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私、失敗しないので、白玉団子。

 お正月用のお餅はとっくに食べ尽くしたのに、あずき缶が残ってしまった。もう一度切り餅のパックを買っても良いのだが、店頭のはたいがい1パックに1kgも入ってるので、今度はお餅が余って食べきる前に飽きてしまいそうだ。どうしようかな、と、迷っていたら、スーパーでたまたま”白玉粉”が目に入った。そうだ、白玉団子を作って、白玉あずきか白玉ぜんざいにすればいいじゃなかと思いつき、そっちを買うことにした。

 白玉粉は昨年梅雨明け頃、品薄だったそうで、確かに、白玉団子は簡単に出来るから、ステイホームの時期に子供と一緒につくる手作りおやつにはもってこいだろうと思う。その前にはホットケーキミックスが品薄だったっけ。

 だが私は白玉団子には苦い思い出があり、少し前まで、この白いツヤツヤぷるぷるした団子が苦手だった。

 もう一度言う。白玉団子をつくるのは、簡単だ。材料は白玉粉と水だけ。混ぜてこねてちぎって丸めて茹でて冷やせば完成。あんこをつけるも良し。蜜をかけるも良し。フルーツ缶に混ぜてフルーツ白玉にするも良し。とってもお手軽で、美味しい。・・・はず。

◇◇◇

 中1の頃、軟式テニス部の仲間8人で集まり、白玉団子を沢山作って思う存分食べようという計画をたてた。覚えてないけど、巷で白玉なんちゃらが流行ってたのかもしれない。休日に(夏休みだったかな)、部員の1人のお宅にお邪魔して作ることにした。8人もの女子が休みにワイワイ台所を占拠するのを許してくれたのだから、家も心も広いご家庭だ。

 お小遣いからお金を出し合い、沢山の白玉粉と、ゆであずき缶とフルーツ缶を買った。そして、意気揚々作り始めた。

 さて、その頃の私たちの中に、白玉団子の作り方をちゃんと知っていた子がいただろうか、多分いない。30年前は、クックパッドも無く、白玉粉の袋に懇切丁寧に作り方が載ってたりもしないから、誰かがお母さんにきいてきたという作り方のメモを参考に作った。どうやら「すごく簡単」らしいので大丈夫だよーって。でも「耳たぶくらいの柔らかさ」って何?私の耳たぶ薄くて小さくて、感触が味わえるところが無いから全く参考にならないんだけど。

 とにかく買ってきた粉をいくつかのボールに全部あけた。水と混ぜてひたすらこねる子。それを、ちぎって丸める子、片っ端からお鍋に放り込んで茹でる子、浮かんできた白玉を掬って氷水で冷やす子・・・。最初は良かった。初回のターンで出来たのを、各自、白玉あずきやフルーツ白玉にして3、4個食べる。いいじゃんいいじゃん!残りもどんどん作ろう!

 「ねえねえ、でかいの作ろうよ。ちまちま茹でるの面倒だし。大きいの食べてみたいよね。」

 誰がいい出したのか。全員、そうだそうだと頷いた。そこで、こぶしより大きな白玉(白塊?)を作って平たくし、普通の白玉を茹でていたのとは別のお鍋に放り込んだ。白玉の形状はまるで新品の軟式テニスのボールに強スピンをかけた時みたいだった。そういや、ラケットで回転かけてボール打つ時「モルワイデ図法〜!」とか言ってキャッキャしていたな。

 気がついた時には、できあがった白玉団子がお皿に山盛りになってしまっていた。けれど、既にみんなお腹いっぱい。そりゃあそうだ。白玉団子なんて、しらたまとか可愛いふうだけど、がっつり団子だ。10個も20個も一気に食べるようなもんじゃ無い。そして、フルーツ缶もゆであずき缶も、もう残り僅かだった。中1のお小遣い程度では、この山盛りの白玉団子に見合う量のフルーツ缶やゆであずき缶は、全然買えなかったのだ。

 正気に戻った私たちに、なお悪いことに、モルワイデ図法巨大白玉団子が、お鍋の底から一向に浮かび上がってこないという問題がふりかかってきた。

 どうして8人いて誰も、こんな大きな団子はそう簡単に茹で上がるわけがないということに気が付かなかったのか。仕方なく、浮かんでこないまま救い出した巨大な白塊は、外側は白玉団子めいた食感になっていたものの、中は案の定、ほぼ生だった。当然、不味い。しかも、こねが甘かったのか、やたらぽそぽそ粉っぽい。めちゃくちゃ不味い。全員で少しづつ食べ、なんとかして消費しようとしたものの、お腹を壊しかねない、これ以上食べたらあかんやつ、と判断してごめんなさいした。残りの普通の白玉団子は、手分けしてアルミホイルに包んで持ち帰ることに。時間がたった白玉団子は美味しくなかった。

 美味しい白玉団子は、子供が簡単に作れるもんじゃないんだね。

◇◇◇

 そんな大失敗のせいで、イマイチ好きになれないでいた白玉団子。だが、数年前に、作る機会があった。甥っ子が白玉団子が大好きだと言うので、どれどれ、じゃあ一緒につくってあげようかと、白玉粉の袋に書かれているとおりの分量と手順で作ってみたのだ。

 混ぜてこねてちぎって丸めて茹でて冷やせば・・・。なんだなんだ、これ、超簡単なんだけど。たっぷりとあんこをつけたり、蜜をかけたり、フルーツに混ぜたり、きな粉をまぶすのも良い。とってもお手軽で、間違いなく美味しい。失敗する余地、全く無い。そりゃ、誰かのお母さんも言うはずだ。「すごく簡単」だもの。

 いつの間にか、私もそう言える大人になれてた。きっと、今はあのときの8人全員口を揃え、白玉団子は「すごく簡単」って言うだろう。

 週末のおやつは白玉団子に決定だ。私、失敗しないので、白玉団子は。



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