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#85手ごわいクッキー。

「うーん、これを買うべきか、買わざるべきか」

今日もへんなおばさん(わたし)が、スーパーのお菓子売り場で腕組みしながら、考え込んでいます。どうやら品物選びが難航しているようです。ちょっと声をかけてみましょう。

「どうしましたか?」(リポーター役のわたし)
「お菓子が日に日に値上がりしていくし、持ってみると中身も軽くて。買おうかどうしようか迷ってるんです」(お客さん役のわたし)
「もし、購入されない場合は、どうするご予定ですか?」
「そうですねえ、その場合は自分で作るしかないでしょうね」
「ご自身で作れるんですか?」
「ええ、まあ。10年以上前にはけっこう作っていたんですよ」

そんなわけで、物価の高騰を理由に、スキマ時間を利用しておやつでも作ってみるかと考えたわたしは、手始めにクッキーを焼くことにしました。

(あれは簡単だった。ちょちょっとやれば、すぐに出来た)

せっかく自分で作るなら、身体に良さそうなヘルシーなものにチャレンジしたい。「まいにち食べたい、ヘルシークッキー」という言葉と可愛らしいクッキーの写真の掲載された本を図書館で見つけて、これに挑戦しようと即決しました。

「どれどれ、薄力粉が何十グラムに、きび砂糖が何十グラムっと」

分量をきっちり計って、大きなボウルに入れます。バターの代わりに菜種油を大さじ2杯入れてっと。これをただ混ぜるだけでいいのか。

ガシガシ、ガシガシ。

なあに?固まらないぞ。混ぜても混ぜても固まりません。粉がこなこなしたままです。
「仕方ない。ちょっとお水を入れよう」
レシビには大さじ1杯の豆乳を入れると書かれていましたが、あいにく我が家の冷蔵庫に豆乳は常備されていません。水をちょっと垂らし、ガシガシ。もうちょっと垂らし、ガシガシ。何度も垂らしていくうちに、一体どのくらい水を入れたのか、自分でも分からなくなってしまいました。

「あ、固まってきたぞ」ようやく固まりました。型抜きクッキーみたいに冷蔵庫で冷やさなくてもよいとのこと。では早速オーブンで焼いてみよう。170度で余熱したオーブンで15分間。チーン。あれ、クッキーから水がしみ出てる。お水を足しすぎたせいかな。もうちょっと焼いてみようか。オーブンでさらに10分。それからもう10分。クッキーの周りには、まだシュワシュワと蒸気が残っています。ま、いいか。冷やせばなんとかなるだろう。焼き色のついたクッキーを触ってみると、「うわ、固い」

その夜、食後の珈琲タイムがやってきました。
「今日は特別なおやつを準備したよ。でもね、ちょっと固くてさ…。はしっこからちょっとずつ齧ってみて。歯が折れるかもしれないから、絶対にガリッといっちゃダメだよ」
神妙な面持ちで、テル坊、ミドリー、わたしのそれぞれがお皿にならんだクッキーを口に入れます。

「わ、齧れない…」
がんばって作ったクッキーでしたが、無残にもゴミ箱行きとなりました。
「なんで母ちゃんはレシピ通りに作らないの。いつも自分で創作料理みたいにしちゃうんだから」
と、ミドリーにお叱りを受けてしまいました。

それから数日後、わたしはリベンジを試みました。
「どうしてリベンジしようと思われたんですか?」(リポーター役のわたし)
「だってヘルシークッキーを作るために、わざわざ菜種油も米粉も買ってしまったので。勿体ないじゃないですか」(お客さん役のわたし)

(今度はきな粉を使ったクッキーにしよう。これならきっと大丈夫)

レシピ通りにやることを肝に銘じながら、わたしはまた全ての材料をボウルに入れて、ガシガシと混ぜ始めました。なんだい、一体なんなんだよ。全く固まらないじゃないか。粉は、菜種油を入れるとほんの少しだけ「固まってやろうか?」という素ぶりを見せたものの、すぐにバラバラの粉に戻ってわたしの指先を滑りおちていきます。

(どうしよう?)痺れを切らしたわたしは強硬手段に出ました。粉っぽいままオーブン皿にクッキングシートを敷いて、その上に粉をひきつめたのです。チーン。レンジを開けると、香ばしいきな粉の香りが台所に広がります。

「どうだった?」(ミドリー)
「…粉のままだよ」(落胆したわたし)

どこからどうみても、これは単なる焼き色のついたきな粉と小麦粉を混ぜあわせた粉です。クッキーを食べているつもりで、この粉を口にすることは、とても出来そうにありません。というわけで、焼けた粉たちもゴミ箱に送られていきました。なんでも適当がモットーのわたしみたいな人間には、クッキーも意外と手ごわい相手のようです。




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