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小説

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2020年9月の記事一覧

シチュー曖昧

甘い甘いだけの時間はとうに過ぎ去って、ここには曖昧とシチューだけが残る。ご飯とパン、そ…

相川 実
3年前
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errors

「わかってるよ」 そう言って気怠そうに首を絞めるこの男は馬鹿だ。これがマンネリ化したプレ…

相川 実
3年前
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秋空に照らされてやるつもりもない

心が離れる瞬間を探しながら全身に触れた。いつか嫌いになれると思って接する方が、終わらな…

相川 実
3年前
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性愛実験

上下セットの下着をつけたその上に、透けないように黒いシャツを重ねてからブラウスを着る。…

相川 実
3年前

テーキアツノセー

「低気圧のせいだよ」 こんな明らかにバカみたいな浮気の理由なんて聞いたことがない。それな…

相川 実
3年前
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いちのせくん

おなじクラスのいちのせくんは、少し、かわっている。わたしのことをすきだとか言うし、少し…

相川 実
3年前
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誤隠居さん

読んでいた物語に出てきた女が、行為の最中に辿っていたのは、私が仕事で子どもを学童に送り届けるのに使っている、都営の路面電車だった。その女が辿る道を、私はよその子を連れて辿る。女が男に置いてけぼりにされたあの駅も、私はよその子と一緒に通過する。 映画の冒頭に映る街並みが自分の知っている街になる。都内に住むというのは、ただそれくらいのことで、夜中や土日の昼に関西のローカル番組をみなくなるということで、お散歩番組でタレントが赴いた飲食店が身近にあるということだ。誰かの夢が現

帰依ない

もう二度と会えなくても幸せでいてほしい人も、自分の命よりも価値があると思える人も、あの…

相川 実
3年前
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味気ない昔話

月の明るさもなくなって、花の香りもしなくなった今日この頃に、あなたの声を思い出しました…

相川 実
3年前
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私を美穂子と呼ぶ女

「友だちと恋人の違いはね、一緒にいるときに楽しいか、一緒にいないときに寂しいかの違いな…

相川 実
3年前

カラスくんの羽の色

隣の町のカラスくん。私の初恋のカラスくん。今でもずっと大好きだけど、周りの誰にも言えな…

相川 実
3年前
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愛の性

充実という言葉の意味も知らないまま、今日も生きている。生きたくない日だって、ここに生ま…

相川 実
3年前
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かさねごと

声を重ねること。それが私たちにとっての、愛し合うということだった。子どもの頃、まだ声変…

相川 実
3年前
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意思表示

憎しみの果てには何が待っているのだろう。悲しみだろうか、苦しみだろうか。憎み続けることに何か意味があるのなら、その果ての感情にだってきっと意味はあるはずだ。憎むという行為の前提に愛情があるのなら、その行く末にも、愛が残っていてほしい。愛するが故に憎んでしまうことを、私は美しさだと思いたい。  それは、私が人知れず憎み続けているからなのかもしれない。世界を、そして何よりも自分自身のことを。後悔をしないように生きていても、結局は自分を憎んでしまうのだ。今よりは少しだけ無邪