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一文物語 2017年集 その7

本作は、手製本「一文物語365 天」でも読むことができます。

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その図書館のほとんど人の通らない通路の本棚で、なんとしてでも読まれたい本が、身を投げ落としてアピールしたり、蝶のように飛んで、読書中の本の上へと覆いかぶさったりと、迷惑で呪われているという古い百科事典がある。

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寝ている人に触れると、どうして眠ってしまったのかがわかる彼は、帰りの電車で隣に座って眠ってしまった女性の頭が肩にぶつかるほど寄りかかられ、こっぴどく上司に叱られた一部始終ががんがん伝わってきて、電車を降りる頃には女性と同じように彼もぐったりとしてしまった。

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彼は、帰りの電車でうとうとしてしまい、隣の女性の肩に長いこと寄りかかっていたらしく、甘美な香りに包まれた夢心地の時間を過ごし、降車際に彼女から添い肩貸しサービス料金を請求された。

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その会場のすべてのビンの栓を抜き終えた栓抜きが、いくつものテーブルの上で抜き差しならぬ屍のごとく打ち捨てられている。

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人々の目が閉じる時間、工事という魔物が闇夜に赤色灯を伸ばしていき、着々と工事現場を拡大して、いつしかその星は、誰もいない赤い星と言われるようになった。

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青い空にある閉じられたファスナーを引っ張ったら、宇宙が漏れ出してきた。

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彼女は、繊細であるがゆえに何でも感じとってしまい、中でも握手は避けたい行動の一つで、仕方なく握手をしてしまうと、相手の指紋が頭の中をかけ巡り、紙に描き出してしまわないと落ち着くこともできず、その一週間は無我夢中になり、音信不通になってしまう。

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パチンコ中、玉が突然梅干しに変わって次々と打ち上がり、よだれがフィーバー。

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呪縛からの解放を掲げたロック歌手が、歌い終えるとステージから消滅していて、観客は心の中でシャウトされ、一人一人閉ざしていた真の気持ちが開放されて、それから一生軽やかに、みな過ごしていった。

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頭痛の鐘が鳴り止まない。

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賑わうプールの底がだんだん下がっていることに、みんな気づかない。

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町で何度も同じ女性に絡まれるその青年は、毎回振り逃げていたが、ついに縄で縛られてしまい、気絶させられて目が覚めると見知らぬ部屋でその女と繋がったその縄は、ちょっとやそっと抵抗したくらいでは切れない赤い糸でよられた縄だった。

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また少女は、風鈴を作っては、ありとあらゆるところに吊るし回って、周囲から迷惑がられているが、音が鳴れば、風になった兄がどこにいるのか感じている。

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一度しかない飛び込みの機会を不安になって、震えたまま目をつむって飛んだ者たちは、正解と言われる着水地点からずれ、深く沈み、上がってこない。

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千本鳥居をくぐるたびに髪の毛が抜けていく。

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久しぶりに旧友に呼び出された彼は、出身地を聞かれたが、君の空想から生まれたんだけど、とは答えることはできず、すっかり忘れられてしまっていたことで、彼の姿は消えてしまった。


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肩こりの激しいその女性は、風船を肩につなぎ、ついでに体重も軽くしようとしている。

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壊れかけて、くすぶり消えかかっていたり、変色した魂を直してもらおうと、大地の果ての森に住む修理屋の女を人々は訪ね、巨大花から流れ出る蜜の滝行を終えると、甘美な人生に潤った魂を燃やして帰っていく。

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強盗に押し入っている間に、大雪が降り、逃げ出すころには警察がやってきて、足跡だまし作戦で、建物の周囲をぐるぐると回って逃げ回る耐久戦に出たが、挟み撃ちにされた。

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その異種交流会では、人や動物、建造物の骸骨たちが自分の骨を自慢しあって、時には丈夫な骨が欲しいと、鉄骨と交換していたりする。

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寂しさのあまり、毎日送られてくる迷惑メールに生き生きと返信してしまう。

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女性は、付きまとわれているストーカーに接触され、君の名前を売って欲しいと言われたが断り、それ以来ストーカーはいなくなったが、彼女と瓜二つの女が町を歩いている。

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彼は、息子に天体望遠鏡を買って、夏休みの課題として星の観測を始めたが、ときどきどこかの星の人の顔が映り、世紀の発見だと騒ぐ父子に、そんなはずはないと母は呆れていて、それは望遠鏡に紛れ込んだ小人だということがわかり、課題内容が急遽変わった。

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客を引っ掛けられなくなった瀕死の詐欺師の前に、夢か幻か鳥のサギが現れ、片目と交換してもらった大金を運んでくるという見たことのない美しい鳥を売ったら、二束三文にもならず、詐欺にあった。

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彼女の心を包む強化ガラスは、どんな衝撃にも耐え抜いたが、彼の温もりで簡単に溶けてしまった。

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笑顔の政治家が写るポスターに落書きをされてもなお笑顔の彼は、嘘を追求するためにマイクを握った途端、極悪の睨み節と暴言で正義を貫いたという戦い以後、依然と笑顔のポスターだけが嘘を主張している。

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その呪われたカメラで撮った写真には、何も写っておらず、その晩の寝ている間に、頭の中の全ての記憶が吹き飛ぶくらい鮮明に写真が焼きつけられる。

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曇りの日が続いて、いくらか涼しくなった夏のある日、雲が晴れると、だるまさんがころんだをしていると勘違いした太陽が、近くでギラギラと静止している。

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暑くて眠れず、真夜中に散歩をしていると、墓地の前で、暑くて眠れん、と骨身に耐えるような声が聞こえてきた。

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目玉焼きのUFOが襲来して、その国の人たちはしょうゆ銃で応戦。

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閉ざされた扉が開き、中のものは輝いて見えて、中から外も輝いて見えている。

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