見出し画像

#25ベストショットはキメ顔で。

先月、成田山に観光に行ったときのことです。休日をさけて平日に出かけたのですが、神社の鳥居まで長くつづく参道には、いろいろなお店が軒をつらねて、お客さんもにぎわいをみせていました。

成田山はうなぎの蒲焼が有名らしく、うなぎ料理屋さんの店先で、若い男性の職人さんたちが白衣に身をまとい、さばいたうなぎを網の上にのせて焼いている様子を見ていると、なんだか江戸時代にタイムスリップしたような気分まで味わえます。

いよいよ神社に進んでいき、お詣りをすませると、神社仏閣の大好きなテル坊は、探索に出かけていきました。なまけもののわたしとミドリーは早速ベンチを見つけて、腰をおろします。天気もよく、外国人の観光客も大勢いました。境内のあちこちで、写真を撮っている姿はほほえましいものです。

「すごいね、みんなポージングしてる」
となりに座って、まわりを観察していたミドリーがささやきます。そうなのです。アジア系観光客の写真撮影の現場は、はたで見ていて、とてもエキサイティングです。どの人も、キメ顔、キメポーズでカメラに向かっています。モデルさんが現場で撮影しているのを、間近で見せてもらっているような気持ちになります。

と、わたしたちのすぐ近くで、やはりアジア系の女性の集団が、大きな銀杏の木の前で、写真撮影をはじめました。他の女性たちが、
「いいわよ、はい、にっこり笑って」
「もう一枚いくわよ」
などと声をかけながら、一人ずつ写真を撮っているのです(外国語なので、本当は何といっているのか、分からないのですが)。一人が終わると、みんなが近寄り、撮った写真を確認しては満足そうにうなづきあっています。そしてまた次の人にバトンタッチ。

「あのパワーはすごい、どこからそんなやる気がわいてくるのだろう」
老婆のような心境で、彼女たちの写真撮影がおわるのを見届けた後、ふと思い立って、
「ねえ、せっかくだから、わたしたちも銀杏の木の下で写真とろうか」
と、ミドリーに声をかけました。
「いいよ、やめとくよ」
ミドリーはやんわり断ります。写真なんて、撮る場所をかえても、モデルが同じだったら大した違いはない。そう思っているのは明らかでした。

わたしはサササッと走って、先ほどまで女性たちがカメラを構えていた場所から、銀杏の木のほうに向けて、スマホをのぞいてみました。
「うわ、めっちゃ綺麗!」
周りの雑多なものは、画面に入りこまず、太くて立派な木の幹と、黄色に色づいた銀杏の葉、葉のすきまから差し込む日の光だけが、上品に写り込んでいるではありませんか。

さっそく、わたしとミドリーがそれぞれ、一人ずつ写真を撮ってみると、おどろくほどいい写真が撮れていました。ふたりともはにかんだ笑顔。さきほどの女性たちのキメ顔の貫禄には、ほど遠い仕上がりではあるものの、日頃惰性で撮っている写真とは雲泥の差、とてもよい記念写真になりました。

自分が人からどう見られているかを気にしすぎずに、自分の姿をありのままに楽しもう。そんなアジア女性たちの心の持ち方を、もっと見習おうと思った出来事でした。

さいごに、神社の境内をひとまわりしてきたテル坊がもどってきました。
「ちょっとここに立ってみてよ。写真を撮ってあげるから」
「え…(苦笑)」
はじめは、遠慮するかのような反応をしてから、テル坊が銀杏の木の前に歩いていきました。そして、わたしがスマホを向けた途端、すっと両腕を腰にあててポージングするではないですか(なぜか男の人は、写真を撮られるときに、手を腰にあてる人が多いような気がします)。人はだれしも、ステキな自分で写真の中におさまりたいものなのですね。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。サポートしていただけるなら、執筆費用に充てさせていただきます。皆さまの応援が励みになります。宜しくお願いいたします。