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Books & ドーナツ イベントレポート#3 - トークセッション 中編

2021年10月8日(金)に、第3回目のブックカフェを開催いたしました。
詳細はこちら
おかげさまで無事に終了しましたことを改めて感謝申し上げます!

さて今回は、熱烈なファンも多い、御代田のすずめカフェさんで開催させていただきました。(現在、カフェ営業はお休みされています)
そこに、佐久穂町のウェルカムセンターであるドーナツカフェmikkoさんモバイルカフェトラック335で駆けつけてくださいました 🍩

今回のポップアップ・ブックカフェ「Books & ドーナツ」は1日のみの限定オープンですが、日中はmikkoドーナツとコーヒーと本を楽しむブックカフェ、カフェクローズ後の夕刻からmikko店主の塚原諒さんによるトークセッションと、相変わらず盛りだくさんのプログラムでした。 
これからイベントレポートを数回にわけてお送りいたします。

1. ポップアップ ブックカフェ(選書、カフェ、の様子)
2. トークセッション(前編)
3.トークセッション(中編)⇦今回はこちら
4.トークセッション(後編)

セッション前編では、塚原さんがいろいろな土地に暮らす「旅」を経て、ドーナツカフェmikkoへ至る歩みをお話しいただきました。「ウェルカムセンター」であるカフェで、ドーナツを介して人がつながる。ドーナツの美味しさだけではなく、いかに佐久穂町が住み心地のいい場所なのかが、mikkoでドーナツを食べることによってインプットされていく。ドーナツ屋に行くといつの間にか佐久穂が好きになる。他にどんな場所があるんだろう、と思わせてくれる。お話をお聞きしていて、そういう場を、塚原さんがドーナツ自体の魅力を引き出すことによって作られているのだと感じました。

さて、トークセッションは、ここから「本」についての話に移っていきます。ここで聞き手は、ライブラリアンであるみよたBOOKSメンバーへバトンタッチ。塚原さんが持参された「本棚」を皆さんで囲んで、対話が弾みます。 

この本棚に並んでいる本たちは、どのように選ばれたのですか?

今回、トークのテーマをいただいて、「自分を形作った本」について考えました。あちこち行っている人生ですが、転機転機には本があったな、血肉になって残っている本があるなと気づき、それらを2005年の17歳から2021年33歳まで年齢順に並べてみました。こうして本棚を眺めると、その時々で象徴的な本、印象深い本が並んでいます。

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年代順に影響を受けた本を並べた本棚

男性で文学部を選ぶ人は比較的レアな気がします。なぜ文学部に?

実は、もともと本好きではなかったんです。この本棚に「『頭がいい』とは、文脈力である。」という本があるのですが、この著者である教育学者の齋藤孝さんが、僕が通っていた高校に講演に来られました。その講演がめちゃくちゃ面白くて。齋藤先生によると「頭の良さは文脈力である」と。「文脈力」というのは時代や場など、文脈の流れを読み取る力で、自分の存在をどの文脈の流れで受け取るかが重要だというお話でした。例えば、坂本龍馬は「世界」という文脈を背負って行動していたので坂本龍馬になったのだと。

このお話にはとても腹落ちしました。そして、齋藤先生の所属先が明治大学文学部で、だったら文学部だなと。学部では日本の近現代文学を研究して、卒論と修論は村上春樹の小説をテーマにしました。ちなみに、結果的には幽霊ゼミ生に近かったのですが齋藤孝ゼミに所属もしていました。

「文脈」は文学を読み解くには重要なキーワードですが、高校生にはやや難しい言葉のように思えます。当時、その言葉はすっと心に入ってきたのでしょうか?

そうですね、すっと入りましたね。ただ、その言葉を知った直後というより、今現在に至るまで、自分の中で「文脈」って、ずっと大事にしてきました。今やっているドーナツカフェも、文脈はかなり意識しています。例えば、街で何か店を始めようとする時に、その街にすでにドーナツ屋があったらドーナツ屋はやりません。一つの流れの中で、それぞれが役割を果たして、大きな流れを作っていくのがいいなと思うんです。キャラが被るともったいないですし。僕らがたまたまドーナツカフェを始めた時には、周りにカフェもパン屋もそう多くはありませんでした。周りとの関係と自分の役割、それが「文脈」なのかなと。

僕には、「他の人と関係なく、これをやりたい!」というのがあまりないんです。周りを見回して、ないからやる、必要そうだからやる、あの人があれやるなら自分はこれをやる。そういう対応関係で人生を歩んできたようなところがあります。

