宮本松

身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイにまとめています。読んでも…

宮本松

身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイにまとめています。読んでもらえるとうれしいです。娘のミドリー、再婚夫のテル坊、息子のドラちゃんなどの家族が登場します。2024年9月22日からは童話も含め、出来れば週3回の配信予定で、無理なく楽しく続けていきます。

マガジン

  • ながいお話。

    動物たちも登場する、ちょっと不思議な世界のお話です。長めのストーリーは分けて掲載しています。

  • かぞくの日常。

    再婚相手のテル坊、娘のミドリー、わたし、時々やってくる息子のドラちゃんとの小さな出来事。

  • みじかいお話。

    こどもの頃の体験や空想をもとに、5000字くらいのお話を作りました。短めのストーリーのものを掲載しています。

  • 親子のあれこれ。

    息子ドラちゃんと娘ミドリーとわたし、三人の思い出話。

  • 両親とのあれこれ。

    年をとってきた両親との思い出や介護にまつわる出来事。

最近の記事

  • 固定された記事

#45弱ったときは鯖の塩焼き。

「ああ、そろそろまた鯖の塩焼きでも食べたいな」 魚売り場にちかづくと、ショーウィンドウに並んだ魚の切り身たちを前に、何人もの人たちが顔をちかづけて品定めしています。魚の値段はひと昔前にくらべると、ずいぶん上がりました。地球温暖化やさまざまな条件が重なり、以前のように当たり前に、大きな切り身を手ごろな値段で手に入れることはできなくなりました。うなぎも、秋刀魚も、我が家の食卓にあがるのは年に一度程度です。 鯖の塩焼きは、わたしが育ち盛りの子どもだった頃から口にしてきた定番のおか

    • 黄色いドレス。(3)

      「まあ、ほんとうにすてき!」 仕上がったワンピースを見て、少女はとても満足そうにいいました。 「この服があれば、もう何も心配することなく、おどることができそうです」 「それは良かったです」 ヨシダさんもホッとしました。少女は、何度もふり向いてはにっこりとおじぎをしながら、かえっていきました。 (ああ、仕事がおわってしまった) 少女を見送ったあと、ヨシダさんは心にぽっかりと穴が開いたような気がしました。 ところが不思議なことに、その数日後、また別の少女が衣装をつくってほしい

      • #136鳥かごのとり。

        気持ちが少し沈みがちな時、心は未来に向かうよりも過去に向かいがちです。楽しかった思い出を懐かしがるというよりも、だれとも共有していない、心の中にしまってある出来事が、不意に脳内によみがえってくるような…。 今日はそんなに暗いお話をするつもりでもないのですが、ちょうど一年前の今頃から、子ども向けのお話を書き始めたので、その当時のことを振り返ってみたいと思います。 子どもの頃にではなく大人になってから、本格的に児童文学と出会い、多くの物語を読み、楽しみ、自分でも何かしらのお話

        • 黄色いドレス。(2)

          それにしても…今年のあつさは特別です。山のふもとのこの町は、ふだんは山からすずしい風がおりてきて、夏でもひんやりとすごしやすいのです。でも今年はすこし様子がちがいました。町内のスピーカーから、熱中症に注意をしましょうと、連日のように放送がながれてきます。ヨシダさんのお店はエアコンがついていません。入り口の窓をあけ、せんぷうきを回して暑さをしのいでいます。 「ごめんください」 ある日の夕方、お店の入り口から若い女性の声がきこえました。うら庭で水まきをしていたヨシダさんは、あわ

        • 固定された記事

        #45弱ったときは鯖の塩焼き。

        マガジン

        • ながいお話。
          31本
        • かぞくの日常。
          44本
        • みじかいお話。
          18本
        • 親子のあれこれ。
          5本
        • 両親とのあれこれ。
          12本

        記事

          黄色いドレス。(1)

