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Global Business Trend vol. 10|世界中で注目されるフェイクミート:コロナ時代に、「肉を食べる」ことについて考える

日本人にとって、肉を食べるのは割と当たり前のことで、ヴィーガニズムやベジタリアンな生活をする人は欧米諸国より少ないし、そのような制限がある人が行けるレストランもまだまだ少ない。ニューヨークで一番びっくりしたのは、「食」のオプションの多さ。さすが多様性が売りの街、食べ物の種類だけではなく、中華料理やメキシカンに行ってもほぼ必ずベジタリアンのオプションがあるし、それ以外にもグルテンフリーやユダヤ教信者のためのコーシャオプション、ムスリム教徒のためのハラルオプションも日本より断然多い。私が勤めている会社のニューヨークオフィスの付近にはイスラム教の学校があり、私が住んでいたブルックリンのアパートは超正統派ユダヤ教の方が大家さんで、隣には超正統派ユダヤ教の学校があり、近くのスーパーには必ず多様なフードオプションがあった。(余談:最近ネットフリックスでUnorthodoxという超正統派ユダヤ教の主人公の物語が配信。かなりオススメ。)

私は肉を食べることが好きだ。焼肉が無性に食べたくなる日もあるし、完全に菜食主義になるのは無理だと思う。しかし、コロナが流行りはじめてから、人類が工場で生産された肉を食べ続けることの限界が来ているのかもしれないと感じさせられる記事を多数見かけるようになった。

精肉工場の危機

もちろん、ウィルスの流行自体が生肉市場と関係があるとされており、肉を食べることでウィルスが流行ってしまったという仮説はあるが、私がよく海外メディア記事で目にするのは、ファクトリーファーミング(工場式畜産)に関しての警告である。「ここ10年で発生している新興感染症の75%は動物由来および家畜由来である」と、欧州食品安全機関(EFSA)が考えているくらい、ファクトリーファーミングと感染症の関係は、深い。

人間は1万年も前以上から家畜を飼い農業をしている痕跡はあるのだが、近代的な農業の仕方が、地球温暖化、生物多様性の損失、資源枯渇、環境汚染といった緊急課題の主要原因の一つとなっているのだ。昨年ブラジルのアマゾンで起きた火災も、原因は牛肉産業が必要とする広大な牧場を獲得するために森に火をつけ、それが広まってしまったとされている。ブラジルは世界で一番大きい牛肉の輸出国であるため、納得がいく。

また精肉工場は働く人が近距離で行う作業が多いため、感染症のリスクも高い。(このニューヨークタイムズの記事が、作業工程をわかりやすく図面化している。)そのため、最近までほとんどの工場が閉まっており、不況に陥った工場たちは家畜の処分や従業員の大幅解雇を余儀なくされてしまった。

世界中が注目する植物由来の肉


今年になって、カナダ政府は植物由来の食べ物におよそ100億円ほどの投資を行うと発表。スターバックスはインポッシブル社と提携し、植物由来のプロテインで作られた肉を使ったバーガーから成る、朝食セットを発表。シンガポールのスタートアップは、研究室で培養された牛乳を作るのに2.3億円の投資資金を調達するのに成功。今世界中で、本物の肉を使わないプロダクトが注目されている。

昨年アメリカでは、ビヨンドミート社が出す牛肉を使わない「ビヨンド・バーガー」が大流行。そのほかにもインポッシブルフーズ社やジャスト社など、競合が増え、大替肉市場は激戦化している。インポッシブルフーズ社は、先ほど述べたユダヤ教徒向けのコーシャフード、ムスリムの人のためのハラルフードにも認定日本の市場向けには三井物産がビヨンドミート社に出資しているみたいだが、日本での展開はまだ先になりそうだ。

一方で、「肉ではない肉」に問題がないわけではない。ビヨンドミート社が出すカーボンフットプリントは、予想以上に大きいことが発覚。ピープロテインという、えんどう豆由来のプロテインを大量に作るのには、中国やヨーロッパからアメリカへえんどう豆をまず輸入する必要があり、そこで莫大の量の燃料が飛行機に使われる。また、えんどう豆由来のプロテインに依存しすぎ、大量消費をすることで生態系を壊す恐れも出てきており、肉を食べることを完全に止め、ビヨンドミートのような植物由来のプロテインをを大量接種することが、100%地球にとって良いことでもなさそうだ。

食肉を減らすことで、社会貢献ができる?

大替肉を利用する利点とされているのは、環境問題や感染症のリスク軽減だけではない。Forbesには「米疾病対策センター(CDC)のデータでは、アフリカ系アメリカ人男性の44%近く、アフリカ系アメリカ人女性の48%が、心疾患を含む何らかの循環器疾患にかかっている。そうした病気を予防するひとつの手段としてCDCはまず健康的な食生活を送ることを挙げており、植物由来の代替肉は、アフリカ系アメリカ人における循環器疾患の割合を下げてくれる可能性がある。」という意見もあり、現在問題になっている感染症、環境問題そして人種の不平等という社会問題全てが、大替肉を低コストでより多くの人へ提供できるようになることで、改善できるかもしれないのだ。

私が菜食主義・大替肉を日常に取り入れるまでの道のりは、かなり遠い。精肉業界で働く知り合いも多く、完全に肉を断つことはできないと思う。また、肉を食べることを完全に辞めてしまうのは自然に逆らう行為であり、地球にとって一番良い選択だとは断言し難い。まずは、今後も知識を増やし続け、肉の消費バランスを整えて行きたい。




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