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うちの子になって幸せだった?〜なつめさんのこと


私は猫が大好きだ。自ら猫の下僕になるほど、猫を猫可愛がりしている。
そのきっかけとなったのは、ある1匹の猫との出会いだった。


それは13年前の今くらいの時期のことだった。

私は長女を塾まで迎えに行くために家を出た。すると、どこからかミャーミャーとか細い猫の声がする。近くで聞こえるけれど、どこから聞こえるのかよく分からなかった。塾から帰ってきても、やっぱり猫の声がした。

家の中から次女が出てきて、一緒に探してくれた。程なくして、次女が声の主を見つけてきた。次女の手にいたのは、1匹の子猫。白黒のハチワレで手足に靴下を履いていて、生後半年くらいと思われた。とても可愛くて美人の猫だ。

さらに家の中から義母も出てきて、とりあえず子猫のために段ボールと毛布で作った寝床を用意してくれた。その寝床は、物置に置かれた。




翌日子猫を明るい所で見ると、さらに可愛い。抱っこすると喉がぐるぐる鳴っている。
野良だから、すぐにどこかに行くかと思ったけれど、何日経っても一向に出て行く気配はなかった。あまりに出ていかないので、結局ずるずるとそのままうちで飼うことになった。

子猫はすぐに家族みんなのアイドルになった。
だけど、子猫の名前はなかなか決まらなかった。いろいろなアイデアは出るのだけど、どれもちょっと決め手に欠けた。

そんな時、私は「吾輩は猫である。名前はまだ無い」と呟いた。その時、娘たちが「もう、それでいいんじゃないの」と言った。それでいい、というのは「吾輩は猫である」の作者である夏目漱石のことらしい。それで夏目漱石から取った「なつめ」に決まった。だけど、なぜか敬意を示し「なつめさん」とさん付けで呼ぶことになる。

なつめさんは、本当に美人で猫モデルにもなれそうな猫だ。その上、猫らしい気品もある。ソファにちょこんと座っていると、まるで王女様のようだった。

猫を飼うのは初めてだったので、ネットで調べながら色々お世話の仕方を学んだ。

なつめさんは、必要以上に私たちに媚を売ったり、ベタベタしたりすることはなかったけれど、私に撫でられるのは好きみたいだった。お鼻や眉間の辺りを撫でたり、顎の下や背中などを撫でてあげると、喉を鳴らして喜んでいるように見えた。だけど、抱っこしていて、私の鼻をカプッとやられたことがある。流血したけれど、なつめさんを怒る気にはなれなかった。なつめさんは何も悪くない。そこにいた私が悪いし、なつめさんのご機嫌を損ねた私が悪いのだ。

なつめさんが推定年齢1歳を過ぎた頃、網戸を破って脱走したことがある。思わず♪夜の校舎窓ガラス壊して回った〜と尾崎豊の歌が口に出た。脱走したなつめさんは、2〜3日帰らなかった。心配していると、なつめさんは帰ってきた。帰ってきたなつめさんは、なんだかひどく疲れていたようでしばらく眠っていた。その日から、なんとなくなつめさんの様子が変わったような気がした。




それからしばらくして、なつめさんの異変に気付いた。
なつめさんのお腹がゴツゴツしている。どうやら、なつめさんは脱走した時に妊娠したようだった。妊娠って……。思わず、いきなり娘が妊娠した親の心境になってしまった。

でも、産まれるものは仕方がない。義母が猫飼いの方にやり方を聞いて、産み箱を用意したりして出産に備えた。

ある日の朝、なつめさんはたった1匹で出産に臨んだ。私たち人間は見守るだけだ。

産まれてきたのは5匹だった。白い子が4匹、黒い子が1匹だ。産まれた子猫は小指の大きさくらいしかない。小さな小さな子猫たち。なつめさんは、頑張ってお母さんをしている。

白い子のうち3匹がオスで白い子1匹と黒い子がメスだった。どの子もよくみると個性があってとても可愛い。白い子たちは、初めは真っ白だったのにだんだん茶色い部分が出てきて、シャム猫風味の子になってきた。シャム猫風味の子たちはタヌキみたいで可愛いと思った。

だけど、実際問題5匹の子猫を全部うちで飼うことはできない。あらゆるツテを使って子猫の貰い手を探した。とりあえず3匹の貰い手が決まった。もう少し大きくなるまで育ててから、貰っていただくことになった。

5匹のコロコロの子猫たちは、カーテンや網戸を登ったり、その辺の隙間に入ったり元気一杯だ。なつめさんのおっぱいを飲みまくり、遊んでもらっているようだ。
一方、なつめさんは子育ての疲れでげっそりしている。ツヤツヤの毛並みだったのに、その毛はパサパサになっている。やっぱり、猫も人間も出産、子育ては命を削る大仕事なのだ。



2か月ほどが過ぎ子猫たちが少し大きくなった頃、3匹の子猫は新しい飼い主さんの所へ貰われていった。
私たちは、子猫たちに愛着もあったので寂しかったけれど、どこかホッとした気持ちもあった。だけど、お母さんであるなつめさんは、すごく寂しげに見えた。なんとなく、いなくなった子猫たちを探している風にも感じた。

