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日本の古代を学べるマンガたち

いつの頃からか、「日本はどうやって生まれたのか」「どうやって作られたのか」という謎が気になりすぎて、古代の歴史がめっちゃ好きになりました。しかしながら、専門書となると難しいし、わかりにくいものばかり。

特に古代ということで時代が離れすぎていて想像もしづらい。なので、マンガで学べないか?と思い、日々いろいろ漁っているので、ここではおすすめの古代史マンガをご紹介します!

神の代から人の歴史へ

まずは日本の創世神話からです。「古事記」や「日本書紀」はいつかはちゃんと理解したいと思っていたのですが、この『ぼおるぺん古事記』で結構理解が進みました。言葉は古語のままなのに、絵の力でかなりイメージできるようになります。

そもそもアマテラスが女性だとか、大きな構成として「天地創生」「出雲繁栄」「天孫降臨」になってるだとか、基本的なこともわかりやすい。「NARUTO」に出てくる、スサノオやツクヨミも古事記に登場します。

古事記のなによりの面白さは、「出雲」の歴史が大きく取り上げられていることです。有名な「因幡の白兎」や「ヤマタノオロチ」は出雲神話です。

そもそも古事記は日本の創世神話なので、日本の権力者のルーツを表したもの。天皇のルーツに接続されていることが重要です。なので、出雲の歴史ではなく、大和の歴史でいいはずです。

大和側の歴史でいうと、イザナミ・イザナキの二柱からアマテラス・ツクヨミ・スサノオの3貴子が生まれ、アマテラスの命により、孫であるニニギノミコトが現在の大分県にある高千穂に「天孫降臨」。神の世界である「高天原(たかまがはら)」から人間の世界である「豊葦原中津国(とよあしはらなかつくに)」に降りてくる。

神が人間界に降りてきて、その末裔である神日本磐余彦天皇(かみやまといはあれびこのすめらみこと、神武天皇のこと)が東日本を目指します。大分から東に向かうので、瀬戸内海を通り、大阪に出て、奈良へと至る道です。これを「神武東征」と呼び、古事記の後半の物語になります。神武天皇が天皇の初代なので、ここから人間の歴史に接続されます。

出雲神話の謎

以上の物語では「出雲」はまったく関係ありません。天孫降臨と神武東征だけで物語はつながるからです。

ではなぜ「出雲繁栄」という物語が結構な長さで描かれているのでしょうか?

実はこれが日本のルーツの最大の謎なのです。このことに迫ったマンガは、『水木しげるの古代出雲』です。

超簡単にいうと、「出雲」とは「大和」に負けた側の歴史です。一般には、天孫降臨=海外からきた人びと=大和をつくった人びと=勝ち組、出雲=ネイティブ日本人=負けた方の人びと、と言われています。

外からきた民族と日本古来の民族がどういう対立と和平がなされたのか。このあたりの神話を「国譲り神話」と呼びますが、いまだに謎が多い部分です。この謎について語りだすと終わらないので、ぜひこのマンガを読んでみてください。

八百万の神々に慣れるマンガ

ちなみに、歴史ではないですが、このへんの神の名前や固有名詞に慣れるためには、『ノラガミ』がオススメです。

八百万の神々がたくさんいる日本の世界観や「高天原」や黄泉の国である「根の国」に行き来する感じはわかりやすいです。決めセリフにも「豊葦原中国」という言葉も出てきますし、イザナミやタケミカヅチ、オオクニヌシなども登場します。

さらに、ちなみに「日本」の日本書紀での名称は「豊葦原千五百秋瑞穂国(とよあしはらのちいおあきのみずほのくに)」と言われています。「瑞穂の国」という呼称はここから来ています。

縄文時代のマンガが欲しい

神の歴史が長くなりましたが、一方人間界では、縄文時代、弥生時代、古墳時代と続きます。縄文が日本を作ったとも言われているので、めちゃくちゃ興味深い時代なのですが、やはり描きづらいのか面白いマンガはまだないようです。(あれば知りたい・・!)

