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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その10

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 下」でも読むことができます。

1

彼らは、いつ割れてしまうかもしれない美しい青の爆弾の上に住んでいる。

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2

静かな薄明の街にかかる紫色の霧が晴れていく中から、棺に車輪のついたバイクが一台走り去るのを見て、何かが目覚めようとしているのか、それとも自分の目覚めがまだ中途半端なのか、始発の運び箱の駅へ急いだ。

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3

全てのやる気が失せてしまった彼女は、ただただ日がなシャボン玉を吹き続け、表面の模様や光の反射、進む方向から割れるまでの時間、割れ方が千差万別であることに気づき、シャボン玉の中より、という人の生き方をテーマにした小説を書き始めた。

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4

流れ星から大量の願い事を依頼された天使は、注文の多さに仕事が雑になり、愛の矢を適当に地上に降らせると、今度は、望んでもいない人と一緒になりたくない、という流れ星からの依頼が大量に届いた。

一文物語挿絵_20181004


5

太陽が消滅して暗闇世界で生きる中、発見してしまった光を生む植物を、明暗が分かれる世界は二度とごめんだと、影でいたいその人物は、踏み潰した。

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6

金のなる木から、金の実が落ちた少し後、人々は、そろそろだな、とまた集まりだし、枯れた葉がお札となって風で散っていくのを、追いかけて行く。

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7

煩わしい社会を離れ、隠れて生きたいと森の中で穏やかな生活ができると思った彼だったが、周囲と同化するように心が迷彩になり、さらに複雑な思いをすることになってしまった。

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8

ここぞという時に使えるわよ、と小悪魔な少女が、小瓶に入れられた涙を売っている。

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9

幽体離脱してしまった彼女は、一度はやってみたかったと、おもいっきり食パンに顔をうずめたら、ぴったり貼りつき窒息しそうになって、目が覚めるとうつ伏せで倒れていた。

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10

味は悪くないが、どうしたらそんな毒々しい色の料理が作れるのか、本当は魔女なのかもしれない妻に聞くと、漬物にした日々言えない感謝を混ぜている、と言った。

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11

個性がないと嘆く純粋に真っ白な天使が、人間界の配色自販機で、虹色を買って、天界まで待ちきれず空で、自分に粉を振りまいて、虹の尾を伸ばして消えていった。

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12

みんなで吊れば怖くない、といっせいに輪っかに首を入れたが、重さで支柱が崩れ、その人生は不正解だ、と言い渡された。

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13

古いものだと、紐を引っ張って電気を点けたり消したりしていたのは、太陽も昔はそうだったから。

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14

彼女は、別れてしまった彼にもらった黄色のハンカチを捨てるには、まだ辛く、糸を一つ一つほどいて、気持ちを先延ばしにしている。

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15

ずっと四つ葉のクローバーを探し続けているうちに季節が変わり、片そうとした扇風機が四枚羽であることに気づき、しまうのが惜しくなったが、来年、使うときが楽しみになった。

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16

祈祷師が雨乞いの言葉を唱え上げると、隣の地域に浮いた雲から落ちる雨が、紐のように手繰り寄せられ、村民は、丸められた雨玉を山の上から投げると、紙テープのように乾いた大地に伸びていく。

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17

祝われる覚えのない日、プレゼントが届き、青いリボンをほどくと、床が水浸しになるほど水がとめどなく溢れ、喉が乾いたささやかな思いが像になる世界が始まっている。

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18

あーれー、と薄闇の中、帯を勢いよく引っ張られて回る女は、天井を突き抜け、竹とんぼのように何処かへ飛んで行ってしまった。

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19

山に住む唯一のドラゴンは虹色模様をしているためか、吠えても怖くなく、吐く息も虹なので、見る者は魅了され、子供たちが恐れなく近づいてきては背中に乗って、飛んで、という。

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20

音漏れしない新築の家に夫婦が住んでいるが、声を必死に押さえ込む壁は赤くなっていて、夫婦は家の外に喧嘩していることが知られているとは思っていない。

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21

枯れ果てた外を叫んでやってきた男が、中から開かないドアを破り、握ってきたその手はとても暖かく、最後まで手を引き、眩しい光を放つ男の背中を、町まで見続けた。

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22

黄色い声援を送る観客の口からは、錦糸玉子が吐き出されていて、風に舞っている。

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23

カサカサ、カサカサ、ガザ、カサガザ、ガザカサ、の葉の形が悪いのか、吹いた風が悪いのか、議論が終わらない。

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24

その開発者は、できあがった魚の声を聞くことができる機械を海に入れた瞬間、頭が揺さぶられ、慌てて外したヘッドホンからは、大音量の、しょっペーしょっぱい、という声が響いてきていた。

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25

宇宙怪獣が、飴玉のように地球を舐めると、顔を歪めて、しょっぱいと吐き出し、かじった月は硬くて、涙目になり、二度と近くにやってくることはなかった。

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26

夜、何気なく入った占いの館のなぜか焦り続ける女に、すぐに異性との出会いがあります、と震え声で言われた彼は、疑心暗鬼で店を出ると、すぐ後ろから、照れ顔の占い師に呼び止められた。

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27

集積所に集められたゴミ袋はカラフルで、まるで虹がつめ込まれているように見えるが、その一帯は、頭を狂わせるあらゆる匂いが漂っている。

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28

退屈極まりないもみじ狩りに連れて行かれた男の子は、炎を放つかのごとく赤々と色づいた葉を舞い上げてはしゃぎ遊び、その晩、ひと山燃やした悪魔となった夢を見て、おねしょをした。

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29

たくさん子供が欲しいね、と誓い合ったその晩の夕飯に、イクラが出された。

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30

路上ライブをしている一人の青年の前に、黄色い雨合羽を着た迷子の子供だけが立っていて、青年は、迷子の子の親を探す歌を歌うと、しだいに集まった人々と大合唱となり、親子の再会に拍手喝采となって、小さなライブは終わった。

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31

木の役をもらった子供が、枝に見立てた腕を広げて動かない練習をし、雨の日にも外で雨にうたれて、小鳥を雨宿りさせるくらい木になりきっていたが、劇の当日、風邪で休んでしまった。

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