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職員の好奇心と向上心を後押しするための後ろ盾を

ネガディブな印象が根強い目標管理制度

社会福祉法人でも人事考課制度と共に、人材育成の仕組みとして、目標管理制度を導入している法人が増えてきています。
人事考課制度がキャリアパスに照らし合わせた能力評価であれば、目標管理制度は行動評価といえ、賞与や昇給の基準に位置付けたりしています。

目標管理制度を知らないという方へ簡単に説明をしますと、職員一人ひとりが挑戦目標に対して行動し、取り組み度合いの進捗面談を行い、達成・未達成の評価がなされます。
挑戦目標は法人ごとに特徴があり、組織に関わることとして、事業計画書の重点目標や部署ごとの目標に沿って、何を取り組むか、どういう成果を上げるかといった内容を書くところもあります。
職員の能力開発として、興味関心のある分野の研修受講や上位資格取得といった自己研鑽に関わる目標が設定されます。
このように書くと、目標管理制度を導入することで、組織目標に対して、組織全員が挑戦し、達成・成果を上げることでより良い組織やサービスを提供する組織や人材が育つんだと思われますが、実際はどうでしょうか。

福祉サービス第三者評価で高齢、障害、保育の人事諸制度について見聞きする機会がありますが、その多くが取り組んでいるけれども成果が上がらない(形骸化している)という状況に陥っています。
現場職員の声として、「利用者の安全や安心を意識して仕事しているのに、これ以上目標とか言われても負担だ」「目標を設定しているけど、毎年同じようなことを目標にしています」といった、目標管理制度に対するネガティブな印象があるのも事実です。

ではなぜ、そのような状況に陥ってしまうのでしょうか。
自法人の目標管理制度が以下の4点を満たしているかどうか、チェックしてみましょう。

□組織における役割(役職)や能力(職能)を意識した目標となっているか
□職員の目標に対する行動計画が具体的であり、独自性があるか
□職員の目標達成に向けた組織的な支援(人的・金銭的)があるか
□達成・未達成に対するインセンティブがあるか

組織内の役割(役職)や能力(職能)を意識させるために

ここにチェックが入らない場合、キャリアパスを日頃から活用していない状況が考えられます。
要するに、自身が組織の中で(職層)、どの役割に位置し(役職)、どういった能力が求められているか(職能)、ヒエラルキー(プラミッド型の階層組織)を理解していないということです。
そのため、目標設定と言われても、介護職であれば"介護技術のスキルアップ"や保育士であれば"環境設定の勉強"といった当たり障りのない内容や抽象的すぎる目標になってしまうのです。

このようなレベル感の目標を主任やリーダークラスが提出してきたら…。
そうならないためにも、キャリアパスを日頃から活用し、ヒエラルキーを意識した組織やサービスの質向上に向けて、自身の立ち居振る舞いや貢献できることについて考えさせる機会を持つことが重要です。
それが、目標管理制度の活用につながります。

行動計画を具体的、独自性のあるものにするために

提出された目標管理シートをみた経営層は、みんな同じようなことが書いてあり、驚愕するという経験をされたことはないでしょうか。

まず表現について。
「〜に努めます」「〜を頑張ります」「〜を図ります」という表現では、全くもって実行性は期待できないでしょう(シートにこのような書き方は認めないという一文を入れている法人すらあります)。
「〜に取り組みます」「〜を行います」と宣言させるような表現で、自身にも挑戦目標として決意させることが必要です。

次に「外部研修を受講します」「上位資格取得を取得します」という大事なんですが、当たり前のことが書いてある場合。
研修を"受講する"ことや"資格取得"が目的化してしまっています。
そうではなく、何を目的に研修を受講するの、上位資格を取得するために何を学ぶのか(手段・方法、インプット)、現場にどう活かすか(成果・アウトカム、アウトプット)が大事です。
忙しくて研修を受講できなかった、資格試験に落ちてしまったでは、そのプロセスで何の学びもなく、計画そのものが無駄になってしまいます。
成果やアウトカムを意識させることで、自身が組織に対する取り組みやキャリア形成、能力開発のプロセスはもっと焦点が絞られ、具体化するでしょう。

次項にも関わりますが、具体化すれば、プロセスの独自性という興味・関心に基づく工夫が生まれてきます。
例えば、腰痛予防を目的とした「介護技術の向上」が「福祉用具を活用した介護技術の確立」へ、保育の質の向上を目的とした「外部研修受講」が、「他法人の他園見学」へと、変化するわけです。
しかし、職員個人で取り組めることと、そうではないことがありますので、次項でこのような状況を作るための組織としての取り組みを取り上げましょう。

職員の目標達成に向けた組織的な支援を確立するために

目標管理制度の成果やアウトカムが職員の取り組みの可否だけに依存しすぎると、職員にとっては負担に感じるでしょうし、達成しない場合の上長からのあたりも強くなるでしょう。
それでは目標管理制度に対するネガティブな印象が強くなっても仕方がありません。
そうではなく、個人の成長や達成が組織全体の成長や達成につながっていくことが目標管理制度のねらいでもありますから、組織は個人の成長や達成を支援(アシスト)する後ろ盾(バックアップ)となる役目が必要です。

