Books & ドーナツ イベントレポート#4 - トークセッション 後編

2021年10月8日(金)に、第3回目のブックカフェを開催いたしました。
詳細はこちら
おかげさまで無事に終了しましたことを改めて感謝申し上げます!

さて今回は、熱烈なファンも多い、御代田のすずめカフェさんで開催させていただきました。(現在、カフェ営業はお休みされています)
そこに、佐久穂町のウェルカムセンターであるドーナツカフェmikkoさんモバイルカフェトラック335で駆けつけてくださいました 🍩

今回のポップアップ・ブックカフェ「Books & ドーナツ」は1日のみの限定オープンですが、日中はmikkoドーナツとコーヒーと本を楽しむブックカフェ、カフェクローズ後の夕刻からmikko店主の塚原諒さんによるトークセッションと、相変わらず盛りだくさんのプログラムでした。 
これからイベントレポートを数回にわけてお送りいたします。

1. ポップアップ ブックカフェ(選書、カフェ、の様子)
2. トークセッション(前編)
3.トークセッション(中編)
4.トークセッション(後編)⇦今回はこちら

トークセッションはいよいよ終盤に突入。
これからの対話では、出会った「本たち」が、いかに塚原さんを動かし、塚原さんの血肉となっていったのか、その道筋をたどっていきます。「塚原さんの本棚」を皆さんで眺めながら展開していく、ウィットに富んだ、深い対話をお楽しみください!

ドーナツとコーヒーをいただきながらのトークセッション

2011年23歳の頃読まれた本として、「テクスト」についての本がありますね。

石原千秋さんの「テクストはまちがわない」です。
「テクスト」は耳慣れない言葉だと思うんですが、文学研究では、書物や文章の固まりを「テクスト」と呼ぶ一派があります。ちなみに、情報学では「テキスト」と呼ばれます。

よくある例で言うと、国語の授業で「この文章を読んで作者が言いたかったことを説明しなさい」という設問ってよくありますよね。これは昔ながらの文学研究の流れで、作者はイコール「小説の意味を決める様みたいな人」であり、読者は本を介してそれを受け取る。文学研究は作者の言いたいことを探ることだと言われていたんです。ところが、後の時代になって、そもそも作者が言いたいことって、作者自身にもわからないのでは?という問いが出てきた。そうなると、読者の仕事は、作者の意図とは関係がなく、目の前の「テクスト」と向き合って、そこから意味を受け取ることだ、と。これが「テクスト論」という流れで、僕はこの考えに感銘を受けて、傾倒しました。

石原さんのこの本では、例えば、小説の中に誤植があってもそれを間違いと思わず、その現象をどう読み解くのか?小説としてこの誤植がある意味は?というように考えます。ものごとを受け取るときにどういう方法論をとるのか、どういう立ち位置に身を置くのかはめちゃくちゃ重要で、そのことに自覚的になるのっていいなと思いました。

僕の解釈かもしれませんが、テクスト論は「読み手を自由にした」と言われたりもします。そういう意味で僕にとって、ものごととの向き合い方の大転換でした。日常生活においても、神様的なものを想定して「〇〇さんが言っているから大丈夫」と、〇〇さんという”神様”の名前を使って言ってしまうことは案外多いと思います。作家が何を言いたいのか、と論じている人たちも、テクスト論側からすると、結局、自分の言いたいことを作家の口を借りて、こじつけていっているだけでは?となる。完全に自戒ですけれど(笑)。

東北で復興支援をされていた頃に読まれたのが、山崎亮さんの「コミュニティデザイン」ですね。

はい。石巻で僕はボランティアマネジメントという、全国から集まるボランティアスタッフのサポートや調整役のような仕事をしていたのですが、ずっと自分のやっていることの正体がわからなかったんです。2年くらい続けた頃にこの本に出会って、自分がやっていることはコミュニティデザインなんだ、と気づきました。うまく言語化してもらえた感じです。その後、この本は、地域の仕事を歩むにあたっての大切な本になりました。まあ、後からこれは誤解で、コミュニティデザインでは無かった!と気がつくんですが(笑)。

この本を読んでいた頃、僕は、コミュニティデザイナーというのは、コミュニティをデザインする人たちだと思っていたのですが、どうやらそうではなく、コミュニティ界隈で働くデザイナーの職能を指していました。通常、デザイナーは企業の仕事を請けるなど、クライアントが明確なことが多いのですが、コミュニティデザイナーは街場に出かけて、何かしらの課題を発見してデザインして提案するとか、デザイナーがいなくても素人でも使えるデザインを作り出して、町の住民のデザイン力をアップさせるとか、そういうことをやっています。もちろん、ちらしやロゴを作ったり、ワークショップなど話し合いの場を作ったりもしていますが、最終的なアウトプットをデザインの観点でより良くすることがコミュニティデザインなんだと大雑把に理解しました。

そういえば、本日会場にわざわざお持ちいただいたmikkoさんの店舗の本棚に、「パターンランゲージ」についての本を見つけて気になっていました。パターンランゲージというのは、建築分野でのコミュニケーションの言葉を単純化して、専門家の知見を素人が取り扱えるようにすることですよね。そのあたりも、塚原さんの中では「コミュニティデザイン」とつながっているのでしょうか?