          朝早く、黄色い帽子をかぶった小学生たちがにぎやかにおしゃべりしながら、小さなお店の前をとおりすぎていきます。 「子どもたちは、今日も元気そうだ」 店の中から子どもたちの様子をやさしいまなざしでながめているのは、ヨシダさんです。 ヨシダさんは、洋服の仕立屋さんです。この場所にお店をひらいてから、もう何十年にもなります。ヨシダさんの故郷は、ここから遠くはなれた田舎にありました。ヨシダさんは子どもの頃から、うつくしいものを見るのが何よりも好きでした。きらびやかな東京へいきたいとい

          黄色いドレス。(1)

          #135切り干し大根を煮る。

          このnoteに何度も泣き言を書き連ねながらも、身体は少しずつ元気を取り戻しつつあります(今週の水曜日にレントゲンを撮り、骨の状態を確認したら、いよいよ本格的に腕を動かす自主トレを始める予定です)。左腕を挙上することは出来なくても、軽く物に添えたりすることはできるので、台所に立って夕食の副菜を作れる日も増えてきました。 週末の朝、娘のミドリーはバイトに出かけ、テル坊は昼近くまでゴロゴロ眠っているので、戸棚からガタゴトとお鍋を取り出し、切り干し大根を煮ることにしました。一年ほど

          #135切り干し大根を煮る。

          河童の話。(3)

          目を覚ますと、シマ子は滝つぼのそばに横たわっていた。 「あれ、わたし、どうしたんだ?」  顔だけあげて辺りを見回すと、キュリー先生が滝つぼに足をつけてすわっていた。服は着ていない。頭の上は平坦で髪が生えていない。やっぱりお皿があるのだ。 シマ子のたてた小さな物音に気づいた先生はすっとふり返り、ペタリペタリとがにまたで近づいてきた。シマ子の肩をさすりながら、 「だいじょーぶか?へーきか?」 と、心配そうに顔をのぞきこんでくる。身体はキミドリ色で、人間に比べると平ぺったく見える

          河童の話。(3)

          #134 単純でやさしい幸せ。

          この頃わたし、メンタルの方が落ちてきてるのよと、テル坊に話してみました。毎日のように、腕が痛くなってきただの、疲れたから横になりますだの弱音を吐いているにも関わらず、「メンタルが・・・」っていうのは、伝えているようで伝えていなかったのです。家族でも、身近にいる人であっても、何もかもを共有しているわけではありませんから。 家事を分担してもらって、テル坊にもミドリーにも助けられている毎日です。ありがたいなと思う一方で「申し訳ない」という気持ちも湧いてきますし、「一体いつまでこん

          #134 単純でやさしい幸せ。

          #133緩まるスキル。

          先月、左腕を怪我をしたことをきっかけに、日々身体についてあれこれと調べ物をしたり、軽いストレッチを試したりしているわたしですが、先週からようやく40分程度の散歩を楽しめるようになりました(パチ、パチ、パチ、拍手の音)。 それまで、必要に迫られてスーパーに買い物に行ったり、図書館に出かけたりすることはありましたが「ただ散歩するために家を出る」ということが出来ませんでした。家までフラつかずに戻ってこれるかどうか心配でしたし、道路を走っている車を見てもまだドキドキするし、横断歩道

          #133緩まるスキル。

          #132二年目の畑作り。

          先日、一ヶ月半ぶりに車で20分ほどの市民農園に行ってきました。今年は七月から猛烈に暑くなったので、暑いのが苦手なわたしは草取りなどの畑仕事をテル坊に任せっきりにしていたのです(自分から市民農園を借りようと言い出したくせに、すぐに人任せにするとんでもない奴(=わたし)です)。 「わあ、里芋がとんでもないことになってる!」 梅雨に植えた里芋が、今やわたしより背丈が伸びて、隣の畑の区画に大きな影を落とすほどに大きくなっていました。ゴロリとした種芋を等間隔に植えて、しばらくの間はう

