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一文物語 2015年集 その11

本作は、手製本「一文物語365 花」でも読むことができます。

1

夜、家に帰ると、部屋の鉢植えが倒れて土が散乱していて、植物たちが脱走を企てたようだか、一メートルも進まず失敗していた。


2

たとえ話しかしなかった彼女のことをふと思い出し、知人にその話をしたら、そんなたとえ話はよせと言われた。


3

人間界を眺めてため息をついたその神は、生まれて死ぬというごくごくありふれた人生に憧れている。


4

自分以外がいなくなってしまうと予言した彼だったが、その時、それを証明する者は他に誰もいない。


5

決して一番の座をゆずろうとしない彼女は、誰よりも速く一番高く吊るされたあんパンにさえも飛び食いつく。


6

一部の大きな駅では、朝、自動改札機から人人が生産されている。


7

どうにもできない現世を嫌った彼女は、カメラの中に逃げ込み、写真の中にしか存在していない。



8

昨晩、やっと彼女の持っていた花が初めて開いた。


9

会社で上司はモグラのように出てくる杭をハンマーダンスしかしていない。


10

なんでも形に収めたい演奏の先生は、お手本としてトランペットを吹くと先からその音の楽譜が出てきて、自分がどんなに練習をし、いかに熱い思いで教えているのかが歌詞になっている。


11

あちこちで悪さをした悪人たちは、業界に嫌気がさしたと供述して変装を解くと天使が肩をすくめていた。


12

画家の彼に絵を描いてもらった若い女たちは、体を奪われ、時の止まった絵の中に閉じ込められてしまう。


13

美しいと月や太陽、星々を眺めているが、遠いところで分かりづらいが指を差されて嫌がり悲しんでいる。


14

歴史の古い土地の曲がり角で、妖怪と出くわさないかと都会からやってきた妖怪が何年もそれを続けている。


15

条件をのんで官能作家の妻と結婚できた夫は、登場人物として魅力的変態として描かれ、一生を万人に尻の穴を見られているような視線を受け生きることになった。


16

落ち葉が水たまりに浮いて青空を邪魔していたので、どかそうとして曲げた腰が戻らなくなってはいけないと老婆は、空を邪魔する葉を振るい落としにかかった。


17

落とし穴ばかり掘るので、ハシゴをかけるビジネスで、落ちた人を救いと見せてさらに陥れる。


18

少女は、足の指に暇を持て余した時間をつぎ込み、箸が握れるほど動くようになった。


19

甘い餌で釣っても誰も近寄ってこない男が、公園で幸せそうに鳩に取り囲まれている。


20

何度打とうとも、釘はひねくれたように曲がってしまう。


21

夜、幼娘のおしめを笑顔で替え、朝になったら愛の言葉をかけて銃を手に出かけていく。


22

墓石の下は漬物。


23

寒くてポケットに手を突っ込んだら、奥から握り締められ、引きずり込まれた。


24

翌日の天気は晩の睡眠時間で決まり、その地域では長雨が続き、町民は夜な夜な何かをしている。


25

ずいぶん遠くまで来てしまって急にメールを送る。


26

鏡に映っていない時、鏡の中のもう一人は何をしているのか気になり、一日中鏡の前に彼女は居座ると、半日もしないうちに鏡の中から怒りの罵声が聞こえてくる。


27

太陽は声援を受けていないと燃えないので、各国の塔の上で、声援師団が謝辞や賛辞を述べ、鼓舞している。


28

桃色誘惑ばかりしていた男は漂流の刑に合い、海のど真ん中で人魚に海底に来ないかと誘われている。


29

隣の恋愛小説に恋している百科事典は、博識を見せびらかし、物語合いまみれたがっている。


30

夢をさまよっているうちに、出られなくなってしまった。


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