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【読書】池内規行『評伝・山岸外史』を読んだ

 私は太宰治の作品や檀一雄「小説 太宰治」で山岸外史を知り、これまでには山岸の「人間 太宰治」「人間キリスト記」を読んだだけなのだが、物事をサッパリと見極めて楽天的理想主義とも言える言葉や振舞いを貫く山岸に興味があった。

 この評伝では幼少期のやんちゃな山岸からなかなか文壇に認められず貧窮して筆を折りかけた時期、太宰と出会い青い花・日本浪曼派・コギト等で活躍した時期、戦争を経て政治と文学について悩み書きあぐねた時期、青い花を復活させ後進に目をかけた晩年が書かれていて正に「人間 山岸外史」を知ることができる。

 面白かったのは、太宰を信奉し研究する人の中には「人間 太宰治」などの山岸外史の証言を創作だとして認めない人たちがいるという話。これが山岸外史と太宰の交友を良しとしなかった井伏鱒二などの先輩作家、もっと下衆な言い方をすれば文壇で発言力がある作家の記憶や主観に周りが追従しているということなのであれば山岸は現代に至るまで不当に無視され続けているということになるし、実際に保田與重郎が創刊した同人誌『コギト』に書いていた作家や実際に山岸と交流があった人物は山岸から直接太宰の話を聞いてもいるし山岸こそ(ある時期のという限定はつくだろうが)太宰を真に理解していた、少なくとも最も文学的交流を深めた人物だという意味の発言をしている。やっぱり故人の研究ということは難しい。本人の著作や発言、周辺人物の著作や発言の何が本当で何が創作かなんてことは誰にもわからないのだから。

 でも個人的にはそれこそが近代文学を読む、古本を買い集める楽しさでもある。なるべく多くのエピソードを集めて自分なりの人物像や人物史を作っていくという。誰もが自分なりに語っているに過ぎない(もちろん労力や資料数なりの信憑性の高低はありますよ)のなら誰が語ってもいいはずだ。

 私が集めているのは主に太宰治・檀一雄・山岸外史のいわゆる「三馬鹿」の著作や彼らを語った本で、のちのち彼らのエピソードをnoteで紹介していけたらなと思っている。

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