イラストが多いものだと、『知られざる縄文ライフ』という本はライトに楽しめます。

マンガ以外だと、小林達雄さんの著作はめちゃくちゃ面白いです。

さて、古墳時代で「大王(おおきみ」という豪族が割拠し、たくさんの古墳をつくります。そこで力をつけたものが「天皇」になったと言われています。このあたりで、神話と歴史が融合します。

飛鳥時代|聖徳太子の世

時代は飛んで聖徳太子(574年-)へ。飛鳥時代と呼ばれる時代です。

これは古い作品ですが山岸凉子の『日出処の天子』が名著です。法隆寺が怒ったという"誤報"があったほどの「歴史改変マンガ」ですが、少女漫画と歴史を融合させた名作です。

このマンガでは聖徳太子は、超能力者だったりとすごくマジカルな存在なのですが、このイメージのもととなったのは、梅原猛の『隠された十字架』だと言われています。

飛鳥時代|天皇の時代へ

聖徳太子の死後、権力争いが起こります。まだまだ豪族の時代の名残で、権力の均衡が崩れやすい時代です。そんなときに、645年に「乙巳(いっし)の変」という政変が起こります。

これは中大兄皇子と中臣鎌足が共謀し、そのとき権力を握っていた蘇我氏を倒す反乱です。蹴鞠(けまり)をしている間に二人は相談し、蘇我入鹿暗殺を企てるというのは有名な話。

この企てから始まるのが、『天智と天武 ―新説・日本書紀―』です。これも名作歴史マンガです。

ここから一連の「大化の改新」が始まります。ここではじめて「大化」という元号が始まりました。日本のルーツの一つです。

中大兄皇子は天智天皇となり、中臣鎌足は藤原鎌足となり、天皇中心の政治へと日本が大きく動きます。天皇が日本の中心ということはこのあたりから浸透しはじめます。

天智天皇の死後、息子である大友皇子と弟である大海人皇子(のちの天武天皇)が争う「壬申の乱」へと進んでいきます。日本最大の叔父・甥っ子争いです。(叔父が勝ちます)

ちなみにこの『天智と天武』も梅原猛の仮説をもとに作られていると言われており、梅原論のマンガとの相性の良さに驚きます。

飛鳥〜奈良時代|日本をつくった男・藤原不比等

壬申の乱で大海人皇子が勝利し、天武天皇として即位します(673年)。この時代に藤原鎌足の息子である藤原不比等(659年生)が「日本」を作りはじめます。日本の法律のもととなる律令制や都城制、さらには「日本書紀」などをつくります。

そのあたりのことは、別のnoteで詳しく書いたのでぜひ読んでいただければですが、マンガとしては『ふることふひと』が描いています。

飛鳥〜奈良時代のスローライフ

一方で変な作品ですが、『あをによし、それでよし』というマンガもこの時代を描いています。

これは、現代で質素な暮らしが好きなミニマリストである主人公が、古代にタイムスリップし、山上憶良(やまのうえのおくら)になる、という謎設定のマンガです。質素な暮らしという共通点を頼りに、『貧窮問答歌』という貧しさを歌った作品で有名な山上憶良の暮らしを描きます。

そのときにめっちゃ性格の悪いやつとして描かれるのが上記の藤原不比等です。ギャグ漫画っぽいテイストですが、時代背景などもわかるので、ゆるく読むのにおすすめです。

奈良時代|死者の世界へ

藤原氏はさらに隆盛を誇り、藤原四家の時代に入ります。これは、藤原不比等の4人の息子が興した藤原氏の4つの家のことです。藤原北家、南家、式家、京家と呼ばれます。それぞれさまざまな発展と衰退を繰り広げるのですが、そのうちの南家の娘を主人公に描いたのが、近藤ようこの『死者の書』です。

これは独特な作品で、民俗学者である折口信夫の『死者の書』をマンガ化したものです。原作自体がとても不思議な小説で、死者の視点から描かれていたり、独特な擬音語である「したしたした、こうこうこう」という音は読む者を彼岸に連れて行きます。

物語は主人公の郎女(いらつめ)が神憑りにあい、死者の声を聞くようになります。ある老婆の話を聞くと、その声の主は50年前に謀反の罪で斬首された滋賀津彦(しがつひこ)という人物だったということがわかります。その無念を晴らすため、郎女は曼荼羅を編み始めます。

