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【読書録】『ヒトコブラクダ層ぜっと』万城目学・著

久しぶりに本を読んだ気がした。

いや違う、本はずうっと読んでいた。小説だけだって最近も『正欲』(朝井リョウ)は2回読んだし『推し、燃ゆ』『かか』(宇佐見りん)も読んだ。『空白を満たしなさい』『ある男』(平野啓一郎)も読んで感想を書いて書けなくてnoteに下書きが埋もれている。

けれど、せめて上巻を読み終わるまで...と気づけば夜中の3時だとか、読み終わって無邪気に楽しかった!と言える自由な「物語」を、暫く読んでいなかったのかなあとは思う。

元々、万城目学さんの著作のファンだ。『鴨川ホルモー』にはじまり『偉大なる、しゅららぼん』までは単行本すべて読んでいるし『ザ・万歩計』『ザ・万遊記』といったエッセイもとても良かった。小公女の話とか頷きどころばかり。

やや離れて6、7年ほど前に『バベル九朔』でおや?と、印象が違う気がして流し読みになり、さらに離れていて。

だから『ヒトコブラクダ層ぜっと』は結構久々に手にした万城目本で、それでいてやっぱりすごく面白いんじゃん!と嬉しくなっていたら、読了翌日、万城目学氏『八月の御所グラウンド』で直木賞受賞のニュースがあった。最高だ、ようやくだ。

ヒトコブラクダ層ぜっと

万城目ワールド、
ついに海を越えて世界へ!

梵天、梵地、梵人(三つ子)。その特技は
泥棒、恐竜化石発掘、
メソポタミア、未来予知。
彼らが向かった先(イラク)に待つものは!?

貴金属泥棒で大金を手にした三つ子の前に、ライオンを連れた謎の女が現れたとき、彼らの運命は急転する。わけもわからず向かわされた砂漠の地で、三つ子が目撃する驚愕の超展開とは!? 稀代のストーリーテラー・万城目学が挑む、面白さ全部載せの物語。アクションあり神話ありでどのページからも目が離せないジェットコースターエンターテインメント!

幻冬舎作品ページより(https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344037991/)

恐竜?メソポタミア?ライオン連れの女?この時点で訳がわからない。
実際、読み出したら、奇妙奇天烈な登場キャラが摩訶不思議なシチュエーションで繰り広げる奇想天外なストーリーという「万城目ワールド」が全開になっていてほぼ一気読みだった。

ザ・エンタメ。

万城目ワールドには、オニや”ぜっと(ネタバレになるのでこれが何かは内緒)”などといういわばキワモノが出てきたり、理不尽な態度の嫌なやつも出てくる。重火器でドンパチやったり、呪いだとか隕石落下だとかかなり危ない目にも合う。でも、そこに猥雑さや暗く殺伐とした感はない。眉間にしわを寄せて読むのでなく、眉を上げ目を見開いて文字を追ってしまう。

それは「万城目ワールド」が荒唐無稽で盛大に広げられた”ホラ話”でも、人を食ったような態度では決して無いからだろうなと思う。謙虚さ?育ちの良さ?なのかなあ。

以下の、インタビューで「万城目ワールド」という作風についてご本人の仰りようが愉快です。

僕が書く話は数字の2、4、6、8のように2で気持ちよく割り切れる感じのものが多いけれど、たとえば『バベル九朔』は√(ルート)2なんですよね。いつまでも割り切れない。こっちはひとつの表現として割り切れないものを書こうとしているから、それは当然なんですよ。でも2で割り切れる作品を求めている読み手にしてみたら、割り切れないのは気持ち悪い。『バベル九朔』のみんなの感想を聞いて、√2はこんなに嫌われるのかと思いました。

幻冬舎ルネッサンス 特別連載インタビュー より

『ヒトコブラクダ層ぜっと』は万城目さんいわく、「あらゆる局面が2で割り切れる」話なのだそう。確かに。

でもね、たまにそういうのをやりたいんですね。それまで2で割り切れる話しか書けなかったけれど、どうも自分の中で√2を表現できる力があると分かってきて『バベル九朔』を書いたんです。次に√3を書いて、その次に√5,√7を書いたらファンが消えていくことは分かっています(笑)。それはしないので、せめて10年に1回くらいは√2の話を書かせてください、と。

幻冬舎ルネッサンス 特別連載インタビュー より

あははは!
直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』を含めた未読小説をこのあと読みたいのは勿論なんだけれど、せめて10年に1回くらいはという(笑)√2の表現『バベル九朔』も再読トライすることにしようっと。


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