          #132二年目の畑作り。

          河童の話。(2)

          他の子どもたちがキュリー先生に心をゆるしても、シマ子だけは先生のことを信頼できずにいた。目の前で、傷の手当てをしたりお腹の痛みをやわらげるのを見ても、シマ子には納得できないことがあった。 (なぜ皆は、キュリー先生がカッパかどうか気にならないのだろう?) シマ子には不思議でならなかった。カッパが悪さをすると決めつけているわけじゃない。キュリー先生がきらいなわけでもない。だからといってカッパが人間と同じように暮らしているって変じゃないのか。 (どうしてカッパが、人間の学校ではた

          河童の話。(2)

          #131応募シールを集める。

          まだ30代の頃、ちょっとした楽しみに食品についているシールや応募マークを集めていたことがあります。子どもたちが小学校でベルマークを集めていたので影響されたのでしょう。残念ながら一度も当たったことはありませんでした。わたしの日頃の行いが良くないからでしょうか(笑)。 今回、久しぶりに丸美屋の応募券を集めています。ティファールの調理用具が毎週100名に当たるからです。全部で6枚の応募券が必要で、わたしはあと残り2枚を手に入れなければいけません。よく購入するのは麻婆豆腐の素なので

          #131応募シールを集める。

          #130リハビリ通い。

          左肩にほど近い上腕骨を骨折してから約1カ月、今は週に一回、リハビリに通っています。まだ自分の力では肩を動かしてはいけない段階で、自宅で積極的に行うようにいわれているのが、振り子運動と肘・手指の運動です。 <振り子運動>立って行う。 ①怪我をしていない手を使ってテーブルなどで体を支え、腰を曲げながら怪我した腕を地面に向かって垂らします。この時、肩の力は完全に脱力します。 ②慣れてきたら体を前後左右に振り、腕を振り子のように動かします。 これはYouTubeでも検索すると出て

          #130リハビリ通い。

          #129ほっこりポニョ。

          この夏、暑くなり始める前から、わたしはジブリ映画をいくつも観ていました。もう何度も観たことがあるのに、何度みても「ううっ」と心が揺さぶられる、それはどういう理由からなんだろうと思って。 子ども向けのお話作りを自分の課題にしているわたしにとって、主人公がどんな風に描かれているのか、物語の展開がどう進んでいくから観客の気持ちが引き込まれるのか、知りたいことは山ほどあって。でもただ面白がって観ているだけでは、肝心要の部分はいつまで経っても見えてこないんですよね。 「魔女の宅急便

          #129ほっこりポニョ。

          河童の話。(1)

          <1> もう何十年も前のことだ。町から遠くはなれた山奥に小さな村があり、その集落ではほとんどの家が田畑を耕したり、木を切って売ったかせぎで暮らしていた。村の中には小さな小学校があった。子どもはぜんぶで12人しかおらず、先生も校長先生を含めて5人だけ、子どもたちは上級生と下級生の二つのクラスに分かれて勉強していた。 シマ子はおてんばな女の子だった。気が強いだけじゃなく、ガキ大将の男の子と相撲をとっても負けないくらい力も強かった。先生たちもシマ子には一目置いていた。シマ子はだ

          河童の話。(1)

          #128忘れられない日。

          本当は8月中に投稿しようと準備していた記事です。9月になりましたが、せっかくなのでアップしたいと思います(笑)。 カレンダーを見ると心がドキッとします。 「今日は8月3日だ」 その日を忘れずにいるわたしは、今年53歳になるのですが、小学校四年生の頃の出来事がよみがえってくるのです。 その日は当時担任だった女の先生(K先生)と、もう一人三年生の時に担任をしてくださった男の先生(E先生)の、お誕生日だったのです。今の時代は、個人情報を守ると言う大義名分もあり、学校の先生の住所

          #128忘れられない日。