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「わかってるよ」
そう言って気怠そうに首を絞めるこの男は馬鹿だ。これがマンネリ化したプレイならよかった。逆上した男による殺意でもない。じゃあこれは何なのか。一体何なんだろう、この茶番は。生きたくも死にたくもない私にちょっと関わっただけの男が、何を分かったなどとのたまっているのだろう。私にはどうしてこの男が分かった気になれるのか全然分からないし、無知を知っているだけ、自分の方がまだマシだ。男は私が少し苦しそうにすると、すぐに手を離す。
「ねぇ、殺してくれるんじゃなかったの?」
そう言って男の顔を覗く。酷く情けない顔をしている。せいぜい軽い咳くらいしか吐けない私よりも、ずっと苦しそうな顔をしている。
「じゃあ、殺してあげよっか?」
そう言って笑って男のほうを見る。男は少し笑う。
「嘘よ。そんな義理なんてないもの」
男はまた情けない顔をする。
「ごめん、僕に君は殺せない」「その代わり、結婚しようか」
この男は私のことなんて何も分かっていない。それに、私もやはりこの男のことなんて分からない。酷く情けない顔ばかりする癖に、避妊をせずに私を抱いた理由も。急にこんな馬鹿みたいなことを言い出す理由も。分からないのに、少しだけ笑ってしまった。
「私の勝ちね」
笑ったことで負けてしまった私は、余力を注いでそう言った。そして、男の首を絞める。
すると、男は私に馬乗りになって、私の首を絞め返した。
「話が違うじゃないか」
手に強く力を込めて、涙を私に落としながら、男は言った。声にならない私の声が、もう二度と誰にも届かなくなってしまうといい。どうせ言っても分からないし、繋がってもすぐまた離れてしまう。それなら全部なくしてしまいたい。生まれ変わったら、この男みたいな馬鹿になりたい。まぁ当面、そんな予定もございませんが。男はまた、私の首から手を離した。
「わからない」
そう言って笑っている。
「いいよ。もう、解放してあげる」
そう言ったのに、私を抱きしめる。その力は、さっき首を絞めてくれた時よりも何倍も強い。
「ねぇ、痛いよ。殺す気?」
「ああ、それもいいかもね」
この男が老いて朽ち果てるのを見届けるためだけに、私も老いて生きてみようか。
「なんてね」

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