愛の性

 充実という言葉の意味も知らないまま、今日も生きている。生きたくない日だって、ここに生まれてきてしまったから。ただそれだけの理由で生きている。褒めてほしくてもただの怠惰で、だけど死ぬのは惰性だから。だから生きている。それだけの理由で。

 どれだけみっともない今日を生きても、夜には寂れた町の駅に、また戻らないといけない。そんな今日を意味もなく、ちょっとだけ楽しいと思ってしまった。明日はどうせつまらないのに。昨日を愛おしいと思ってしまった。消えてなくなる過去なのに。

 生きているなんて、当たり前すぎて声に出して言うことはできない。同じように、あなたを好きだということだって、当たり前になったときから、なんだかわざわざ言葉にできない。甘えでも安心でもなくて、それは不安と性質だ。思っているなら伝えろだとか、文句を言うのは簡単なのに、思っていることだけを伝えるのは難しい。それは言葉では伝わらないからだ。だからこそ言葉で伝えるんだと、どこかの誰かさんは歌っていたけど、そんな私ならあなたのことなんて、ずっと好きになんかならなかった。理屈が屁理屈になるのが愛のせいなら、理由が口実になることも許してほしい。あなたが私を嫌う度に、私はあなたを抱きしめたいと思って、不安が世界を映す毎に、私はあなたに消えてほしいと思った。

 いつかきっと嫌いになる。だからもう二度と会いたくなかったのに。今夜も会って挙句笑い合って、朝には消えてほしいと願う。わざと遠回りした夜の自分を嗤う。そしてまた、あなたに消えてほしいと願う。あなたを嫌いになりたくないから。

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