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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その9

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 下」でも読むことができます。

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世界中を旅したかった彼女の砕いた骨を、彼はこっそりいろんな国に撒き続け、最後の一つまみは、終生彼自身とともに過ごしたあと、墓でともにさらなる眠りの旅に出ることになった。

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2

分身をコンビニのコピー機で簡易的に作った忙しい彼だったが、あくまでコピーなので、忙しさも二倍になってしまった。

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3

電気のない世界には、まだ、この一文すら届いていない。

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4

入院していた殺人犯が病院から脱走したことを知らせるサイレンが、町中に鳴り響く中、殺人者は、電車やバス、自転車などを使っても、必ず病院の健康診断用レントゲントンネルを通り、骨格が一致して、捕まってしまう。


5

人さらいが、次の目星をつけに出かけると、不意に吹いた突風にさらわれてしまった。

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6

創作ダンスを披露するために彼女は、雨乞いをする田舎へ取材に行き、祈りと踊りを教えてもらい、金を降らせるダンスを披露したことで、世界はそのダンスに熱狂し、注目を浴びた彼女は、プロのダンサーになった。

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7

彼は、人と会った翌日から数日の間、鏡の中で一人で必ず過ごして、存在を透明にしてから、また自分の色を定着させて、外へ出る。

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8

緊急事態で、真っ青な顔をした男がトイレに駆け込んで行くと、瞬く間に、個室ごと宙に打ち上がって、どこかに飛んで行った。

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9

この星の住人は、下ばかり見ているので、次第に地面がガラス板に覆われて、あらゆる情報がそこに映し出されることになり、反射が青いと言う人はいるが、空が青いと言う人はもういない。

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10

ゴミ置場に、宝の地図が山ほど捨ててあり、すでに誰かが探した後なのか、単に夢を諦めただけなのか、拾おうか迷っている間に、夢追い人に地図をチラシのごとくどんどん持っていかれてしまった。

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自分探しの旅に出た彼は、異国のいろんな人を見、土地土地で迷い、古びたホテルの鏡に映る疲れ果てて懐かしい自分がまだいてくれたことに気づき、家に帰ろうと決めた。

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人工的に作られた呼吸を合わせる空気に満たされたその国で、彼女は思いを悟られないようにマスクの内側に、もりもりに花を詰め込んで、一人だけ自然の香りをかいでいる。

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13

悲壮感と美が同居する女性が、たくさんのレコードの中から、指が切れてしまうほど鋭くエッジの効いた円盤を見つけ、街中で投げ回っている。

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14

山奥で見つけた蜘蛛の糸だらけの廃工場に放置された古びたその動力機構の前で、男がコーヒー休憩をとっていると、突如、その機械から蜘蛛の糸が放出され、身動きが取れなくなり、糸を伝ってくる振動が強くなっていく。

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別れた彼女が家を出て行き、心機一転の新居に引っ越す彼の荷物は、積みきれないほど多く、重く、いなくなったはずの彼女の捨てられない愛でいっぱいだった。

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嵐で屋根が吹っ飛んで、隠していたハゲ頭のカツラも飛んでしまった主人の家に、タイミングよく他の家の屋根にかぶさり、どこからかやってきた長髪のカツラもかぶさり、鏡を見た主人は、毛が生えたのかと喜んでいる。

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閉鎖された水族館に忍び込み、からっぽの水槽の中から外を見たら、こちらをあざ笑うかのような無数の目玉に見られていた。

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くすぐり村では、軽い挨拶でもくすぐり合い、食事中だろうと、就寝中だろうと、脇に隙があれば、くすぐられ、笑いが絶えないが、笑いすぎて死ぬこともよくある。

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地面が割れ、星が崩壊していくさなかだが、人々は、ガラス板を手放すことなく、写真を取り続け、死んで宇宙を漂おうとも、その姿勢は変わらなかった。

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20

朝起きて、鼻水が止まらなくなっていた彼は、寝ている間に、頭の裏からホースが直接鼻に繋げられいることを知らず、出かけにホースを踏まれて止まるも、その場から動けないでいる。

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少しうつむいて、両方の眉に絆創膏を貼った女性が、歩き過ぎ去っていった。

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少しの間世界から切り離してくれる観覧車に、長蛇の列ができているが、乗っていく人ばかりで、降りて来る人はおらず、天辺に到達すると、空と同化する。

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咆哮を上げる複雑なモンスターは、何を言っているかわからない暴言を吐き、お金で釣り、人の心も餌にして、同種の中でも弱い人間にしか噛みつかない。

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開け放たれた真っ暗闇の窓から、束ねられた紐が、こちらに伸びていて、それを引っ張るにはさほど力は必要なく、その無数の紐の先には、羽ばたき続ける蝶々がつながれいた。

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世間を黒い霧のかかったようにしか見なかった彼は、クリアな状態でもう一度素直に向き合うため、薄汚れている目を、ゴゾゴゾと筆で洗われている。

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よくいじめられていたひ弱だが優しい少年は、転がり落ちてきたドラゴンの卵を巣へ返しに行く途中で、ドラゴンの親になってしまい、一生、村に戻ることはなく、人目のつかない山奥で暮らしている。

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夜、誰も住んでいなかった古城の窓にオレンジ色の明かりが灯り、太陽族がこっそり仕事をサボっている。

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少し重めの卵に、黄身が二つ入っているのかと期待して割ると、ゴロンと月が落ちてきて、きっとどこかの養鶏場に、月産み鳥がいることを知った。

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どこまでも続く草むらに迷い込むと、草をなびかせる風の音とともに誰かの詩が混じっていたが、どの声の主はみな強い想いを宿した骨となっていて、時折、主張された詩が詠まれると、骨が宙に飛び上がる。

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30

生まれ落ちた時も、殻を破った時も、真の自分を見つけた時も声にならないほど泣いて、こぼれた涙は、誰かの乾いた心に潤いをもたらしている。

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