もし自分が逆の立場ならどうだっただろう。
人間の都合で、自分が産んだ大事な子供を取り上げられるなんて。そんなの耐えられないと思う。
実際、猫を6匹も飼うことはできないのだから、それは最善の選択だと思っている。けれど、なつめさんの気持ちを思うと申し訳ない気持ちが大きかった。

残ったのは白いメスと黒いメスの子。この子たちは、引き続きうちで飼うことになった。名前をどうしようか考えたのだが、結局産まれた時から呼んでいた仮の名前のままでいくことになる。白い子はしろこで、黒い子はくろこだ。

なつめさんは、2匹とくっついたり離れたり。子猫たちも大きくなってきているので、対等に付き合っているように見えた。寒くなってくると、3匹で猫団子になっていたりして、猫のいる生活っていいなとしみじみ感じた。




そんなある時事件が起きた。

夜の8時を回った頃、お客さんが訪ねてきた。その隙にしろこが脱走したのだ。すぐに連れ戻しに行きたかったけれど、お店のお客様だったのでそういう訳にもいかず、後で探したのだけど見つける事ができなかった。

心配な一夜を明かした翌朝、しろこは見つかった。
事故に遭って、死んでしまっていた。幸い外傷は無く、きれいな体だった。しろこを死なせてしまったことが、悲しく辛く、自分を責めた。


なつめさんは、野良出身なので基本家の中で過ごしているが、よく脱走をしていた。そしてなつめさんは、その日からしろこを探している。家の中も家の外もいくら探してもしろこはいるはずもないのに。

しろこが死んでしばらくたったある日、なつめさんはえらく私に甘えてきた。餌をあげて私は仕事に戻ったのだけど、その後なつめさんは脱走していた。
なつめさんは、何日も帰ってこない。どこを探しても見つからない。私は、しろこの事があったので、なつめさんのことが心配でたまらなかった。

ある日、私はお風呂に入るために脱衣所にいた。服を脱いで、お風呂場に入る前に何気なく窓を開けて外を見た。そこには、なつめさんがいた。
なつめさんは、私をじっと見つめている。なつめさんに「早くこっちに来なよ。なっちゃん、お腹空いてるでしょ」と声を掛けてもなつめさんは微動だにせず、私をじっと見つめていた。

私はすぐに外に出て連れ戻せばよかったのに、裸だったのでどうもできず急いでお風呂に入り、慌てて服を着て外に出た時にはもうなつめさんはそこにはいなかった。



翌朝、次女の友達が迎えに来た時に口を開いた。

「なっちゃんみたいな子がそこで……死んでたよ」

娘たちは学校があるので、私と義母が言われた場所に行ってみると、そこにはなつめさんがいた。
なつめさんは歩道横の店舗の植え込みの陰に横たわっていた。もう息は無く死んでいた。おそらく事故に遭ったのだろうが、なつめさんも外傷は無くきれいな状態だった。

なつめさんを家に連れ帰り、毛布を敷いた箱に入れてあげた。そんななつめさんをくろこは不思議そうに見つめて、クンクンしたり、じっとそばにいた。

なつめさんを火葬場に連れて行った帰り、ふと思った。その日はしろこが死んで49日めの日だった。もしかしたら、しろこが寂しくないようにしろこの所にいったのだろうか。

しろこに続いて、なつめさんもいなくなってしまった。
しろこもなつめさんも虹の橋を渡ってしまったのだ。それからは、しばらく悲しくて泣いてばかりいた。

2年ほど前、私はチャネリングのやり方を学ぶ機会があった。その時、なつめさんに繋がってみた。

私はなつめさんに、あの日の事を詫びてひとつ質問をした。うちの子になって幸せだったのかを。妄想かもしれないけれど、なつめさんは私に答えをくれた。

「私は、あの日の事は恨んでなんかいないよ。私は、あの子が寂しくないように、自分であの子の所にいったんだよ。だから、自分を責めなくていいから。
この家で暮らせて楽しかったよ、ありがとう」

その答えを聞いて、私は泣いた。しばらく涙が止まらなかった。やっと許してもらえたような気がした。

なつめさんと過ごした日々はそんなに長くはなかったけれど、なつめさんは今も私の胸に生きている。美しく気品のある王女様のような姿のままで。

そして今、なつめさんの子供のくろこと暮らしている。
くろこは、もう12歳になった。なつめさんとしろこの分まで元気に暮らしている。しっぽが二股になるまで、まだまだ元気でいて欲しい。
さらに、野良出身のきじこも仲間入りした。
こうして、猫のいる幸せな生活ができているのも、13年前のあの日にどこかで鳴いていたなつめさんとの出会いのおかげだ。

なつめさん、しろこ、私たちに出逢ってくれてありがとう。
うちの子になってくれてありがとう。
いつか、私がそっちに行ったら、いっぱい撫でてあげるね。

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