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水の空の物語 第3章 第28話

 夕焼け色の山道を、蓮峯山から出るバスは進んで行く。

  風花は窓にもたれて、オレンジ色の空を見つめていた。 
 さっきまでいた春ヶ原。夢のようだったあの余韻はまだ残っている。

 バスという人の世界の現実の中にいると、余計に名残り惜しい。 

 今日の夕焼けは、西の空いっぱいに広がっている。暖かくて優しい色だ。 

 夕日は、窓からも差し込んでくる。風花だけがそれに染まっていた。

  他に乗客はいない。
 来たときと違って、飛雨の姿もない。

  日が暮れてきたので、風花たちは春ヶ原から帰ることにした。 

 まだ聞きたいことはたくさんあったので、優月たちとはまた会う約束をした。

  帰りの道案内は必要ないからと、飛雨は夏澄たちと帰っていった。 

 風花は目を閉じる。 

 そうすると、別れ際の夏澄の笑顔が浮かぶ。 

 きらきらとした夏澄の笑顔は、水面に反射する光のようにまぶしい。 

 思い出しわらいがこみ上げてきた。風花は、口元を押さえる。

 今日の夏澄くんはよくわらってくれた。

 一昨日は様子が変だったから、嫌われたのかと、心配だった。でも、いつもと変わらなくて安心した。

 そう思った風花は、はっとしてうつむいた。

 喜んでしまったことを、後ろめたく思った。

 今の夏澄はきっと、わらっていないだろう。彼の願いはまた叶わなかった。



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