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出版統計・データの現状と問題点②

第1回はこちらから

前回、取次がハブ機能を持っていたことで各種データやマスタの整備の役割を果たしてきたという事を書いてきました。
近年の取次ルートの苦戦は既報の通り。では、取次のシェア低下により出版統計やデータにはどのような影響が出てくるのでしょうか

取次のシェア低下が及ぼす影響

まず、銘柄マスタ(商品マスタ)への影響について見ていきましょう。前回書いたとおり、2014年に出版業界のインフラとしてJPRO:出版情報登録センターという組織が設立されました。詳しくは下記をご覧ください

https://jpro2.jpo.or.jp/pdf/20141211_jpoinfo.pdf

このセンター稼働により、取次の役割が大きく変化しました。それまで、仕入窓口に持ち込んだ見本(書籍の場合)を元に取次で作成されていた銘柄マスタが、各出版社での作成に変わってきました。
とはいえ、入力に携わる人が多くなったことで課題もあります。例えばこんな事例

銘柄マスタの入力変更による変化

取次では専任担当者の元で作業がなされていたため、出版社によっての入力ルールや品質の違いが出づらい仕組みにありました。一方で、各社がその責任の元で入力を行う、となると上記のような課題も見えてきます。特に「シリーズ名」なのか「サブタイトル」なのか、は巻によって違っているなどということもしばしば見受けられます。
こういった品質管理を誰がどのように行っていくのかは大きなテーマだと考えられます

既存のコード体系で把握出来ない売上が増加中

販売拠点、売る物、出版物の定義、それぞれがぐっと多様化しているのが昨今の出版業界です。

書店:独立系書店の拡大
ここ最近、軒数が増えてきている、大手取次との取引を行わない「独立系書店」は把握が困難
*書店コード付与が発表されたものの網羅性や定義など運用には課題あり

出版物:ISBNコードで管理できない商材の増加
出版社にとっては、電子出版物、海外版の売上、IPビジネスによるライセンス商品等も重要な売上になってきています

書店で売る物の多様化
雑誌の点数が減少し、売上も減少、映像レンタル業からの業態変更等を背景に書店で販売されているもの自体も多様化

大手出版社の決算が発表されると、出版物以外の売上比率の高さが話題になります。しかし実際には出版業界全体を見渡しても、「見えない」売上が多くなっているのです。この状況で「出版不況」と言い切っていいのか、立ち止まって考えてみたいテーマです。

データ収集コストの肥大化

過去、取次に集約されていた各種データが分散し始めています。しかし、マーケティングに利用するという立場からは、これには様々な懸念があります。
網羅性の低下。
→報道、発表されてくる数字もサンプルとして見ていい規模になっているのかどうか。
データを集めるためのコストの肥大化。
→すでに、ある商品の動向を精度高く掴むためには、各社のBIツールをすべて確認しないとならない。それらの契約コストが急増している。
など、様々な懸念も出てきています。

次回は最終回「まとめ」となります

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