結果的につながっていると思います。
パターンランゲージというのは、クリストファー・アレグザンダーという建築家が提唱した方法論です。彼は世の中の町や建物など、優れているものをひたすら調べ、そこからパターンを抽出しました。例は適当ですが、路地は狭い方がいい、広場には噴水があったほうがいいなど、それを取り入れればうまくいくという「コツ」を抽出して整理したのです。

そういう立ち位置と、塚原さんの佐久穂におけるコミュニティとのかかわり方は同じなのでしょうか?それとも違うのでしょうか?お話からは、「コミュニティデザインをしたい」ということではないように聞こえるのですが?

コミュニティデザイン的に外から何かをしたいと思った時代もありましたが、今はどちらかというと当事者側にいたいと思っています。今まさにやっているカフェで自分自身が働いて、何かを作って、そこから少しずつコミュニケーションの輪を広げていく、そういう立ち位置に今はいたい。
「外から来て、課題を見つけて解決策を示す」というのとは違って、「中に入り込んで自分がやる」というのが、ここ数年の自分の取りたい立場です。

一番最近読まれたものとして、「読みたいことを、書けばいい」という本を挙げられていますね。塚原さんの本棚を見ていて、「読む」ではなく、「書く」という要素が出てきたのは意外に思えました。なぜこの本なのでしょう?

これは田中泰延さんの著書で、昨年読んだ中で一番良かった本です。
ドーナツ屋を始めて4年目。だんだんと同じことの繰り返しが多く、楽しさが前ほどなくなった時期がありました。その頃にこの本と出会ったんです。文章術の本なのですが、これは生き方のスタンスみたいな本なのだなと。誰もが発信できる時代。自分でも読みたくない文章をあなたは書いていませんか?自分が本当に読みたいと思う文章だけを書けばいい。それこそがあなたしか書けない文章なのだ、と。

この本を読んで、誰かのために書く、誰かのために作るのが先ではなくて、まずは自分が読みたいものを書けばいいし、作りたいものを作ればいい、そういう考え方もまたあっていいのだと気づきました。人に美味しいと思ってもらえるドーナツを作るのが先ではなくて、まずは自分が食べたいと思うドーナツを作って、それの良さが誰かに伝わればよいのだ、と思えて何となく道が開けたんです。 

こじつけっぽく聞こえるかもしれませんが、塚原さんの今おっしゃった「読みたいものを書けばいい」というのは、乱暴に言うと、「読みたいように読めばいい」、つまりテクスト論では?もともとテクスト論的な”芽”があって、それが最近読まれた本とつながっていると感じました。これってこじつけですかね? 

こじつけではないですね。今気づかされましたけど、僕、ずっと同じことを言ってますね(笑)。
自分のためにやっているのがいい。自分のためにやっていて、誰かの迷惑にならない限りは、それが一番いいのだと。良さを分かってくれる人がいてもいなくてもいい。そのことに対して傷つく必要もない。まずはそこをスタート地点として、自分の作りたいものを作っているというベースがあれば、最低限の幸福は担保されているということ。自分が幸せなんだということに気づきました。

トークの前半で、手法として「言葉を先に決めて、中身を埋めていく」ということをおっしゃっていました。言葉を先に設定するというのは、塚原さんが言葉が好きで、文学や言葉と向き合ってきたからでしょうか?たくさんの言葉が塚原さんの中にあって、言葉に励まされてきたから?

経験として、転機転機でたまたま導いてくれるような本があったということだと思います。言語学者のフェルディナン・ド・ソシュールが提唱した「言語論的転回」という概念があるのですが、平たく言うと、「言葉を人間が使う」のではなく、「人間は言葉によってできている」という考え方。まさにその通りだなと。常に先行して自分という人間がいるのではなく、その時に出会った本、増えた語彙で考えやものの見え方が決まり、それが自分である。でも、それでいいんだなと思っています。そんなスタンスで生きています。

塚原さんとの「本とドーナツ」をめぐる対話。その2つの要素だけで、お話がこんなに広く、深く展開していくとは誰が想像しえたでしょうか。

塚原さんと一緒に1時間半の「旅」をして、インスパイアされた参加者の皆さん。トーク後に、活発に感想を述べられていました。中でも、皆さんが口々におっしゃっていたのは、「自分の本棚」って面白い!ということ。塚原さんも、「今回こんな機会をもらえたのでたまたまやってみたら、とても面白かったです。人によっては本ではなく、例えば音楽や映画かもしれませんね。」とおっしゃっていました。この記事を読まれた方も、ぜひトライしてみてください!「自分」がいつもと違う角度で見えてくるかもしれません。

2021年も続くコロナ禍で、対面での出会いが制限されることが多い中、感染防止に留意しながら無事リアル開催できた「Books & ドーナツ」。このトークセッションで、「塚原さんの本棚」を皆で囲み、mikkoドーナツをほおばって、お互いの顔を見ながらお話することを通して、「ドーナツ」というキーワードから新しいキーワードが次から次へと生まれてくる、その臨場感とワクワク感を堪能することができました。やっぱりリアルっていいなぁ! 

人気のドーナツカフェmikkoさん。毎日がお忙しい中、佐久穂からこのイベントのためにお越し下さった塚原さんとmikkoスタッフの皆さま、そして参加くださった皆さんに心から感謝いたします。ありがとうございました!

このイベントをもって、みよたBOOKSの2021年の活動は終わりとなります。2022年もポップアップ・ブックカフェ「Books &」、面白い切り口のキーワードで展開していきますので、乞うご期待。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

次回「Books &」は4月22日(金)、23日(土)で開催予定です。詳細が決まり次第、FacebookInstagram等でお知らせいたしますね🍩
お楽しみに!!


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