カラスくんの羽の色

 隣の町のカラスくん。私の初恋のカラスくん。今でもずっと大好きだけど、周りの誰にも言えなくて、愛しちゃいけないカラスくん。

 小さいときにおかあさんに言ったら、珍しく驚いた様子で、あの子は羽が黒いでしょう?と。小さな声で、私に言った。朝に触ったおかあさんの枕は濡れていて、私は自分のことを悪い子なんだって思った。カラスくんのせいだとは思わなくて、憎むこともできなかったけど、好きなままではいられないと知った。

 私が羽を黒く塗ったら、私はカラスくんを好きになってもいい?夢の中で、おかあさんに聞いた。夢の中のおかあさんは泣いた。子どもみたいに、わんわんと泣いた。おかあさんが泣いちゃうのはとても悲しかった。たとえ夢の中でも、その泣き顔は胸に痛かった。カラスくんのことを、知らなければよかったな。って思った。

 カラスくんは、今でも私の大好きな相手。だけどカラスくんとはお話したこともないから、カラスくんはきっと私のことを知らない。カラスくんに知られていないから、私は、カラスくんを好きでいられる。カラスくんを、誰にも内緒で、遠くから見ているだけの時間が、私にとって一番ふわふわした時間。カラスくんのことを今でもずっと好きなのは、私だけの秘密。絶対誰にも、カラスくんにだって教えてなんてあげない、私だけの大切な本当。

 今夜も夢の中でカラスくんに会うの。夢の中のカラスくんは私のことが大好きで、私もやっぱり、同じくらいにカラスくんのことが好きなの。それで、おかあさんもやっと、そのことを認めてくれて。友だちも、笑顔で祝福してくれるの。それだけで私は、お姫様みたいな気持ちになれて、とっても、とっても嬉しい。私が嬉しいと、カラスくんも嬉しくて、私はそれでまた凄く嬉しくなる。そんな幸せを、今夜もみるの。

 ごめんなさい。この日記を読んでしまったあなたは、3日以内に、不慮の事故に遭ってしまいます。不自然な黒い羽にはどうか、お気をつけください。本当にすみません。私はまだ、自分のことが可愛いみたいです。だから誰にも知られたくないのです。

 なんてね、忘れて?全部嘘だから。

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