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水の空の物語 第5章 第10話

 うまく、やれますように。

 水色をした朝の空気の中、風花は霊泉への長い坂道を登っていた。

 わたしは霊力がないから、ほとんど役に立たないけど。夏澄くんの役に立てますように。

 息がひどく切れる。自転車のペダルを踏む脚が痛い。重い痛みが、脚全体に広がっていく。

 急ぐ必要はないのだが、脚に力が入ってしまう。風花はペダルを踏み続けた。

 藤原の御泉に着くと、自転車置場に向かう。
 ペダルから脚を離すと、すーっと痛みが抜けていく。

 髪の間を吹き抜ける風が、心地よかった。

 風花がつけている白いリボンが、ふわふわ揺れた。

 御泉公園に入ると、緊張が込み上げてきた。

 ……今日こそ、夏澄くんたちの役に立てますように。
 春ヶ原を護れますように。

 脇の道に咲くたんぽぽに、暖かい色の陽射しが差していた。 


 優月さんの体調はどうだろう。 
 もう、悲しいことは起きませんように。

 水芭蕉の群生地の横の道を抜け、霊泉の前に立った。辺りには夏澄たちどころか、誰の姿もない。

 だが、夏澄たちは結界の中にいるはずだ。

「夏澄くん……?」
 風花は、そっと声をかけてみる。

『風花……』

 しばらくすると、夏澄の澄んだ声が頭の中に響いた。



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