは今大きな課題になってきています。
・・・続きは次回へ