文字を持たなかった昭和 百八(料理―菜っ葉のみそ汁)

 母ミヨ子が作ってくれたみそ汁について縷々述べた。郷里で過ごした時間より、みそ汁を「飲む」東京での生活のほうがはるかに長くなったいまでも、自分で作るみそ汁は母親ゆずりの具沢山だ。

 定番というものがなかったミヨ子のみそ汁で、いちばん印象に残っているのは菜っ葉のみそ汁だろうか。家の畑でとれる、たんに「菜っ葉」と読んでいた菜もの野菜を刻み、さっと火を通して鮮やかな緑色になったところでいただく。豆腐か油揚げが入ることもあったが、おかずを兼ねて具沢山が基本だったミヨ子のみそ汁にしては、汁気が多かった。

 数えきれないほど食卓に上ったこのみそ汁をときどき無性に食べたくなることがあるが、家でとれたような「菜っ葉」にはなかなかお目にかかれない。小松菜、白菜、ホウレンソウ、チンゲン菜……どれもちがう。たまに「はくさい菜」という名前で野菜売り場に出ている菜ものが近いだろうか。「これなら」と思う菜っ葉を刻んで、多くは油揚げとともに仕立ててみる。

 が、ミヨ子のみそ汁の味には近づけない。

 「おふくろの味」とは、あるいはそういうものかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?