村上春樹が研究テーマだったのですね。

村上春樹の「レキシントンの幽霊」という短編小説集の中に、「トニー滝谷」という短編があります。この小説の書き出しが面白くて、「トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった」というところから始まり、この一風変わった名前をもつトニー滝谷について語られるという短編です。この話の中で、洋服をたくさん買う女性がトニー滝谷の奥さんになります。買った服を部屋にずらっと並べて女性は幸せな気持ちになりますが、トニー滝谷は不安に襲われます。着られていない服って「空っぽな枠」である、と。これを読んで、なんでこの人はこういうことを書くんだろう?と、村上春樹に興味を持ちました。彼の小説に一貫して出てくるのが、まさに今日のテーマのドーナツのように、「周辺部にしかなくて中身が空っぽ」という構造です。それを研究していました。

村上春樹作品では、本棚にもありますが、「ダンス・ダンス・ダンス」「ねじまき鳥クロニクル」などが好きです。
短編も好きで、例えば、「夜のくもざる」という短編小説集の中の「ドーナツ化」という話。朝起きたら妻がドーナツになっていた(笑)。妻が「あなたはどうして私の周囲しか見ないの?自分の中心は無よ。空白なのよ。それを見て」と言う。よくわからないけど面白いなぁと。

僕は村上春樹マニアではなくて、彼が書いた小説に関心があるんです。よく「ハルキストなんですね」と言われるんですが、その時はちょっとムッとします(笑)。

今回のブックカフェのテーマがドーナツということで、村上春樹の作品をチェックしたら、小説にもエッセイにもドーナツが頻繁に出てくるので驚きました。研究していた当時から、ドーナツは意識していたのですか?今ドーナツ屋さんをやっておられるのは「ああ、だからなのか」と、つい短絡的に結びつけたくなるのですが。 

結び付けていただいてかまいません(笑)。
研究当時も「ドーナツっていいな」と思っていました。でも、僕はドーナツが「もの」として好きというより、概念的に好きなんです。真ん中に穴があって輪っかになっているのが、存在として好きという感じ。ちょっとヤバいですよね・・・(笑)。

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モチーフとしてのドーナツ

ここに、たくさん付箋がついている本がありますね。

内田樹さんの「呪いの時代」ですね。これを読んだのは、東京で会社に勤め始めた2010年ごろで、早々に病み始めた時です(笑)。

今の時代、SNSで「クソリプ」とか呼ばれるような過度で生産性の低い批判的なコメントって問題視されてますよね。本来、そうやって人を否定する必要ってないと思っていて。何かを創造するのは難しいけど、何かを破壊するのは簡単です。破壊は簡単だから、人はその誘惑にとらわれてしまって批判して壊そうとする。それって「呪い」ですよねと。でも、今の時代に必要なのは「呪い」ではなく、その反対の「祝福」ではないかと内田さんはこの本で言っています。
「呪いの反対は祝福である。」 ― そういう生き方っていいな、とこの本を読んで思って、当時、社会で受けはじめていた「呪い」を跳ね返しました(笑)。

「荒野へ」という本がありますね。ジョン・クラカワーのこのノンフィクション、私も読んだことがあるのですが、すごい話ですよね。アメリカで優秀な大学を出た若者が放浪の旅に出て、アメリカ国内を巡ってアラスカにたどり着き、命を失う。途中からどんどん破滅に向かっていく・・・。 

この本は「Into the Wild」という映画にもなっていて、もしかしたら映画の方がとっつきやすいかもしれません。
主人公が息を引き取る直前に日記に書きつづった言葉にぐっと来たんです。「幸せというのは、誰かと分かち合ってこそ幸せになる」という言葉なんですけど、これって一つの真理だなと。自分の会社「ツカオ考務店」の社是としている「Happiness real when shared.」は、ここから来ています。今こうしてドーナツ屋をやっているのも、誰かと幸せを分かち合う試みの一つとも言えます。

幸せをシェアすることで自分も幸せになるぞと思い至るところまで、「荒野へ」の主人公は大変な旅をしました。そういうことをしようと思いませんでしたか?

放浪の旅をしたかった時期も確かにありました。ただ、その頃ちょうど東日本大震災が起こり、東北に行くことにしたのです。震災がなかったら、放浪の旅に出ていたかもしれません。

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トークはいよいよ終盤に突入します。
「いまの"あなた"を作ったのは、どんな本たちですか?」の問いに、塚原さんはどう返答されるのでしょうか?ウィットに富み、そして深い対話が展開します。
トークセッション 後編 へ続く 🍩

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