こんな不思議な話しですが、実はその曼荼羅は、実際に奈良の当麻寺というところに収蔵されています。「当麻曼荼羅」と呼ばれ、いまでも見ることができます。この物語は「中将姫伝説」とも呼ばれています。

これはフィクションなのか、実話なのか。気になりすぎて、実際に奈良に行って、当麻曼荼羅を見に行きましたが、このマンガを読んでいくと不思議な感情が湧き上がります。

平安時代|かっこいい貴族の活躍

さて、794年の平安遷都から平安時代が始まります。平安時代といえば、源氏物語の世界。綺羅びやかなな貴族たちの世界です。有名なマンガはみんな大好き『あさきゆめみし』ですね。

源氏物語の主人公・光の君は在原業平がモデルになったと言われていますが、この在原業平と平安の有名人・菅原道真が主役のマンガが『応天の門』です。

これは、この二人をメインにしたバディもののクライム・サスペンスです。歴史背景もわかりつつも、普通に面白い事件解決マンガです。ちなみに、上の表紙の左のおじさんが在原業平で、右の少年が菅原道真です。「鬼」が悪さをして、殺人事件などが起こり、それをホームズ・ワトソンよろしく解決していく作品です。(「応天門の変」とはあまり関係ないみたいです)

平安時代|鬼や呪いが跋扈する

この時代は「鬼」や「呪い」などが跳梁跋扈する時代でもあります。祟りやあやかしの類が悪さをします。そこで出てきたのが陰陽師でした。古代日本の律令制下において中務省に属した官職の1つです。祟りで人が死んだり、都は退廃したりした時代です。

有名なのが、こちらもみんな大好き安倍晴明(921年-1005年)ですね。現代の鬼や怨霊、呪い系のアニメ、マンガのルーツでもあります。「安倍晴明の子孫」という設定は無限にあります。その安倍晴明を有名にしたのが岡野玲子の『陰陽師』です。原作は夢枕獏の同名小説です。

稀代の魔術師と恐れられた陰陽師・安倍晴明が都の怪異に挑む作品です。第一話では菅原道真の怨霊に少年晴明が出会う物語。「応天の門」で神童だった菅原道真がすでに怨霊になっています。ちなみに、日本のツートップ怨霊は菅原道真と平将門ですね。(怨念がすごい)

全然歴史ではないですが、そういう鬼や呪いや怨霊に関連するマンガは数限りがありません。「鬼滅の刃」も「呪術廻戦」も「シャーマンキング」も「ぬらりひょんの孫」も「BLEACH」も、日本の少年漫画は安倍晴明と怨霊によって支えられてると言っても言いすぎじゃないかもしれません。

平安時代|摩訶不思議な密教世界

少し時代をさかのぼりますが、この時代は仏教もより発展します。遣隋使や遣唐使の派遣が続くなかで、中国仏教が日本にどんどん入ってきます。そこで生まれたヒーローは空海(774年-835年)です。この空海に焦点を当てたのがおかざき真里の『阿・吽』です。

これはまだ続刊中ですが、すでに名作です。

空海と最澄を主人公に、空海が唐に渡る直前から描かれます。「密教」という独特の宗教スタイルを作り出す空海は、何を考え、何を創造したのか。

とてもダイナミックに、とても丁寧に描かれています。中国でゾロアスター教と出会っていたり、密教という摩訶不思議な世界観を、おかざき真里がすごい筆致で描いています。少年空海が世界最先端の知である中国文化を貪欲に追い求める姿に毎回ドキドキします。

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日本の「古代」は平安時代までなので、鎌倉以降は中世ということで、今日はここまでにしたいと思います。

この先も『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』という仏像マンガや、『アンゴルモア元寇合戦記』という元寇を題材にしたマンガ、『へうげもの』のような茶の湯の世界を描いたマンガなど、たくさんの作品が登場します。特に戦国、幕末系は無限です。

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日本の歴史、特に古代史はなかなかわかりにくいものですが、マンガで学んでみると、きっと楽しめると思います。古代はミステリーが多いので、まだまだ描かれていない部分も多いはず。これからの新作にも期待したいと思います。


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