文字を持たなかった昭和 続・帰省余話3~膝かっくん

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴っている。

 あらたに、先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、前項では帰省中強く印象に残ったことを簡単にまとめた。本項からは具体的なエピソードを書こうと思う。

 あらたに、先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、強く印象に残ったことの簡単なまとめに続き、具体的なエピソードを書き始めた。本項はその2回目。

 帰省といっても、実家は10年ほど前に取り壊してもうないので――ミヨ子さんはその少し前に、長男(兄)宅へ引き取られる形で同居を始めた――、二三四(わたし)の帰省先は兄が建てた家になる。

 到着してほどなく、ミヨ子さんの最近の最大の変化として義姉から言われたのは
「膝かっくんが増えたのよね」
ということだった。

 「膝かっくん」と言えば立っている人の膝の裏側を何かで突ついて膝を折るいたずらを言うのが一般的だろう。そんな状態のように膝から崩れることを、義姉は言いたいようだ。

 そのときはいまひとつピンと来なかったのだが、数日ミヨ子さんといっしょにいて、とくに外泊に連れ出した中で、「膝かっくん」の場面を何回も見ることになった。

 膝に力が入らないこともあるようだが、膝痛のため力を入れられないことが大きいようだ。

 ミヨ子さんの膝痛はかなり前からで――93歳という年齢を考えれば当然かもしれない――もっと若い頃に膝を補強する手術ができなかったことを度々悔やんでいた。帰省の折りに小旅行や外出に連れ出すときも、外出先で「もういい」と立ち止まることがしばしばあった。そのときは、疲れや体力の問題だと考えていたが、膝が痛かったのだろうといまは思う。

 義姉いわく
「立ち上がって歩き始めるとき、膝の関節がうまく噛み合わないみたいなのよね」

 立ち上がる前に膝の曲げ伸ばしをすると少し軽減するようだが、全身のバランスや状態との関係もあるので、調子がよければスッと歩き出すこともあるし、かと思えば途中で歩けなくなることもある。「こうすればうまくいく」というパターン化ができなそうなのがもどかしい。

 そして、パターン化できたとしてもそれはいずれ有効でなくなる。体力も脚力も衰えていくからだ。介護の難しさを目の当たりにするにつけ、適度に見守り介助してくれている義姉への感謝でいっぱいになった。

※前回の帰省については「帰省余話」127

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