支援としては、人的支援と金銭的支援があげられます。
人的支援は、個人面談でのアドバイスやフィードバック、助っ人(専門性を有した人)の紹介、情報提供などがあります。
特に個人面談で取り組みの進捗状況や達成状況を共有し、アドバイスやフィードバックする中で、職員の成長を高められるかどうかがポイントです。
面談する上長の的確なアドバイスや回答が職員との信頼関係に構築にもつながります。

もう一つが金銭的支援です。
研修受講費や上位資格取得のお祝い金などの金銭的なバックアップをしてくれる組織は多いと思います。
しかし、それで十分でしょうか。
大手民間企業の多くでは、R&D部門が確立されています。
R&Dとは「Research And Development」の略で、"研究開発"のことを指しています。
自主勉強会と称して、外部講師を招いて、研究的な取り組みをしている法人や施設もありますが、福祉業界においては、圧倒的にR&Dへの投資(研修研究費)が少ないと感じています。
投資なくして、期待以上の成果は望ません。

例えば、「職員:誤嚥性肺炎をゼロにします」→「上長:食事介助の研修を受けてくるのはどう?」、「職員:自主生産品の販売チャンネルを増やします」→「上長:自主生産品を持って営業してくるのはどう?」、「職員:発達に応じた環境設定を見直します」→「上長:園内勉強会をして理解を深めるのはどう?」というアドバイスや提案で、職員がワクワクして目標に挑戦しようとは思えません(少なくとも、私はワクワクしません)。

「R&D費として1万円を支給するので、自由に使って成果を上げてください」と言われた方が、職員も挑戦目標達成について主体的にプロセスを考えることで視野が広がり、より高い成果を上げてくれる可能性が高まります。
R&D費は研修費用の予算をうまく活用するというのも一つの方法です。
職員と共同で挑戦目標に取り組むのであれば、R&D費も増え、取り組み幅が肉厚なものになるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、そのR&Dの成果・アウトカムをどのように評価するかということです。
次項にも関わりますが、達成・未達成が賞与や昇給に反映するとなると、言わずもがな職員は達成できる目標や取り組みになってしまうものです。
しかし、それでは組織やサービスのボトムアップやブラッシュアップは期待できません。
難しい挑戦目標に取り組んだけれども、未達成だから評価しませんではなく、その取り組みや失敗から何を学んだか、どういった課題が見え、次年度につなげられそうかというフィードバックを評価し、0 or 100ではなく、評価できる仕組みがあると良いでしょう。

このような取り組み成果を「アクティブ福祉in東京」や「介護甲子園」といった発表の場で日頃の取り組み成果を発表し、「福祉業界のスタンダートにしていく」といった大きな野望を持つきっかけになっても良いと思います。
研究発表大会で取り組みの良い部分だけではなく、失敗談や困難を交えている発表の方が現実味があって、共感しやすいということがあります。
目標管理制度においても、そういった部分を評価するという組織風土を作り上げて欲しいですね。

日々の業務が忙しく、このようなR&Dの視点はなかなか持てにくい状況があるからこそ、目標管理制度を通して、R&D文化を組織に根付かせ、組織力の強化やサービスの質向上を促していきましょう。

達成・未達成に対するインセンティブを作るために

この点については、法人の考え方によって、考え方が分かれるところです。
目標管理制度は組織に対する貢献度を図る制度であることを踏まえれば、頑張って成果・アウトカムをあげた職員にはインセンティブを与えることに私は賛成です(営業マンの営業成績に伴う歩合的な意味合い)。

インセンティブの付け方として、挑戦目標のレベル感(高・中・低)と達成度(5・4・3・2・1)でマトリクスを作り、係数(掛け率)に沿って賞与や昇給の算定に使用しているのが一般的だと思います。
インセンティブに反映するとなると、目標達成の精度を高めるためには、達成後の姿(定量的・定性的)を具体化することも必要です(目標設定同様)。
また、賞与や昇給の算定に使用すること、その考え方や計算式が職員に周知されていること(シートにマトリクスを明記しておく)をお勧めします。

先述してきた通り、目標管理制度の運用上、いろいろな課題を抱えている状況の中で、インセンティブをつけると、余計ネガティブなイメージが強くなる懸念もありますので、制度を検討する際はご注意ください。

好奇心と向上心に従って、働く目的をアップデート

現場職員の中には、「介護がしたくて働いています」「子どもと触れ合える仕事がしたい」という意向で福祉の仕事をしている方が多いと思います。
私もそうでした。
しかし、これらの理由はあくまでも手段・方法であり、目的化してしまうと、組織人としてはこれ以上の成長が見込めなくなってしまいます。

逆にいうと、一般の介護職員は経営の最前に立っており、だからこそ数字や経営指標を用いた"数字力"を養う必要があるのです。
そうでなければビジネスではなく、ただ高齢者が好きな心優しい人の集団でしかないのです。

目標管理制度は組織的な仕組みとして機能しますが、職員一人ひとりの好奇心と向上心に従って、皆さんが働く目的をアップデートし続けないと、仕事の楽しみを見失ってしまうのではないかと懸念しています。
R&Dの取り組みを導入している福祉現場は限られていますので、職員が末長く働く目的をアップデートし続けていくための投資として検討する価値はあると思います(リーダー層向けの研修に「研究発表」をテーマに位置付けています)。
最初は目の前の利用者の視点からはじめ、ゆくゆくは施設・法人・業界といったように広い視野を養う中で、その組織や福祉業界で働く動機付けにもなると考えています。
皆さん自身の多種多様なキャリア形成や能力開発を実現するために。

管理人

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